タケイファームがサンプルとして野菜を送る理由
レストランへ野菜を販売し始めた頃は、インターネットやメディアを通じてタケイファームの野菜に興味を持ったシェフからの問い合わせが取引開始のきっかけとなることがほとんどでした。つまり、最初から野菜の購入を目的としてタケイファームに問い合わせをしてくるパターンです。
しかし最近は、知人の紹介などいろいろな場面でシェフと出会うことも増え、そこから取引がスタートするというパターンが多くなってきています。シェフとの偶然の出会いの場合、タケイファームの野菜を知らないことも多いので、サンプルを送るようにしています。先日もそんなことがありました。
先日、タケイファームでテレビ番組のロケが行われ、ミシュラン三つ星のシェフがその出演者としてやって来ました。
ロケの休憩中、収録で使用したシシトウの新芽を食べたシェフが驚いた顔をして「これ、売ってくれませんか?」と言ってきたのです。普段、口にすることのない新芽の味が料理に使えると思ったようです。私としてはまたとない取引のチャンスですが、未だかつてシシトウの新芽を販売したことがありません。そのため、その場で適切な値段を決めることは難しいので、今回はシシトウの新芽を含めた複数の野菜を無料のサンプルとして送ることを伝えました。
今回のロケはタイトなスケジュールだったため、シェフにゆっくりと畑を見てもらうことも十分に野菜の説明をすることもできず、タケイファームの魅力を伝えることができませんでした。そのかわりに、サンプルでタケイファームを説明することにしたわけです。
無料にしている理由ですが、わずか数千円のために請求書をあげるのが面倒臭いというのが本音です。

シェフが興味を持ったシシトウの新芽
サンプルを送る意味と目的
もし、シシトウの新芽だけを送った場合はどのような結果が予想されるかというと、
1.シシトウの新芽の売り上げが数千円期待できる。
2.三つ星シェフに野菜を食べてもらったという実績ができる。
3.今後の通年の取引の可能性は低い。
これでは、せっかくのチャンスがあまりにももったいないと思いませんか。
シシトウの新芽をメニューで取り入れることになったとしても、シシトウ農家は全国に星の数ほどいますので、タケイファームの代わりはいくらでもいます。もしかすると、シェフの記憶にも残らず、単なる農家の一人として終わってしまうことも考えられます。それよりも、せっかく野菜を送るのであれば、現在収穫できる自信のある野菜を見てもらった方が良いのではないでしょうか。
これによって、
1.タケイファームの野菜のバリエーションの多さを伝えることができる。
2.三つ星シェフに野菜を食べてもらったという実績ができる。
3.年間を通しての取引、売り上げにつながる可能性に発展する。
と今後の可能性が期待できます。今回の発送だけをいうと野菜代金も送料も全てタケイファーム負担ですので赤字となります。しかし、目先の数千円にこだわるべきではないというのが私の考えで、せっかくのチャンスを得たのですから、それを今後につなげることを考えることが大切です。
相手をうならせるサンプルセット
サンプルを送る際には、問い合わせがあった野菜以外のものも入れます。こんな時には注意が必要なのですが、実はここが自分をアピールするポイントでもあるのです。
サンプルセットを作る際に私が大切にしているのは次の5つです。
- シェフとの会話やどんなことに興味を持っていたかという態度を参考にする。
- サイズ感など、シェフの野菜の使い方に合ったモノを送る。
店に行ったことがあればその時の料理を参考に、行ったことがなければお店のホームページに載っている料理の写真を見て、シェフの料理のイメージをつかむとよい。 - 火の入り方などが均一になるようにサイズをそろえる。
サイズをそろえることによって仕込みが楽になるので喜ばれる。 - 当然のことながら、品質の良いものを入れる。
サンプルだから、無料だからといって、絶対に手を抜いてはいけない。 - タケイファームでしか手に入らないものを入れる。

