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その野菜、デカすぎ? 少量多品目農家が収穫適期を逃さず売り切る方法

その野菜、デカすぎ? 少量多品目農家が収穫適期を逃さず売り切る方法

農業を始めて一度の営業もせずに、現在は栽培した野菜の95%をレストランへ直接販売しているタケイファーム代表、武井敏信(たけい・としのぶ)です。このシリーズでは売り上げを伸ばすためのちょっとした工夫をお伝えします。

野菜の成長が早い夏。収穫適期を逃してしまうとあっという間に特大サイズになります。また、店頭での棚持ちが悪くなったり、お客さんの冷蔵庫ですぐに傷んでしまうことも。新鮮な野菜をベストな状態で届けられれば、あなたの農家としてのブランディングにもつながります。今回は収穫適期を逃さない方法を伝授します。

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夏の風物詩「“顔が見える農家”コーナーでのデカすぎ野菜」

夏、スーパーの“顔が見える農家”コーナーで、大きすぎるキュウリやオクラを見かけます。同じ農家としては、明らかに収穫適期を逃しているのがわかります。普通のキュウリと比べてもあまりおいしそうにも見えません。また、そうした野菜をたくさんまとめて安く販売しているケースもあります。小家族化が進み、さらにコロナによるステイホームで一人暮らしの人も自炊のために野菜購入の機会が増えている今、量が多すぎると敬遠される場合もあるのではないでしょうか。

大きすぎる野菜を売るデメリット

一生懸命栽培した野菜ですから、「少し大きくなったからといって捨てるのはもったいない」というのも理解できますが、あまり状態の良くない野菜を販売するのは農家のブランディングにはマイナスです。

同じ売り場には、地元の他の農家も出店しています。同じ地域で栽培する野菜は、時期も品目もかぶることが多いので、まさにライバルがたくさんいることになります。いつもサイズがそろったAさんのキュウリと、やたらと大きく成長してはっきりと収穫適期を逃したことがわかるBさんのキュウリ。ともに値段は同じです。お客さんはどちらを買うでしょうか。答えはAさんではないでしょうか。おいしい野菜でお客さんを満足させたAさんは、キュウリの売り上げだけでなく、顧客を勝ち取ることになるでしょう。必然的にお客さんはAさんのファンとなり、次からAさんの野菜を買うに違いありません。Bさんとしては、売り上げをあげることができなかっただけではなく、お客さんをAさんにとられてしまったわけです。

大きなキュウリ

大きく成長した左のキュウリ

大きいだけでなく、見た目が悪くなった野菜を店頭に置いておくのも同じことです。
私が前にマルシェに出店していた時の話です。初めて出店する新規就農の農家の陳列棚には、大きな色ボケしたナスが並んでいました。そのナスは夕方閉店間際になっても売れ残っていましたので、なぜこのナスを販売しているのかを聞いてみると、「もったいないから」という理由でした。
少し大きくて色ボケしているけど、売れたらラッキー程度に思っていたようです。
目先のわずか数百円の利益と、農園のイメージを落とさないことはどちらが大切かを考える必要があるのです。

ツヤのあるナス

おいしそうなツヤのあるナス

収穫適期を逃さない方法

労働力や売り先とのバランスを考えた作付け計画

オクラを例に説明します。オクラは大きくなりすぎると筋張って硬くなり食感が落ちますので、特に収穫時期を逃すことができない野菜と言えるでしょう。
仮にオクラを100本栽培する計画を立てたとします。1度に100本分の種をまくか、時期をずらして50本ずつ2回にわけて種をまくかを考えてみてください。
1度に100本の場合は、種まきが1回で終わるので作業計画を立てやすいのですが、一度に集中して大量に収穫しなければならなくなるので、売り先と収穫の人員の確保が必要となります。一方50本ずつ2回に分けた場合は、2回種まきをするので、他の栽培品目のことも考えながら計画を立てる必要があります。
スタッフの人数や売り先にもよりますが、少人数で経営をしている農家の場合は後者をおすすめします。100本の場合よりも1度に収穫できる量は減りますが、収穫適期を逃すリスクを減らすことができ、長期間収穫を続けることができますので、販売する品目のバリエーションの確保にもつながります。

