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種袋の写真に惑わされるな! 少量多品目農家がめざすべき野菜の完成形とは

種袋の写真に惑わされるな! 少量多品目農家がめざすべき野菜の完成形とは

農業を始めて一度の営業もせずに、現在は栽培した野菜の95%をレストランへ直接販売しているタケイファーム代表、武井敏信(たけい・としのぶ)です。このシリーズでは売り上げを伸ばすためのちょっとした工夫をお伝えします。

野菜の収穫時期や出荷の状態を種袋の写真や説明を基準に決めている人が多いのではないでしょうか。市場など規格が決まっているところに出荷する場合は仕方ありませんが、実は「種袋の写真を目指さない」ことで、新たな販路が開拓できたり、新しい提案ができたり、果ては売り上げがアップしたりすることもあるのです。今回は、規格の提案について説明します。

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種袋やカタログの写真を目指して栽培すべき?

種袋には必ずと言っていいほどその種が成長した姿の写真が載っています。最近はやっている色物野菜などは写真がないとどのような野菜になるのかわかりませんので、姿形を知るための目安にもなります。栽培する側にとってはありがたい情報ですが、それを知ることによって当然「その野菜の完成形」だと思っている人が多いはずです。
例えば、私がよく栽培しているニンジンで「ベーターリッチ」という品種があります。種袋にはもちろん写真もありますし、栽培の説明欄には、「タネまき後、約110日くらいで収穫期に達します。長さは18~20センチ、重さは180グラムくらいを目安にします」と記載されています。これを読むと、丁寧で非常にわかりやすい説明で収穫時の参考になります。
農家としては、これらの情報に基づいて収穫し販売するわけですが、それにとらわれすぎると規格外やB品というものが発生してしまいます。本当にその状態でないとダメなのでしょうか。
私が収穫している野菜をいくつか例にして説明していきます。

ベーターリッチ

小さいうち収穫したホウレンソウは、まるで新しい品種

何年か前の冬にホウレンソウを栽培していた時のことです。冬のホウレンソウは、少しでも日差しに当たろうと横に広がります。バラまきで種まきをしていましたので、通常の栽培では間引きが必要です。私は、株を上から見て直径5センチほどの小さなホウレンソウを間引き作業をかねて収穫、納品書には「ホウレンソウミニ」と記載し、レストランへ出荷しました。
するとそのホウレンソウミニを受け取ったシェフから電話があり、「送ってもらったホウレンソウ、すごくおいしいのですが、新しい品種ですか?」と聞いてきました。私は「普通のホウレンソウですが、ホウレンソウの形そのままを出せるサイズでカッコよくないですか?」と答えたのを覚えています。

伝え方一つで価値も変わります。もし、納品書に「ホウレンソウの間引き菜」と記載していたら、このような問い合わせはなかったと思いますし、シェフの受け止め方も違っていたでしょう。

後日、ホウレンソウミニを出荷した別のお店に食事に出かけたのですが、そこではホウレンソウミニが生のままメインの付け合わせとして出てきました。
5センチのホウレンソウを湯がく人は少ないでしょう。出荷する上で、規格を目指すことは良いことだと思いますが、それがあるがために、野菜の調理法はある程度決まってしまうのです。

香り立つルッコラのスプラウト

タケイファームの野菜のラインアップの中に、発芽して間もない新芽を食用とするスプラウトがあります。パクチーや春菊などの香りが強い野菜を土で栽培し、スプラウトのサイズで収穫しているのです。その中の一つ、ルッコラのスプラウトをフランス料理のお店に使ってもらったときの話です。
その店ではメインの肉料理にルッコラのスプラウトをトッピングしてお客さんに出したそう。食後にシェフが「お味はいかがでしたか?」と質問すると、「ルッコラの香りがすごい」という答えだったそうです。シェフは「僕は良い肉を仕入れ、火の入れ方も完璧にし、ソース作りに全力を注いで一皿を作ったのに、トッピングした武井さんの1本のスプラウトに負けた気がしました」と私に話してくれました。
水耕よりも土で育てた方が香りが強くなるというのもありますが、あえて小さな状態で出荷することで、お客さんが見た目に反して強い香りに驚き、スプラウトが料理の主役になってしまうこともあるのです。

