台風が農業に与える被害
日本で農業をする限り、台風対策は避けては通れません。
8〜10月にかけての台風シーズンは、やっかいなことに農繁期と重なってしまうことも。
畑には収穫真っ盛りの果菜類や、秋に収穫を迎える果樹が実っているうえ、秋冬野菜のタネまきや定植の時期でもあります。
十分な対策をしないままに台風が接近してしまうと、強風によって作物が倒れてしまったり、果実に傷が付いて規格外品が大発生したり、定植したばかりの秋野菜の苗が飛ばされたり、豪雨にたたかれて枯れてしまったり、あるいは、圃場(ほじょう)の冠水などの影響で病気が蔓延したり、冬に活躍するはずだったビニールハウスが倒壊したり……と、ただ一度の台風にすら、翌春まで持ち越すような大損害を受ける可能性があります。
近年は、地球温暖化の影響で海水温が上昇し、大型の台風が増えてきています。日本の農家にとって、台風対策はますます必須のものになるでしょう。
台風対策を行う前の予備知識
幸いなことに、台風は数ある自然災害のなかでも事前に対処がしやすい災害です。
台風が発生してから接近してくるまでに猶予期間があるうえ、接近する日時や、台風そのものの規模や進路、風向きなどの予測が詳しく報道されます。こうした情報を生かした対策を練ることが肝心です。
台風の勢力はヘクトパスカル(hPa)という単位で表されます。台風の中心気圧を指すものであり、この数値が低いほど周りから空気が勢いよく流れこみやすくなるため、中心気圧の低い台風ほど風が強くなります。
しかし、ヘクトパスカルの数値は目安で、実際には台風の勢力は「大きさ」と「強さ」で表されます。大きさは風速15m/s以上の強風が吹く範囲の広さ(半径)で、強さは最大風速で表されます。
台風は巨大な空気の渦巻きになっており、反時計回りに強い風が吹き込んでいます。したがって、東側の半円では台風を移動させる周りの風と台風自身の風とが合わさって風がより強くなります。
一般的な気象予報の他にも、地図と連動してエリアごとの風雨を予測できるなどの便利なアプリが登場しています。風速だけではなく、風向きまでも細かく予測してくれるものもあり、台風対策を講じるための便利なツールとして活用する人も多いようです。
【施設栽培】台風が来る前の対策
施設栽培の場合は、強風によるビニールハウスの倒壊防止が第一です。この時期にハウスが壊れてしまうと、以後の栽培計画を大幅に変更せざるをえません。少々手間になっても、考えられるリスクをひとつずつ確実に潰していくことが大事です。
隙間(すきま)風対策
ハウス内に強風が吹き込むと上に持ち上げる力が働き、ビニールが飛んだり、最悪の場合は骨組みが壊れてしまいます。そのため、台風接近前にはすべての開口部を閉め切ります。
ビニールに破れているところがあれば補修用のテープで塞いだうえで、入り口や妻窓、天窓などがちゃんと閉め切ることができるかも確かめましょう。
側面にある巻き上げパイプを下までおろし、風であおられても動かないようにロックします。
また、ビニールを押さえているフィルム留め材(ビニペットなど)が外れていないか、ハウスバンド(マイカ線など)が緩んでいないかなどもチェックします。
また、ビニールハウス周辺に物が放置されていると、それが強風で飛んでビニールを破ることもあるので、確認しましょう。
アーチパイプの引き抜き対策
豪雨と強風が合わさると、地盤が緩んで、アーチパイプが引き抜かれてしまうこともあります。ハウスの周囲にいつも水がたまりやすいところは、アーチパイプが建設時と同じくらい深く挿さっているか、パイプ付近の土が流亡してむき出しになっていないかなどをよく観察してください。もし、土が少なくなっているようなら、新たに足したうえで、突いて地盤を固めておきます。
骨組みを補強
台風時は、ハウスを外側から押すような強い力がかかります。これにより、ハウスがなぎ倒されるような形で倒壊することがあります。
アーチパイプに添わせるように筋交いパイプを入れるなど、骨組みの強度を上げるのもひとつの手です。
ビニールを外す
