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暑さを利用、太陽熱処理のススメ【ゼロからはじめる独立農家#35】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

暑さを利用、太陽熱処理のススメ【ゼロからはじめる独立農家#35】

酷暑が当たり前になった昨今ですが、どんな時も自然を利用するのが農家のたくましさ。こうした暑い時期こそ土壌の太陽熱処理がおススメです。太陽熱を利用して一定期間高熱を維持することによる土壌処理技術は、土壌消毒剤などを使わないため自然にやさしいと注目されています。今回は、その効果と実践方法について紹介します。

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太陽熱処理とは

夏の暑さ、日差しを利用した土壌の熱処理。我が菜園生活 風来(ふうらい)での具体的な実践・利用方法は後述しますが、一般的には潅水(かんすい)した畝に透明ビニールを張り、太陽熱を利用し一定期間高熱を維持することによる土作りになります。

薬剤による⼟壌消毒や化学農薬散布による病害⾍対策でないため、これまで有機農業で多く使われてきました。期待される効果は「抑草」「害⾍対策」「病原菌を減らす」「団粒化・土壌改善」になります。

熱処理せずビニールマルチもしていない7月の様子

これまでは有機農業者を中心にそれぞれ独自の知見で行うことが多かったのですが、近年、農林水産省でも有機農業推進の実証事業として実践された「太陽熱養生処理技術」(一般社団法人日本有機農業普及協会)などを公開しています。

この研究によると、「畝に60%の水分を含ませて、堆肥(たいひ)を溶かし透明シートで密閉し、太陽熱で蒸すことで二酸化炭素が発生し、その膨張圧力で土壌を団粒化する」とのこと。

また土壌の温度を5日保った場合、30度なら土壌団粒ができ、45度なら糸状菌が放線菌に置き換わり、60度なら雑草の種が死滅するとされています。

畑でやっかいなのが、土壌センチュウ。センチュウは野菜の根に寄生して養分を吸うことで、野菜の生育を阻害するため、地上部がしおれたり、成長が遅くなったりします。一度こういった被害が発生すると翌年以降も発生しやすくなります。そこでセンチュウ対策としては、農薬を使い土壌消毒するのが一般的です。しかし放線菌にはセンチュウを抑制する効果があることや、60度程度に数分さらすとセンチュウを死滅させられることから、太陽熱処理は自然にやさしいセンチュウ対策としてもこれから広がっていくことが予想されます。

小さい農家の太陽熱処理実践

有用性の高い太陽熱処理ですが、弱点としては処理中は畑を使えないこと、またビニール資材が必要なことなどがあげられます。風来での野菜栽培は抑草効果をねらい、どの畝でも黒マルチを使うのを基本にしています。しかし黒マルチが使えないところもあります。

それはニンジン畑。ニンジンの秋・冬どり栽培の種まきは7月か8月。暑いさなかで黒マルチだと、とてもひ弱なニンジンの双葉は黒マルチが集める熱にやられ枯れてしまいます。かといってマルチをせずにダイレクトにまくと雑草に負ける。そんな時には太陽熱処理の出番です。

風来においては初め、「抑草」の効果があればと導入しました。現在行っている具体的な方法は、まず草を刈り、管理機で表面を耕運したあとならします(風来でのニンジン栽培は前作の肥料分も残っているだろうと考え無施肥栽培)。その状態で雨を待ってから透明ビニールをかけます。

十分潅水されていることが大切なので、少なくとも5センチの深さまで湿っているか確認。透明ビニールはビニールハウスの張り替えなどで使わなくなったものを使用しています。ビニールハウスに使うものは0.05ミリと厚みがあり丈夫で、幅が広く一度に大きな面積を覆うことができるので重宝しています。

水分があることで土に熱が伝わります。雨を待ちきれず、乾燥した状態でビニールをかぶせたこともあったのですが、ほとんど効果がなかったことが、今ではいい経験になっています。ビニールを押さえるのには使わなくなったハウスのパイプを使用。土をかぶせたりしなくても大丈夫です。

熱処理した畑。2週間経っても雑草がほとんど生えていない

ただ、この方法がとれるのは、風来では通常の畝を2つ分くっつけた3メートルという幅広畝を活用しているから、というのもあります。溝がないため熱が逃げないので、太陽熱処理としても幅広畝はオススメです。ビニールをかぶせてから2週間はそのまま放置。時期をズラして同じビニールを使い、4カ所ほどやっています。

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元々は雑草対策が大きな目的でしたが、物理的には団粒構造が発達することもあり、形の良いニンジンができるようになりました。センチュウ対策にもなるので、後作は安心してトマトなどナス科の定植ができます。

もうひとつの太陽熱処理

露地の畑ではニンジン用にビニールシートを敷いて太陽熱処理をしていますが、もうひとつ太陽熱を利用しているのがビニールハウスです。風来では小さいビニールハウス(間口5.4×奥行き15メートル)が4棟あります。それぞれ栽培品目をローテーションしていますが、管理しやすいということもあり、トマト、ナス、キュウリなどナス科やウリ科にかたよりがちで、毎年育てているとセンチュウの害も出てきます。

小さくてもかなり重宝しているビニールハウス

そこで春作と秋作の間、夏に毎年1棟づつ太陽熱処理をしています。センチュウの害を防止することもありますが、ビニールハウスの中の雑草対策、害虫退治にもなっています。

やり方としては草刈りののち、管理機で耕起してからならします。そのあと潅水チューブを使い、半日たっぷりと潅水。ハウスを閉めきり、そのまま2週間放置します。

地面に透明ビニールをかぶせた方が短期間でできますが、そのままでも大丈夫です。夏場の閉めきったビニールハウスの中は晴れた昼には60度以上になるからです。余談ですが、この暑さを利用してドライトマト、ドライハーブをつくることもあります。

太陽熱処理をしたあとは、ビニールハウスでも土の団粒構造化が進んでいます。水の染み込みやすさなども違い、良い土になったことが実感できます。

少量多品目栽培をしている風来では、同じナス科やウリ科が続かないように以前から輪作をしていたのですが、そのローテーションの中に太陽熱処理を入れることでいい効果が生まれています。ぜひこのように、自然の恵みである太陽熱を利用していきましょう。

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