パクチーのスプラウト

ニンジンなのか、葉なのか、極小ニンジンを提案

最近のレストランでは、見た目にも美しい料理が多く、トッピングに使われている野菜も小さくなっている傾向にあります。タケイファームが出荷している葉っぱの長さが5センチほどのニンジン。このうち一般的にニンジンと呼ばれる根の部分は太さ1ミリ長さ2センチほど。普通に考えたら、これを販売することは考えないかもしれません。使う人によってはお皿を演出するために欠かせないアイテムとなる場合もあるので、規格と違うサイズをあえて提案することでそれは一つの商品と変わるのです。

葉っぱが5センチの極小ニンジン

極小ニンジンを使った一皿

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5センチのコマツナの価値

私が小さなサイズで収穫をするようになったきっかけは、出荷する野菜がなくなったことでした。平日は毎日レストランへ出荷していますが、出荷と生育のバランスがうまくとれず、販売する野菜がなくなってしまったのです。
販売する野菜というのは、一般的に規格サイズと呼ばれているものです。この時は私もどこかで規格が正しいと思っていたのです。畑には栽培しているものはたくさんありましたが、一般的に収穫可能とされるサイズではありませんでした。しかし「出荷する野菜がありません」と言うのも農家としてのプライドが許しません。そこでイチかバチか、長さ5センチほどのコマツナを出荷したところ、その小ささが新しいニーズを生むことにつながったのでした。使う人によって、規格サイズが違うことを知った瞬間でした。しかも、料理のバリエーションも増え、市場に流通していないものであれば価値も出て売り上げが期待できます。

シェフにこのサイズのコマツナ(品種は「むらさき祭」)を出荷すると「大きすぎる」と言われた

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野菜のサイズや収穫時期は農家が決める

販売先にもよりますが、規格が決められていない売り先の場合、自らこれが良いと思えば小さく収穫した野菜(間引き菜)を売ってもよいのではないでしょうか。しかし、注意しなければならないことが2つあります。

1.見た目の判断だけではなく、味を確認すること。おいしくないものに次はありません。
2.ニーズを把握し使い方を提案すること。

先ほども書きましたが、間引き菜を商品にするのですから、間引き菜という考えを捨てることが大切です。それによって、値付けが大きく変わってくるからです。「間引き菜」と農家自身が認識してしまうと、その価値を見いだすことができませんし、労力に見合った利益を確保できません。道の駅などで、ニンジンの間引き菜を20~30本束ねて150円ほどで販売しているのを目にする時がありますが、ほとんど利益は出ていないのではないでしょうか。

ニンジンミニ

「重さで売る」という考え方を捨てる

1束20~30本で150円のニンジンの間引き菜について、どうしてこうなってしまうのか考えてみました。一般的な売り方は、重さを量って袋詰めするという基本の考え方があります。小さなものは軽いので100グラムの1束を作るのに数が必要となってしまいます。そこで今までの「重さ」という視点から「数」という視点で考えてみてはどうでしょうか。そして、新しい商品として提案するのですから、パッケージを変えてみることでカバーできる場合もあります。
私は基本1個売りという考え方でカバーしてきました。そのため、5センチのホウレンソウにも、根っこのような小さいニンジンにもそれぞれ値段を付けて販売しているのです。

農家こそ野菜に対する固定観念を捨てるべき

収穫するタイミングを変え、パッケージを変え、新しい商品として提案することで、他との差別化にもつながります。一年を通してたくさんの品種を栽培している少量多品目農家にとって、誰にでも可能性のある販売方法です。いつもの野菜の見方を少し変えてみてはどうでしょうか。野菜の販売も楽しくなりませんか。

おまけの虎の巻

私がスプラウトを始めたのは8年前。フランスで食事をしていた時にコリアンダー(パクチー)のスプラウトが出てきたのです。知っている味と香りなのに普段見ているパクチーの形は見当たりませんでした。衝撃を受けました。こういうプレゼンの仕方もあるのかと思い、それ以来、作り始めたスプラウトは「誰もが知っている野菜で、香りが強いもの」と決めました。知っているのに、その野菜が見当たらない料理の演出。そこが狙い目です。

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