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現場のニーズが生んだピーマンの自動収穫ロボット 自社農場でロボットの最適解を導き出す

山口 亮子

ライター:

現場のニーズが生んだピーマンの自動収穫ロボット 自社農場でロボットの最適解を導き出す

ピーマンの一大産地でありながら、収穫期の人手不足に悩まされてきたのが宮崎県新富町だ。「ロボットが必要だね」という農家の声を受けてスタートアップ・AGRIST(アグリスト)株式会社が設立され、収穫ロボットを開発している。ロボットのできること、できないこと、ロボットを導入しやすい「ロボットフレンドリー」な圃場(ほじょう)の構想を聞いた。

農家の収穫作業を再現する、ある特徴

宮崎県は日照量の長さから「日本のひなた」と呼ばれる。その中央部に位置する新富町は、温暖な気候を生かして野菜の生産が盛んだ。田んぼの中にビニールハウスが点在する一角にAGRISTの「AIロボット農場」がある。

「ロボットから最大のパフォーマンスを引き出すピーマンの仕立て方や農業の仕方は、どういうものか。ロボットだけが環境に合わせるのではなく、環境側もロボットに歩み寄ることで効果を最大限に引き出せるように、自社でハウスを建てて実証しているところです」

同社経営企画部の峯野弘樹(みねの・ひろき)さん(冒頭写真右)がこう解説する。約1アールのハウスには、さまざまな生育具合のピーマンの木が列をなしていた。畝と畝の間にはワイヤーが張ってある。同社が開発するロボットはつり下げ式で、張り巡らされたワイヤーを伝って実を探し出し、収穫していくのだ。ロボットの重さは20キロほどで縦に長く、幅は狭い。アームが上下左右に移動し、収穫適期の実を見つけては摘み取っていく。

1_ロボット

畝の間に張られたワイヤーを伝ってピーマンを収穫するロボット(写真提供:AGRIST株式会社)

ハウス内では地面がぬかるんでいたり、剪定(せんてい)した葉が積まれていたりすることが珍しくない。これでは、ロボットが安定して地面を走るのが難しい。そこで、ロープウエーのように空中を移動するつり下げ式を採用した。

ロボットのもう一つの特徴が「独自の収穫ハンド」(峯野さん)だ。
「ピーマンの茎が長いと、ピーマンどうしが傷つけ合ったり、袋を破ったりするので、できるだけ短く切らないといけません。収穫作業をする農家やパートさんは、まず木から切り離すために茎を切って、もう一度短く切ってと、合わせて2回切ることが多いんです。それをロボットでできるように、2度切りができる機構を搭載しています」

2_ロボットハンド

ピーマンを収穫するロボットハンド。茎を短く切断する2度切りを、ロボットハンドでは実を摘んで回収する一連の動作の中でスムーズに行う(写真提供:AGRIST株式会社)

仕立て方もロボットに最適化

ハウス内をよく見ると、畝によって枝の広がりや茂り方が微妙に違う場所がある。
「この地域で一般的な4本仕立ての隣で、ロボットに合わせた2本仕立てを栽培しています。4本仕立ての方が収量が高いですが、枝分かれして間にできる空間にピーマンがなると、ロボットではどうしても取りにくい。そこで、ロボットが作業しやすいように2本仕立てにしています」(峯野さん)

3_仕立て

中央の列がロボットに合わせた2本仕立て

2本仕立てだと木の勢いが余ってしまう感じがあるため、収量を落とさない方法を考えていると峯野さんは話す。
「ロボットが入るだけなら、通常の畝間よりもっと狭くてもいい。2本仕立てでピーマンの苗を密植するということも試しています」

ハウス内には光合成速度を計測する透明なフィルムでできた装置(光合成計測チャンバー)もつり下げられていた。農場長の宮嶋香和(みやじま・たかお)さん(冒頭写真左)は「この圃場で、取れるデータはどんどん取っていきたい」と意気込んでいる。光を反射する白いマルチの使い方によってどのくらいの生育促進効果が得られるかにも関心を持っている。
「マルチを張ったときと外したときの比較や、冬の日当たりが悪いときにマルチを北側の壁に張ることで日射量をどの程度カバーできるかといったことも試していきたい」(宮嶋さん)

新富町の農家でロボット開発に協力する猪俣太一(いのまた・たいち)さんは、農家と共に自らも農業をしながら開発するのがAGRISTの長所だという。
「ここでは宮嶋さんが時間をかけてデータを取っている。農家だと『そんな時間があったらピーマンを作れ』となってしまうので(笑)、農家にはできないこと。今データを取っておけば、新しい知見が得られてから過去のデータを見返すこともできるから、細かく情報を収集しているのは強みになるはず」

自社圃場の面積は2022年夏に一気に35アールまで拡大する予定だ。

4_猪俣さんと

左が猪俣さん(AGRISTのAIロボット農場で)

人の代替ではなく人手不足をカバーする存在

ピーマンの収穫ロボットの最新モデル「L(エル)」は2022年4月に対外的に発表した。今後も改良を重ね、モデルチェンジを続けていく。同社が目標として掲げているのが「ピーマンの収量全体の20%を収穫できるロボットを作ること」(峯野さん)。つまり、農家が8割収穫し、手が回らない2割をロボットで収穫する。
「そこが達成できれば農家も導入するメリットがあるだろうと開発を進めていて、達成が見えるところまで来ている」と峯野さんは言う。

ロボットの収穫速度は、人に比べるとかなりゆっくりしている。1分間に2個収穫するのが開発の目標で、かたや農家は同じ時間にその3、4倍を収穫する。つまり、AGRISTのロボット開発の基本的な考え方として、ロボットは人の代替というよりも補助者といえる。

「ロボットを導入するから人がいらなくなるのではなくて、人手が足りなくて収穫が間に合っていなかったところをロボットが担うことで、人手不足を補って収益を上げる。さらに、ピーマンは大きいL玉がなると木の負担になってしまうので、L玉以上の実を適期に収穫することで新たな実をならせて、結果的に収量を上げる。そうやって単価が高いM玉を収穫できれば、さらに収益を上げられるんじゃないか」

峯野さんはこう期待を語る。2022年秋にはロボットのレンタルサービスを始める見込みだ。今のところ、初期費用として導入費150万円(税別)がかかり、その後はロボットが収穫したピーマンの出荷額の10%が手数料としてかかるという料金体系を想定している。

5_社内

2019年設立のAGRISTは23人の従業員を擁する。うち6割が移住者で、峯野さんは佐賀県出身、宮嶋さんは千葉県出身だ

同社はキュウリの収穫機も開発中で、こちらは2023年に世に送り出せればと考えている。収穫時期に実の色が変わるトマトやイチゴと違って、ピーマンやキュウリは緑色なだけにロボットによる探索には技術を要する。
「同じ緑の中で実を認識するのが難しい分、収穫ロボットの技術をほかの作物にも応用できるだろう」(峯野さん)
農家と二人三脚で製品開発するAGRISTの動きから目が離せない。

AGRIST株式会社
https://agrist.com/

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