乳牛の健康がおいしい牛乳を育む。牛って何を食べているの?
牛から搾った乳汁から作られる「牛乳」は、言わずもがな、酪農家が牛を育て搾乳した生乳が原料となります。生乳を提供する牛は「乳牛(にゅうぎゅう)」と呼ばれ、世界で最も多く飼育されているのが黒と白のまだら模様でからだが大きく、乳量が多い「ホルスタイン・フリーシアン種」です。次いで、日本では淡い褐色の「ジャージー種」が多く飼育されています。
これらの乳牛は主に「粗飼料(そしりょう)」と「濃厚飼料(のうこうしりょう)」を食べて育ちます。
◎粗飼料とは
乾草やサイレージ(牧草や稲わらなどを乳酸発酵させたもの)など、乳牛の消化器官の働きに必要な繊維質を多く含んだ飼料。乳牛は第1胃で微生物による発酵・分解を行い、栄養を得ます。
◎濃厚飼料とは
トウモロコシや大麦、ふすま、大豆カスなどたんぱく質やでんぷんなどを多く含む飼料のこと。牛の生育状況に合わせ、数種類を混合した配合飼料として給餌(きゅうじ)します。形状は粉末やフレーク状、ペレットなどさまざま。
生乳は、牛が食べたものから作られます。それは母乳で子を育てる人間と全く同じ。酪農家は乳牛の体重、泌乳量、産次数(分娩回数)、健康状態などから栄養設計を綿密に立て、各飼料の給餌量を決めています。
牛の生態に合わせた牛舎
「食べた後、すぐに寝ると牛になる」という慣用句が表すように、牛は1日の大半を寝そべって過ごします。眠る際は首を曲げ、頭を胸に乗せる体勢をとります。しかし、意外にも平均睡眠時間は3時間程度と超ショートスリーパー。牛が1日の中で最も時間を費やす活動が「横臥(おうが)」と「反芻(はんすう)」です。
体をただ横たえる横臥の間、牛の体内では一度飲みこんだ食物を再び口中に戻し、よく噛んでからまた飲みこむ動作、反芻が行われています。時間にすると8〜9時間にも及ぶ反芻の最中、牛は半覚醒状態になっており、夢うつつの状態で口をモゴモゴしているのが常。この愛らしい姿から、前述の慣用句が生まれたのかもしれませんね。
こうした牛の生体を考慮し、酪農家は牛舎や飼育頭数に合わせた飼育を行っています。
◎フリーストール
牛をつながず、自由に歩き回れるスペースを持った牛舎。ストールはパイプなどで1頭ずつに仕切られていますが、ストールを自由に出入りすることができます。1頭1頭にベッドがあるため清潔が保たれ、給餌場を休息場内に設けられるなどの利点があります。これにより、給餌作業や搾乳作業の労力も少なくてすむことになります。
◎フリーバーン
フリーストールと異なり、仕切りがなく、放し飼いになるのが特徴です。牛は好きな場所でリラックスして横になることができます。利点としては牛舎の 建築費が抑えられることや、ベッドにオガクズを用いた場合、 オガクズとふん尿が適度に混ざり、 ふん尿処理を行う時に水分調節が可能なことがあげられます。
◎つなぎ
牛舎内に牛を固定し、つなぎ留めて飼養する牛舎。つなぎ飼い式の利点は、1頭1頭に酪農家の目が行き届きやすく、健康状態がよく観察できることや、餌の奪い合いがない、牛舎面積が小さくてすむなどがあげられます。フリーストールやフリーバーンが大規模経営に適してるのに対し、つなぎは飼育頭数が40〜50頭が最適とされていることから、日本では最もポピュラーな牛舎仕様になっています。
牛の飼育で重要なのは、ストレスを与えないことです。ストレスを感じると乳の出が悪くなったり、乳房炎などさまざまな病気を引き起こす原因につながることがあります。酪農家は日々、牛の健康状態を観察し、管理しながら大切に育てているのです。
朝夕1日2回の搾乳
乳牛は一般的に朝と夕方、1日2回搾乳をします。搾乳量に個体差はありますが1日に20〜30L、200mLの牛乳容器で100〜150本になります。
かつては手で搾っていましたが、多頭化が進んだ現代は「ミルカー」と呼ばれる搾乳機を用いる酪農家がほとんどです。日本では主に、次の3つの搾乳方法が採用されています。
◎パイプラインミルカー
牛1頭1頭にミルカーを装着し、搾った生乳がパイプラインを通して保冷用のバルククーラーに送られます。これにより人手の省力化が図られています。ミルカーを牛舎に持って行く手間があるため、主に小規模経営の酪農家で採用されています。
