牛のゲップから温室効果ガスが発生する
地球温暖化は確実に進んでいます。昔に比べて暑くなったという実感は、私だけでなく多くの人にあるはずです。
私が経営する朝霧メイプルファームでは、牛を450頭飼養しています。牛は暑さにめっぽう弱いので、数年前扇風機を倍増しました。
人間の社会活動によって生み出される温室効果ガスの大半を占めるのが石油や石炭を消費する際に排出される二酸化炭素ですが、その25倍もの温室効果があると言われているのがメタン。牛のゲップにも含まれており、世界中の牛が出すメタンは二酸化炭素に換算すると全温室効果ガスの約4%を占めると言われています。
そもそも牛からメタンガスが発生するのはなぜなのでしょうか?
そこには牛の第一の胃であるルーメンが関係しています。
牛は私たち人間のように食べたものを直接エネルギーにするのではなく、ルーメン内にいる微生物が飼料を発酵させるときに出る「揮発性脂肪酸」をエネルギーとして吸収するのです。しかし、発酵の過程で二酸化炭素や水素、そしてメタンが発生します。それがゲップや呼吸とともに排出されるのです。
われわれ人間が人前でゲップをするのはマナー違反になるので我慢すればいいのですが、牛の場合、そうはいきません。牛を飼っている身からすると、温暖化の犯人扱いされるのは心苦しい思いがあります。
そのような状況下で、メタンを減らすことができる飼料として今注目されているのがカシューナッツ殻液です。
カシューナッツ殻液でメタンを減らす
カシューナッツ殻液は名前の通り、ビールのおつまみや中華料理で使われるカシューナッツを包んでいる殻を搾って出た液体です。これを配合した飼料がガソリンスタンドでおなじみの出光興産株式会社から、ルミナップという製品名で販売されています。
このカシューナッツ殻液に含まれる有効成分が、ルーメン内でメタンを発生させる菌を抑制することが分かっています。カシューナッツに限らず、植物は環境中の病原菌や昆虫などから自らを守る必要があります。特定の菌に対して生育を抑制するはたらきをうまく使って、餌に混ぜる形でルーメン内環境が健康な状態を維持できるようにしているのです。
カシューナッツ殻液のすごいところは、牛にとって悪い菌を抑制し、エネルギーとして利用価値のあるいい菌には作用しないところにあります。
前述したとおり、牛はルーメン内で餌を発酵させ、その発酵によってエネルギーを得ています。牛にとっていい菌まで抑制してしまっては意味がありません。
また、カシューナッツ殻液がメタンを抑制することで、牛のエネルギーを生み出す菌が増えることも分かっています。
牛の健康のための取り組みが、環境問題対策にも役立つ
元々朝霧メイプルファームとしてルミナップを利用開始したのは、温室効果ガスを減らす目的ではありませんでした。
あくまで牛を健康にし、結果として利益を増やすために2013年から給与を始めました。
カシューナッツ殻液がどのように牛に対して効果があるのか、ある程度は知識として有していましたが、現場で重要なのは結果です。本格的に採用する前に、試験として一定期間給与したところ、下図の通り、給与前と給与後の牛の乳量、繁殖成績などにいい影響があると判断しました。
給与を始めてから数年がたち、近年温室効果ガスの問題としてカシューナッツ殻液が注目され始めてから、いわば副次的に環境にもいいと分かったのです。
環境によく、経済的にもいい。そうでないと持続可能な試みとは言えません。
これからの環境問題について考えていこう
牛が排出するメタンガスは、二酸化炭素換算で地球全体の温室効果ガスの4~5%を占めます。その数字が多いかどうかは個々の受け止め方によって変わるはずです。ちなみに日本ではほかの国に比べて牛の飼養頭数が少ないので、国内での割合は0.5%以下だと推定されています。
牛の影響が少ないと言いたいのではありません。
地球温暖化の本質的な原因は、人口増加にともなって人間の生産活動もどんどん盛んになり、その結果地球上の温室効果ガスの排出が増えすぎてしまったことにあると思います。この産業が悪い、と一部の人を非難するのではなく、人類全員が取り組まなければならない問題だと捉えることが必要なのではないでしょうか。
私たちは、人間が行うすべての活動において、温室効果ガスを減らす努力をしていかなければなりません。
牛は暑さに弱く、このままいくと牛を飼養できる場所はどんどん減っていきます。
牛は私たち人間が食べられない草を乳や肉に変えてくれる、貴重な存在です。この地球とうまく付き合うために、環境のことも考えながら牛を管理していきたいですね。