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51棟すべて有機で栽培。成功のカギは? 施肥設計と雑草対策はどのように?

51棟すべて有機で栽培。成功のカギは? 施肥設計と雑草対策はどのように?

山形県鶴岡市で街づくりに取り組むヤマガタデザインのグループ会社として立ち上げられたヤマガタデザインアグリ。街づくり会社の農業部門として、生産・販売事業を行っている。農業未経験からの新規参入でありながら、立ち上げ3年目で売り上げは1億2000万円となった。「持続可能な農業」を目標に掲げ、ビジネスとして着実に成長を続けている同社の生産現場を取材した。

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主力はベビーリーフ。年間9~10回栽培可能

ヤマガタデザインアグリはビニールハウスでの施設園芸で生産を行っている。2018年にヤマガタデザインの農業部門として12棟でスタートし、ヤマガタデザインアグリ設立後も次々に施設を新設して、2022年現在で全51棟を運営する。別の地区にある3棟と2022年1月に新設した14棟以外は、すべて有機JAS認証を取得している。

作業スタッフは5~6人。同社取締役で圃場(ほじょう)管理部門長の黒光啓太(くろみつ・けいた)さんが中心となって生産管理を行っている。

取締役・黒光啓太さん

ヤマガタデザインアグリ取締役の黒光啓太さん

主力品目はベビーリーフである。ハウス1棟(約3アール)当たりの収量は約160キロで、年間9~10回の作型栽培をしている。1作当たりの育成期間は20~30日で(冬季間は70日前後)、収穫は1日ですべて終えることができる。

収穫したベビーリーフは、本社に併設された作業場で包装され、ネットスーパーや仲卸業者などに出荷される。

ベビーリーフ以外にもミニトマトの生産をしていて、2022年内にはオカヒジキの販売も本格的に開始する予定だ。

ベビーリーフは低リスクで有機栽培できる

ヤマガタデザインアグリが生産する農産物は、有機JAS認証を受けていないハウスで生産されるものも含めて、すべて化学肥料・化学合成農薬不使用である。

一般論として、有機農業はハードルが高い農法と考えられていて、参入したくてもできない生産者が多い。主な理由として、有機農業は体系化された栽培方法が確立されていないこと、有機JAS認証を受けるためには病害虫発生時に使用できる農薬が限られていること、販路が確保されていないこと、などが挙げられる。

それでも、同社では試行錯誤を重ね、現状として年間を通して安定した収量と売り上げを出している。

なぜ、農業未経験の企業が、有機栽培で安定した収量を上げられるに至ったのだろうか。
「ベビーリーフだと、年間9~10回の栽培ができるという点が大きかったと思います」と、黒光さんは説明する。

例えば施肥設計をするにしても、有機栽培は慣行栽培と比べてその都度肥料成分が変動するため、どの肥料をどれだけ投入すれば収量を上げられるかといった予測が立てづらい。だがベビーリーフは、年間を通して1~2回しか栽培できない他の品目とは違い、9~10回の栽培ができるため、施肥設計と生育状況の関連が比較的見えやすく、データが取りやすい

さらに、ハウスが数十棟もあるため、失敗したときの損失が小さいこともある。仮に1棟失敗しても、残りのハウスで問題なければ成功だ。失敗のリスクが小さいことから、それぞれ試験的に栽培方法を変えてノウハウの蓄積をしてきたのである。

とにかく作付けの数をこなしてデータを蓄積し、そのデータを基に栽培方法を更新して、生産性向上につなげていった。

ヤマガタデザインアグリの有機栽培

次に、同社が特に力を入れている栽培方法について解説する。

土づくり

同社が施設栽培をしている圃場は、元々は田んぼであり、水はけの悪い粘土質の土だった。ベビーリーフのような葉物野菜は、水はけが悪いとカビが繁殖して病気になりやすく、逆に乾燥した土壌ではうまく発芽しない。土壌を団粒化させて、通気性と保湿性のよい圃場にする必要があった。

そこで土壌の物理性の問題をクリアするため、有機物を頻繁に投入して団粒化を図ってきた。

土づくりには、自社製のぼかし堆肥(たいひ)、豚ぷん堆肥、もみ殻くん炭、ナメコ生産者から購入したおがくずなどを活用している。

「土づくりの点で、田んぼからの転作にベビーリーフは向いているのかもしれません」と黒光さんは言う。「トマトのように長期で生育・収穫する作物に比べて、ベビーリーフは播種(はしゅ)から20~30日で収穫できます。根っこが浅く張るので比較的浅い土壌までの土づくりでも効果が見えやすいですし、年間9~10回、毎作有機物を全面施肥できるので、土壌改良がしやすいのです」

ナメコ廃菌床

ナメコ生産者が廃棄するおがくずを土壌改良材として活用(画像提供:ヤマガタデザイン)

施肥設計

ヤマガタデザインアグリではすべてのハウスで四半期に1回程度の土壌分析を行い、その結果を基に施肥設計をしている。

ベビーリーフは作付けのたびに堆肥や土壌改良用の有機物を入れて耕起する。
ミニトマトは定植のタイミングに1回施肥する。追肥は基本的には行わず、生育状況を確認して、栄養が不足している場合にだけ有機JASで使用可能な液肥を与えている。

元肥には豚ぷんを発酵させた堆肥を使用している。豚ぷんには作物に必要なリン酸とカリが豊富に含まれている。

庄内地方は養豚が盛んな地域であり、豚ぷんが多量に発生する。そうした資源を地域内循環させるため、畜産農家に声をかけて供給してもらっている。
メーカーの堆肥場で約6カ月熟成させた豚ぷん堆肥を農場に納入してもらい、土壌に施用する。

豚ぷん堆肥

地元養豚農家と協力して地域内循環させている豚ぷん堆肥

雑草対策

有機農業に大敵となるのが雑草である。
同社ではベビーリーフの生育をきれいにそろえることで抑草している。ベビーリーフが均一に成長すると、土の表面に日の光が届かなくなり、雑草の発芽を防げるのだ。

雑草のないベビーリーフ

すき間なく生育するベビーリーフ。雑草はほぼ生えていない

黒光さんによれば、生育をそろえるためには水やりが重要であるとのこと。いかに均一に水やりをできるかが管理のポイントだ。

「立ち上げ当初は雑草で何度も痛い目を見ました。ただ、ここがベビーリーフのいいところでもあるんですが、1年で9〜10回、ハウス内を耕起するので、発芽した雑草もタネをつける前に土壌にすきこむことができて、年々数は減っていきます」

さらに、施設がたくさんあるのでリスク分散にもなり、ハウスごとに環境を変えて繰り返し改善を図ることができた。夏季・冬季の違いなども含め、いかにベビーリーフがよく育つか、どうすれば雑草の発芽を抑えられるかのノウハウを短期間で蓄積していったのである。

次回記事では、連作障害への対策やもみ殻暖房について解説する。
(公開予定日2022年7月31日)

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