強力な台風が接近しており、なおかつ、ハウス内に何も植えられていない場合は、思い切ってビニールを外すという手もあります。骨組みだけになったハウスなら、風によって煽られることがないため、倒壊の心配はありません。ビニールを剥がす手間、張り直す手間は大変ですが、それでも骨組みごと倒壊するよりは被害が抑えられます。
【施設栽培】台風通過後の対策
施設園芸の場合は、ハウスの破損や作物の被害状況の確認を先んじて行います。このように先手を打つことで、共済申請も破損部分の修理もスムーズにできます。
開放・換気
台風とともに湿った空気も去っていくため、通過後はうってかわって晴天となります。
台風対策用に厳重に閉め切ったハウスの中は、日中であればすぐに40度以上に上昇するため、ただちに入り口や天窓、妻窓、サイドなどを開き、換気しましょう。
状況確認
ハウスの開放・換気と同時に、台風による破損がないかどうかを入念にチェックします。
このとき、園芸施設共済に加入している場合は、損害評価に関る資料として、ハウスの破損箇所や、被害を受けた作物の状況をわかりやすく撮影しておき、申請を行います。
(破損などがある場合)修理依頼
破損箇所は、次の台風に備えて、早めに修理しておくことをおススメします。
台風後は、周りの農家も似たような被害状況になることが多く、近隣の資材屋さんへの注文や問い合わせが殺到します。そのため、修理に来てもらえるのが遅くなったり、自分で直すにしても部品の調達に時間がかかるなど、後手に回っては思うようにはいきません。
台風でダメージを受けた作物におすすめの資材
アヅ・リキッド413・レコルト/デンカ株式会社
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出典:デンカ株式会社
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全国の農家さんから「根張りが良くなった!」という声が続々と届いています。神奈川県では、台風で定植直後の苗がしおれてしまった時、デンカの腐植酸資材を作物の上部より施用したところ、数日後に持ち直したという事例も。天候不良時の安心にデンカの腐植酸資材が貢献します。
※掲載画像の試験内容詳細はデンカHPを参照ください。
【露地栽培】台風が来る前の対策
露地栽培は、台風による風雨の影響をまともに受けます。強風によって作物が傷んだり、倒伏したりといった物理的被害だけではありません。風によってついた傷や、豪雨による泥はねによって病気になってしまうことや、圃場の冠水によって病原菌が圃場全体に蔓延することもあります。
強風や豪雨から作物を守りつつ、同時に病気が蔓延しないよう、予防することが肝心です。
風対策
ナスやピーマンなどの果菜類は、支柱がしっかりしているか、誘引ひもが解けていないかなどを念入りにチェックし、強風に耐えられるように補強をしておきます。すでについている実は、収穫したり摘果したりして、できるだけ枝を軽くしておくことも、枝折れや、幹が裂けるのを防ぐのに有効です。
トウモロコシやオクラ、エダマメなど倒伏の恐れがあるものは、台風が過ぎるまでは支柱を添える、防風ネットを張る、などの対策をします。
植え付け直後の秋冬野菜など草丈の低い作物は、風害を防ぐために、通気性のある被覆資材などで全面を覆います。
露地栽培の風対策におすすめの資材
ダイオタイフーンカバー/株式会社イノベックス
出典:株式会社イノベックス
発芽したて、あるいは定植したての秋野菜等を強風や、豪雨から守るためのネット。台風が接近する限られた時間でも広い面積に展張できるよう、従来のネット資材よりも広幅になっており、何本かのウネを1枚で覆うことができる。既存の防風ネットや防虫ネットよりも軽量で扱いやすいのも特徴。
雨対策
圃場に水がたまらないように、明渠(めいきょ)や排水路が泥やゴミなどで埋まったり、詰まったりしていないかをチェックします。
また、水田から転換した畑などの事情で暗渠(あんきょ)が設置されている場合は、スムーズに排出されるかどうかをチェックし、必要があれば内部を掃除しておくとよいでしょう。
病気対策
強い風雨によって消耗し、傷がついた作物には病気が入りやすくなります。