シェフとの会話は情報収集の大チャンス

料理の写真からイメージをつかむことができる

サイズをそろえることによって使い勝手が良くなる
自分という農家を伝えるサンプルづくり
サンプルを通して、野菜ではなく自分という農家を伝えることも大切です。私がサンプルを通して伝えたいと思っているのは、こんなタケイファーム像です。
・タケイファームは「誰もが知っているものを違う形で出荷する」農家。
見た目や味の珍しさや印象で、店と客のコミュニケーションのきっかけにもつながる。
タケイファームの野菜を使うことで、店のメリットになることを伝える。

プチヴェールやカーボロネロなどの通常流通しないわき芽でバリエーションの広さを伝える
・タケイファームは提案力が高い農家。
同じ品目でもたくさんの品種があり、その品種ごとの特性を伝えることができるので、シェフが作りたい料理の実現に貢献できる。メニューに使えるおすすめの野菜を提案できることで信頼につながる。

おすすめの野菜を提案
あなた自身の農家としての姿を伝えることで、シェフと人間としての付き合いができるようになります。シェフと野菜だけでつながっているようでは、取引は長く続かないでしょう。シェフは野菜のクオリティーとともに、農家への安心感を求めていることも多いからです。
添え状はどうすべき?
サンプルを送る際は、もちろん野菜だけではなく、簡単な挨拶文などを添えます。そんな添え状にもコツがあります。
入れた野菜の特性を伝える
私は、サンプルとして送る野菜と一緒に野菜の特性を伝える説明書を入れています。例えばジャガイモを送る際には、品種によって特性が全然違うので、説明書は必須です。油と相性が良い品種、煮崩れしにくい品種、ポテトサラダに合う品種など、品種の特性が生かされることによって、その野菜は何倍にもおいしい料理になるのです。

タケイファームで栽培しているジャガイモ。品種ごとの提案ができるのも、タケイファームの強み
料金表は入れるか?
シェフの中には、野菜の料金表を欲しがる人がいますが、私は決して料金表は入れません。シェフにとって絶対に必要なものですが、この段階では入れることはNGです。料金表が入っていると、食べる前に野菜の金額から入ってしまいます。金額を知る前に、まずは食べて味をみてもらうことが大切で、これによって高値での販売につなげることができます。
手書きである必要はない
手書きで挨拶状を書くかどうか。結論から言うと手書きである必要はないと思います。心を込めて書いても、その挨拶状が小学生のような字では逆効果です。
農業に就く前の話です。初めて就職した建設会社で社長秘書をしていた時、電話を受けた内容のメモを社長に渡した際、「あなたの字は汚すぎる、今後、メモは書くな」と言われたことがあります。しばらくは、同僚の女性秘書に内容を伝えてメモを書いてもらっていたのですが、あまりの悔しさに独学でペン習字を勉強しました。今思えば、あの時、社会の常識を学んだような気がします。心を込めて書いたとしても、汚い字であれば逆効果。字に自信がある人は書いてもかまいませんが、パソコンを使った方が時間の短縮にもなりますし、あくまでも私が伝えたいことは、タケイファームと野菜なのです。最後の名前くらいは手書きでもよいかもしれません。
全てをサンプルにする必要はない
今回は、シシトウの新芽が欲しいというシェフの話がきっかけとなり、タケイファームの魅力を伝えるためにサンプルという手段を使いました。しかし、問い合わせが入り、野菜を送ってほしいという依頼などの場合、金額を決めてお任せの野菜を送るというパターンもあります。こちらの場合は、“まだ野菜を食べてはいないが、今後継続して取引を考えている”飲食店です。
無料のサンプルにするかしないかの境目は、相手がタケイファームの魅力を理解しているかどうかです。先ほどのロケでやってきたシェフのようにタケイファームをよく知らず単品目のオーダーで、今後の取引が現時点で未定の場合はサンプル。すでにタケイファームをよく知っていてこれからタケイファームと取引をしていきたいと先方の意思がはっきりしている場合は有料での販売となります。いずれにしても、せっかくのご縁から今後の取引を継続させることが重要なのです。そのため、初めて送る野菜全てをサンプルとして扱う必要はありません。
せっかくつかんだご縁。私の場合は、人に紹介されることも多く、紹介してくれた人に対して失礼にならないように対応するように心がけています。どんなに良い野菜を作っても出会いがなければ売れません。出会いを大切にすることが売り上げにつながるのです。