売るサイズを見極める

インターネットで「JA出荷規格表」と検索すると、規格の目安を知ることができます。このような規格があるがために、「規格外」「B品」「訳あり品」などの商品が生まれるのも事実ですが、全国のスーパーで同じサイズの野菜が購入できるのは規格のおかげです。規格は見た目が美しいだけでなく、食べておいしい時期に、傷がなく持ちが良いものをお客さんに買ってもらうという意味もあると思います。
JA出荷をしない少量多品目農家は、さまざまな野菜を栽培しますので、それぞれの野菜の一般的な規格サイズを知る必要があります。スーパーなどで見かける野菜は参考にできますが、西洋野菜のように情報が少ないものは、オンラインショップなどで、安心できる販売先から一度購入してみるのも勉強です。そうやって野菜がおいしく食べられるサイズをきちんとわかっていると、収穫適期のものを見逃すことがなくなります。
私の場合、販売先がレストランですので、オクラも3センチほどのサイズから販売します。これは、売り先によることですが、シェフがどのように使いたいかを知ることで可能となります。

普通サイズのオクラと3センチのオクラ

左が出荷している3センチのオクラ、右は通常サイズのオクラ

スーパーの“顔が見える農家”コーナーや直売所でも、一般的なサイズより大きい物、小さい物を販売することはもちろん可能です。この売り方のテクニックは、今回とテーマがずれてしまいますので、次回に改めて説明します。

品種を見極める

毎日の農作業の忙しさの中、気をつけていても、収穫適期が遅れてしまう場合はあります。「少しのサイズオーバーであれば」と考え出荷するケースもあると思いますが、せめてお客さんにはおいしく食べてもらいたいものです。
それをクリアできる一つの手段が品種を選ぶということです。
オクラの場合、消費者には「大きくなると硬くなる」というイメージがあります。品種を選ぶ際、大きくなっても硬くなりにくいとか、肉質がやわらかいなどのものを選ぶのがよいでしょう。
ちなみに、私が栽培している品種は丸サヤタイプの「島オクラ」と「島の恋」です。
どちらも、大サヤになってもやわらかくスジが入りにくいのが特徴ですが、シェフの希望に合わせ共に3センチサイズで出荷しています。
大サヤでもやわらかいといっても、品種の特徴を知らない消費者にとっては、購買意欲が減少することは間違いありませんので、その説明はしっかりとする必要があります。

大きいオクラ

大サヤでもやわらかいオクラ“島の恋”

状態を見極めて予測する

私の場合、レストランからの注文の際、予約や仕込みの状況で、前もって到着日の指定が入る場合があります。急な注文には対応していませんので、最低でも中3日はもらっています。
例えばナス。希望する個数やサイズがありますので、中3日の間で、希望サイズまで成長させるために収穫をずらしたりして調整します。
基本的に土日は発送をしませんので収穫もしません。そのために、前日の金曜日は収穫できるものはある程度収穫してしまいます。幸いにして、金曜日の発送予定は、大量に注文が入るお店を多くしていますので、ロスがカバーできるようにしてあります。

スーパーや直売所、売り先によっては、毎日出荷、週に数回出荷など、出荷しない日がある場合もあります。販売できる量の予測も考慮しなければなりませんが、毎日出荷するのであれば今日のベストを収穫してしまえばよいのです。しかし収穫しない日があるために、それが収穫適期を逃す原因の一つになっています。間が空いてしまうのであれば、多少小さなサイズでも収穫をし、販売するための説明を工夫するなど対処してみてはどうでしょうか。

そもそも収穫適期が短いものは作らない

あっという間に成長してしまうキュウリやオクラ。これらの作物は、毎日の忙しい農作業の中で収穫適期を逃す原因の一つです。夏野菜の定番だから作るという考え方を捨て、作らないという選択肢もあります。

おまけの虎の巻

「この農家さんの野菜はいつもきれいでサイズもそろっていておいしい」
お客さんにこんなひと言を言ってもらえたら、うれしさだけでなく、期待に応えるべくやる気も起こります。訳あり品、見切り品として、安く販売しても、その労力は正規品と変わりません。
思いきって、大きすぎるものは「売らない」という選択もありだと思います。

次回は、それでも大きくなってしまったものをどう売るかを紹介します。

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