基本的に、病気を防ぐ殺菌剤の散布は予防が肝心です。治癒効果のある薬剤も一部にはありますが、大半の病気は侵入したら完全には治らないことが多いです。
特に、豪雨が予測される台風の場合は、以前に散布した殺菌剤の「残効期間」(農薬の有効成分の効果が持続している期間)に注意してください。作物表面を覆って病気から守るタイプの薬剤は豪雨によって洗い流されると通常よりも残効期間が短くなります。薬剤の残効期間がもうすぐ切れるような場合は、台風が接近するとわかった時点で必要に応じて再度散布しましょう。
特に、果樹で多いのが雨伝染性の病気です。ナシ黒星病、ブドウ黒とう病といったものには、より効果の高い台風通過前の予防防除がすすめられています。
台風の病気対策におすすめの農薬
Zボルドー(水和剤)/日本農薬株式会社
出典:日本農薬株式会社
さまざまな作物、種々の病害に適応がある。ボルドーは、生石灰に水を加えた石灰乳液に硫酸銅を加えた伝統的な殺菌剤で、薬害がより軽減されるように改良したものがZボルドー。他の殺菌剤とは効く仕組みが違うため病原菌が耐性化しにくく、 各作物で使用回数制限のない農薬である。
JAS有機にも対応している。いわば「幅広く使える万能薬」。
ダコニール1000/エス・ディー・エス バイオテック株式会社
台風などの暴風雨により葉や茎がダメージを受けることで、傷口からの病気の感染リスクが高まります。従って、天候が回復したら直ちに殺菌剤の予防散布(初期防除)を行うことが重要です。 ダコニール1000は70以上の作物、およそ180種類の病害に登録を持ち、薬害の心配も少なく、薬剤耐性菌が問題となった報告もないため、指導機関や生産者の間で高い評価を得ています。
【露地栽培】台風通過後の対策
台風通過後の露地畑ではやるべきことがたくさんあります。畑を見回り、現状をよく把握したうえで、ひとつひとつ、こなしていきましょう。
排水対策
まずは、ウネ間などに水がたまっていないかをチェックします。作物付近にある水が早く排水されるように、台風で運ばれたゴミや、豪雨で流されてきた泥などを、明渠や排水路から取り除きます。
圃場が冠水してしまった場合は、土木用の水中ポンプなどを使って排水します。冠水による影響が深刻そうであれば「酸素供給剤」などを散布します。酸素供給剤は、土壌や葉面上の重金属や有機物と反応すると、酸素と水となり、作物の根が呼吸するのを助けるものです。緊急時は速効性のある液剤タイプのものを使います。
台風で根傷みした作物におすすめの薬剤
MOX/保土谷化学工業株式会社
出典:保土谷化学工業株式会社
即効性のある液剤タイプの酸素供給剤で、台風やゲリラ豪雨などで畑が冠水してしまった際に、緊急時の湿害対策として使いやすい。成分の過酸化水素が、土壌中または葉面上の重金属や有機物と反応すると、酸素と水となり、作物の根が呼吸するのを助ける。製品10リットル当たり約200リットルの酸素量を放出する。
片付け
風害防止に掛けていたベタ掛け資材などは、そのままにしておくと内部が蒸れてしまうため、早急に片付けます。
応急処置的に設置した支柱なども、その後の作業の邪魔になるようであれば撤去するのが望ましいです。
防除・洗い流し
葉に付着した泥は病気の感染源になります。泥を洗い流すことも兼ねて、殺菌・殺虫剤の予防散布をしましょう。
また、海岸近くの圃場では、台風の強風によって海水が巻き上げられ、降り注いだ可能性があります。いわゆる「風台風」の場合は特に、海水の塩分が葉に付着しても雨によって流れ落ちないため、塩害が起きやすくなります。
付着した塩分は時間が経つごとに浸透していくので、可能な限り早く、動力噴霧器などで真水を散布し、洗い流しましょう。
台風対策は「これをやれば絶対に大丈夫!」という手立てはありませんが、最初にも触れたように、台風は予測のできる自然災害です。どれくらいの規模の台風か、いつ接近するかなど、事前にわかるものなので、さまざまな処置をすることができます。
ただし、応急処置はあくまで応急処置で、先んじて準備しておいたほうが直前に焦らずに済みます。これまでの対策でよかったかどうか、ぜひ確認してみてください。