◎ミルキングパーラー
主にフリーストール式牛舎の牧場で使用され、一度に多数の乳牛を搾ることができる搾乳方法です。搾乳の時間になると牛をミルキングパーラーに移動させ、そこでミルカーを装着。搾乳が終わると牛は自らミルキングパーラーから出ていきます。牛が回転しながら搾乳するロータリー、横搾りのタンデム、ヘリングボーン、後ろ搾りのパラレルと4つの搾乳方法があります。パイプラインミルカーに比べて作業効率が良いため、主に大規模経営で採用されています。
◎搾乳ロボット
機械が搾乳作業を自動的に行うシステム。システム管理コンピューター、センサー、自動乳頭洗浄装置、ボックス管理コンピューターで構成されています。 センサーによって個々の牛が識別され、搾乳に関連した一連の作業(乳頭清拭、ミルカー装着・着脱、ストール外への誘導など)が自動で行われます。搾乳作業を大幅に軽労化できるのが最大のメリット。離農や後継者不足から担い手減少が懸念される酪農業界において、ゆとりある酪農経営を提供する技術として期待されています。
生乳が牛乳へ。酪農家から乳業工場へ安全輸送
搾乳したての生乳は牛の体温に近い30度前後になっています。そのままでは細菌が繁殖し、品質低下につながるため、搾乳後はステンレス製のタンク「バルククーラー」で約4度に冷やし一時保管します。乳質検査実施後、集乳車が各酪農家を巡回。低温をキープしたまま乳業工場へ輸送します。
集乳時、酪農家ごとに生乳のサンプルを採取することで万が一生乳品質に問題があった場合、酪農家を特定することができます。飼料や飼育環境、搾乳した生乳の品質管理に至るまで、酪農家・集乳者・乳業工場が管理を徹底することでわたしたちは日々、安心・安全な牛乳を飲むことができるのです。
まちの基幹産業・酪農を浪江に取り戻そう!
浪江町復興牧場の建設地・福島県浪江町は、福島県浜通り・沿岸部の北部に位置する海、山、川に囲まれた自然豊かな町です。2011年3月11日の東日本大震災における東京電力福島第1原子力発電所事故から11年、現在、インフラ整備やまちづくりなど、復興に向けた取り組みが行われています。
令和3年には復興のシンボルとして「道のなみえ」がグランドオープン。施設内には浪江町産の新鮮な野菜や花、請戸漁港(うけどぎょこう)で水揚げされた新鮮な海産物などをそろえた産地直売所「いなほ」、浪江町のソウルフード、コッペパンを提供するパン屋さん「ほのか」、2013年B級グルメ選手権「B-1グランプリ」で1位を獲得した「なみえ焼そば」、浪江オリジナルパフェなどの“なみえグルメ”が楽しめるフードテラス「かなで」を併設。国指定の伝統工芸品「大堀相馬焼(おおぼりそうまやき)」の陶芸体験施設や、地酒の製造見学・販売施設もあり、町の新たなランドマークとして、連日賑わいを見せています。
「福島ロボットテストフィールド」や世界最大級の水素製造実証施設「福島水素エネルギー研究フィールド」など先端産業の拠点としても注目を集める浪江町に新たに加わる浪江町復興牧場は、令和7年度の運用開始に向け準備が進んでいます。震災によって離農を余儀なくされた酪農家が帰る場所としてはもちろん、最新鋭の技術や研修施設を備えた復興牧場は、日本の酪農業を牽引する施設です。
震災を乗り越え、復興に向けて力強く歩みだした浪江町はさまざまな可能性を秘めています。かつて、町の基幹産業の一つだった酪農業復活のカギとなる浪江町復興牧場。その完成は多くの人の希望になることでしょう。
浪江町へのアクセス
・鉄道(JR)
東京から新幹線で約3時間
仙台から常磐線で約1時間10分
・自動車
東京から常磐道で約2時間40分
仙台から仙台東部道路ー常磐道で約1時間15分
新潟から磐越道-国道288号線経由で約3時間
・飛行機
札幌(新千歳空港)→ 福島空港 約1時間15分
大阪(伊丹空港) → 福島空港 約1時間5分
名古屋 → 仙台空港 約1時間5分
福岡 → 仙台空港 約1時間45分
■お問い合わせ■
福島県酪農業協同組合
〒969-1103
福島県本宮市仁井田字一里壇17
TEL:0243-33-1101
E-mail:info@fukuraku.or.jp