福田彩乃さんプロフィール
![]() |
一橋大学経済学研究科修了。JAグループのシンクタンクを経て、2020年に株式会社日本総合研究所(以下、日本総研)に入社。現在は創発戦略センターのコンサルタントとして、農業経営に関する調査や支援に動く傍ら、農村DXの推進に注力している。 |
冨田加奈プロフィール
![]() |
ハウスメーカーの新築部門を経て、2016年にマイナビへ入社。創業メンバーとしてマイナビ農業の立ち上げに携わり、行政や農業関連企業への提案など営業担当として従事。子育てに励む一方、営業マネージャーとしてメンバー3人のマネジメントにも奔走する。 |
農業と農村のこれまで
──農業分野の課題に向き合ってきたお二人ですが、農業や農村の現在地をどう見ていますか。
福田さん:当社はシンクタンクとコンサルティングサービスを提供する企業ですが、農業の分野にも活動の幅を広げており、「儲かる農業」の実現を目指して、スマート農機の開発などに取り組んできました。しかし、儲かる農業の事例が生まれても、住みやすい地域でなければ人は集まらず、定着もありません。
冨田:地方や農村に人材が集まらない、定着しないという声は、以前からよく耳にしてきました。特に、せっかく苦労して獲得した担い手が短期間で離農してしまう、元いた地域に戻ってしまうのはよくある話で、自治体や農業系企業からも、度々ご相談をいただいてきたところです。
福田さん:私もこれまで各地の農村を訪れてきましたが、人口減少と高齢化が著しく、資源の維持管理や生活サービスの提供をこれまでと同様にやっていくことが難しくなってきていると実感しています。新型コロナウイルスの影響で地方への関心が高まっているというチャンスを生かす為にも、こうした課題に対してしっかりと解決策を提示して、地域として持続する魅力的な農村をつくっていかなければならないと考えています。
──こうした諸問題の原因はどこにあるのでしょうか。
福田さん:1つは「儲からない」だと思いますが、それ以外にも、思い描いていた生活とのギャップがあるのだと思います。想定していなかったような不便さを感じることが多いようで、これが先述した離農の原因の一つであると考えられます。こうした問題に対して、これまでとは違ったアプローチで豊かで住みやすい地域を作っていくことが重要であると考え、当社では「農村DX」というコンセプトを提唱しています。農業と生活は密接な関係にありながら、資源、インフラ、産業がそれぞれバラバラに管理されていることが農村の構造的な課題。それらの垣根を越えて一体的にデジタル化していくという構想です。
冨田:自治体から当社に寄せられた相談には、農業の情報をどこで見たらいいのかわからないという声が多くあり、それをきっかけにマイナビ農業が立ち上がった経緯があります。農業の総合メディアという位置づけで情報発信を中心に課題解決に寄与してきましたが、5年先、10年先を見たとき、これまでの農業の歩みから察すると新しい取り組みが短期的に終わってしまう可能性も否めません。日本総研さんの取り組みに賛同し、協業させていただく形で各地の先進事例を情報発信していきます。
デジタルの力で産業と地域生活をアップデート
──福田さんに伺います。「農村DX」のコンセプトのもと、どのような取り組みがなされているのでしょうか。
福田さん:例えば、農産物の加工事業者さんが農家さんにスマート農機を提供してデータ管理もしていくことで、複数の農家さんで農機を共用して費用負担を下げながら、安定調達と消費者の交流促進や関係人口拡大をはかる「農機シェアリングサービス」の実証を進めています。また、人口密度の低い農村地域で、モノの運搬や人の移動が不便・非効率になっていますが、デジタルの力で農業者と運送者をデータでつなぎ、新たな移動・運搬サービスを生み出していく「ラストワンマイル物流」の実現に向けた検討も行っています。他にもいくつかのアイデアがあり、民間企業や自治体と一緒になって進めているところです。
農村DXは全国横並びで展開できるものではなく、地域の課題や資源を踏まえた取り組みが重要です。地域のとりまとめ役である自治体と共に、皆さまの経験や事例を共有させていただき、成功事例を積み上げていく学び合いの場として「農村DX協議会」を運営しています。2019年のコンセプト提唱から約3年が経ち、現在は計20以上の自治体が参画してくださり、農業者や農業関係者の方々を含めた議論を行っています。
民間企業の協業でつくるこれからの農村
──今回の協業の目的や、それぞれが担う役割、展望は?
福田さん:これまで農村DXを推進してきた中でいくつか見えてきた課題があります。農村DXは、分野横断での取り組みということもあり、これまでのような「農業」という分野に関わる人達だけでなく、より幅広いステークホルダーの方に参加していただく必要がある。そのためには、アプローチの幅を広げてコンセプトを届け、成功事例を共有して、より対話を促進させていくことが重要です。そこで、より広いステークホルダーに情報を届ける経験とノウハウをお持ちのマイナビさんとタッグを組ませていただきたいと考えました。
冨田:これからの地域や農村にとって、担い手の問題は避けて通れません。このままだと5年先、10年先も変わらずこの課題が浮き彫りになってしまうと感じます。そうした課題に対しデジタルの力で解決をはかる「農村DX」の存在をより多くの方に知っていただきたいと考え、そこに私たちの情報発信が寄与できればと思います。まずは農村DXがどういうものか、日本総研さんが取り組まれている先進事例をお届けしていきます。
福田さん:デジタルの力はこれまで無理だったことを一気に可能にします。これからいろいろな方法が、技術の発展とともに出てくると思います。我々もその世界観を描いていきますので、そこへ参画してくださる方々をマイナビさんと一緒に増やしていきたいですね。
冨田:私自身が農業をやっているわけではありませんが、取り組まれている企業、自治体、生産者のお話を聞いていると、情報を発信したり、取り組みを理解したりすることから、その先へつながる可能性があると日々感じます。農業をやっていなくても関われる部分はあると思ってもらえるきっかけになればうれしいです。
マイナビ農業では次回以降、こうした「農村DX」のコンセプトに基づいた先進事例をご紹介予定。実践者の声を交えながら、DX化実現への道のりをお届けします!