規格変更で資材費高騰を乗り切る! JAおきなわ、小ギク農家の負担減と営農継続のために挑戦
公開日:2022年09月06日
最終更新日:
全国の農場を渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。世界情勢による物価高騰で農業資材や肥料も値上がりし、その影響は農業現場にも出ています。そんな中、農家の負担を減らそうとJAおきなわが主導で、花きの規格変更に踏み出そうとしているとの情報を聞き、取材にやってきました。規格変更により農家にどのような効果があると見込まれているのでしょうか?
資材価格高騰で農家の経営圧迫! 規格を小さくしてコストダウンを目指す
物価高騰が騒がれている昨今、農業資材費や燃料費も上がり、農業現場の経営はさらに厳しい状況になっていくという声を多く聞きます。
そんな中、農家の負担を減らそうと、JAおきなわでは小ギクの規格を小さくすることで資材費や運搬費を削減しようという取り組みに向けて動き出しています。
沖縄県は小ギクの出荷量日本1位
規格を小さくすることで農家にどれくらいのメリットがあるのか? また、小ギクの価格は安くなってしまわないのか? 物価高騰の中で農家の経営を守るJAおきなわの対策について担当者と農家に話を聞くことにしました。
まずは、JAおきなわ農業振興本部で主に花きの販売戦略を担当する長堂勇(ながどう・いさむ)さんを訪ねました。
JAおきなわ農業振興本部営農販売部次長の長堂勇さん
コバマツ
物価高騰で、資材や肥料、農薬の値段が上がり、農家も経営が圧迫されているという声をよく聞きます。今回の小ギクの規格変更の取り組みですが、具体的にどのような内容になるんでしょうか?
従来の小ギクの規格がL品で75センチだったところを70センチに変えて、運送費を抑えることを目指しています。小ギクの長さを短くすることで、段ボールのサイズを小さくし、資材費と運搬コストを抑えることが狙いですね。
長堂さん
コバマツ
あまりイメージができないんですけど、5センチ茎を短くするだけで経費に影響するんですか……?
小ギクは1ケースおよそ14キロで配送していたんですが、5センチ縮めることで500〜600グラム減ることが見込まれていて、運送料も1ケース500円ほど下げることができるのではないかと予想しています。さらに、段ボールのサイズも小さくできるので、その分の資材費が軽減されることも狙っています。
長堂さん
現在は1ケース14キロで出荷している
コバマツ
1ケース500円は大きいですね! でも、出荷する作物が軽くなったら農家の利益に影響は出ませんか……?
野菜は重さで値段が決まることがほとんどですが、花きは1本あたりに値段がつくので、重さは最低限の出荷規格で定めていて、見た目のボリューム感を重視しています。
長堂さん
コバマツ
そうなんだ! だったら軽くなっても心配ないですね! 農家にとっても大きなメリットがある取り組みですね!
経費を抑えて、小ギクの価格を上げていきたい
コバマツ
9月からまた段ボールなどの資材費が上がることを見越した早い段階の動きだなと感じていますが、どうしてこんなに早く対策をしようと思ったんですか?
肥料代も資材費も上がっていく中で、農家の皆さんから「上がっていないのは農産物の値段だけだよ」と言われて、なんとかせねばと思い動きました。
長堂さん
コバマツ
確かに、作物の値段も上がらないと農家はやっていけませんよね。
でも、この取り組みを実施すると、今までより花が小さくなるということですよね? 市場や花屋から、今までより安い価格での取引を求められちゃうんじゃないかな?って思うんですけど、そのあたりはどうなんでしょうか?
花のボリュームが小さくならないように、栽培期間は従来通りの110日間栽培したものを出荷してもらう予定です。花が小さくなって、価格が安くなってしまっては取り組みの意味がなくなってしまうので、価格に影響が出ない栽培を周知します。
長堂さん
コバマツ
花きは1本に対して値段がつくこともあって、花のボリュームが変わらなければ、値段にもそんなに影響なさそうですね。
花屋では販売の際に茎を切っていて、その残渣(ざんさ)処理にもお金がかかっているんです。規格を小さくすることで、売り先の残渣処理費用を軽減させる効果も見込めるので、キクの価格アップの交渉もできるのではないかと考えています。
長堂さん
コバマツ
農家の経費削減だけじゃなくて、価格アップにもつながる可能性があるんですね!
一番は農家の皆さんに農業を続けていってもらえるようにすることが大切だと考えています。そのためにはコスト削減の方法も私たちJAが考えて、実行していかなければなりません。きちんと売り先にも取り組みの理解を得て、安定的な価格で取引してもらう。そのためには買い手のメリットも提示していかなければと思っています。
長堂さん
小ギク生産者に、規格変更のメリット・デメリットについて聞いてみた
今回のこの取り組みについて、生産者はどのように感じているのでしょうか。沖縄県読谷村(よみたんそん)で花き栽培をしている上地園芸さんに行ってきました。
上地園芸の上地一樹(うえち・かずき)さん
コバマツ
生産者の立場から、JAおきなわの小ギクの規格変更の取り組みについて、どう思いますか?
物価高騰で生産者は本当に厳しい状況にありますから。こういった取り組みが出てくるのはいいことだと思います。でも不安な面もありますね。小ギクの選別機械が従来の規格で設定されているので、変更になった規格にきちんと対応できるのかとか、想定できないデメリットもありそうです。
上地さん
小ギクは機械を通して選別する
コバマツ
始まってみないとまだ分からない部分も多いですよね……! 規格が変わることで、肥料や農薬の使用量が減るということもあるんですかね?
JAは110日間の栽培期間を守ってくださいと言っているので、今期はこのままで、来年以降は花の品質とボリュームを落とさない範囲で、少し栽培期間を短くできないかなとは考えています。1週間出荷時期が違うだけで、農薬、肥料の経費が3~5万円くらい減りますからね。きちんと規格に沿えるように、農家も頭と体を使って商品づくりをしていかなければなりません。
そこは農家の腕次第かなと。
上地さん
コバマツ
いままでとは違う規格で商品を出荷するのも、試行錯誤が必要で大変そう! 今後メリットとデメリットが顕在化されてきたら、JAと現場のすり合わせも必要になってきそうですね。
農業を続けていけなくなる状況もそう遠くないと感じています。いろいろな関係機関と連帯して続けていける方法を見つけていきたいですね。
上地さん
物価高騰で、資材や肥料なども値上がりし、農家も経営が圧迫される状況が今後ますます増えそうです。
農業現場だけではなく、流通業者、消費者が産地の現状を理解して農家の所得維持・向上につながる対策をしていくことが今後必要なのではないかと感じました。