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時間という名の最大のコストを見直そう【ゼロからはじめる独立農家#36】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

時間という名の最大のコストを見直そう【ゼロからはじめる独立農家#36】

配達、納品は農家自身がして当たり前だと思っていませんか? 特に就農当初は時間もあるし、コスト軽減のために自分でやってしまおうと思いがち。しかし、小さい農家にとっては、経営者の時間こそがなにより大切です。農作業や加工作業はもちろん、アイデアも時間に余裕がないと生まれてきません。時間という名のリソースの重要性をあらためて考えてみましょう。

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配達中にできることは配達のみ

私が独立就農したての頃、当然栽培をはじめて間もなかったので、販売できる収穫物は何もない状態でした。そこで最初に販売したのが、母直伝のよもぎ団子と試食を兼ねて購入した野菜で作った漬物です。

就農した2000年当時はこの地域に今のような大型直売所がなく、それぞれの農業法人が店を構えるのが流行していました。研修時代に知り合ったそのような直売店4軒と自然食品店2軒での委託販売から我が菜園生活 風来(ふうらい)はスタートしました。委託する直売店や自然食品店があるのは車で30分くらいの地域で、そこへ月・水・土曜に配達に行っていました。5~6軒回るとなると午前中いっぱいかかり、昼食は外食に。それでも、1回の配達での売り上げは平均2万円ほどで、純利益でいうと1万円にも届かなかったと記憶しています。

当時はそれが当たり前だと考え、配達コストとしては自分の人件費が一番安くつくと思っていました。そんな中、配達中に急ぐあまり何度か交通違反をしてしまい、安全面で問題が出てきたことや罰金の支払いが続いたことで「一体何をしているんだろう」とこれまでの当たり前を見直すキッカケとなりました。

考えてみると、配達中には畑作業も加工仕事もできない。日記やブログの内容を考えるにしても、それは畑作業中にもできるし、運転中と比べて危険もありません。

それからは、配達をやめる方向にかじを切りました。売り上げの多くを委託販売に頼っていたので怖くもあったのですが、その頃には少しずつインターネット販売も増えてきていたので、思い切って主流をそちらに変更することに。自然食品店など、まとまった注文のあるところへは宅配便に依頼。当初は配送料がもったいないと思いましたが、往復1時間のところを600円で届けてもらえる。自分が配達に行くと、時間を使う上にガソリン代もかかる。その頃から個人事業主である自分が本当にすべきことは何だろうかと冷静に考えるようになりました。

集荷を待つ荷物。全国へ旅立ちます

これまでは配達中に店を閉めていたこともあり、配達に行かなくなったことで店の活用の幅が広がりました。加えて、自分の時間の使い方を意識しはじめたことで、時間をコントロールするすべも徐々に身についていきました。

例えば、店舗の営業時間を当時の一般的な農家直売店と同じ10~17時にすると、休憩時間も落ち着いてとれず、午後の畑仕事もあるため大変でした。しかも、元々人通りも少ない地域なのでフリーのお客さんはほぼ望めない。そこで店の営業時間を思い切って10~13時にしました。その時間なら発送作業や加工仕事で店に隣接した加工場にいるからです。お客さんにとっては不便かとも思ったのですが、13時以降は畑仕事に集中できますし、店番を雇う必要もない。その分経費がかからないことで安くできれば、お客さんにとってもいいと思いました。実際やってみると、17時まで店を開けていた時と売り上げは変わりませんでした。

配達に行かなくなったことで自分の時間の価値を再発見。時間を作ろうと思わなければ、ずっと時間に使われる立場だったと思います。

時間の余裕がアイデアを生み出す

個人事業主だからこそ、自分の時間が一番のコストと考えるといろいろと見方が変わってきます。風来では細かいスケジュールは立てずに自分の時間をどう埋めていくか、生産性を中心に臨機応変に対応していくことを考えています。

天気が良い時は畑作業、悪い時には加工作業やネット販売の商品ページ作りなどをできるようにしておきます。作業しているということは何かを生み出しているということ。そして時間に余裕ができると、アイデアが実行できるようになります。

新商品や各種教室など知恵を販売につなげるアイデアは暇な時より忙しい時に出てきたりするのですが、時間に余裕がないと実行することはできません。忙しいことと時間に余裕がないことの違いは、自分の時間を主体的に自由にできるかどうかです。

ここ最近のアイデアとしては、ヒット商品であるイチジクのピクルスとバジルの実のオイル漬け、胡瓜(きゅうり)の新生姜(しょうが)甘辛醤油(しょうゆ)漬け、あとオンライン味噌(みそ)づくり教室になります。新商品は、農作業しながら思いついたらネット検索して参考になるレシピがないかチェック。試作を繰り返してできたらラベルシール、原材料シールを自作し、自社ホームページや産直ECサイトで販売開始に至りました。個人だからこその強みはPDCAのサイクルの早さにあります。ここは大手にはできない時間の使い方で有利な点です。

昨年大ヒットしたイチジクのピクルス

そして時間の融通を利かせるという考えから、風来ではネット販売においても個人の顧客中心にしています。個人ですと少量の商品でも販売できますし、売り切れた場合もすぐに販売休止にすることができます。また発送日もある程度こちらで決めることができるのですが、卸販売だとそうはいきません。発送日が事前に分かり、出すものもこちらでコントロールできれば必要な分だけ収穫、加工して発送作業すればいいので計画が立てやすく、食材的にも時間的にもロスがありません。

ネット環境や便利なITツールが普及した今の時代だからこそ、小さい農家のような個人事業主も時間を生かせるようになってきたと実感しています。

農的不労所得を利用する

「農業は大変」と言われるゆえんは、人手がかかり作業効率が悪いことが大きく影響しています。実際その通りなんですが、作物そのものは勝手に育つ。その部分を利用すると自分が働かなくてもいいところが出てきます。

農には愛情が必要ですが、農業には見切る力が必要になってきます。家庭菜園ですと1本の木からできるだけ多く、そして長く収穫したくなるのも道理ですが、それだけにかまけていたら収益性が悪くなってしまいます。いかに手間、つまり時間をかけないように、しかも良いものを育てるかというバランスが農業には必要になります。

以前、風来では野菜の収穫を毎日して、毎日野菜セットを発送していましたが、現在は月・水・金の週3日に集約しています。そして火・木・土は主に加工日としています。毎日収穫に出なくなったことで、時間的に余裕が生まれてきました。

ただ、夏の実野菜の時期は1日収穫しないと大きく育つものもあります。そこで風来では大きくなってもやわらかい丸オクラ、熟してもすぐに収穫しなくて大丈夫なミニトマト「アイコ」など、品種に気を配っています。また野菜セットに入れるには大きすぎるズッキーニやキュウリ、ナスは加工用にしています。そのことで歩留まりもよくなるので一石二鳥となっています。

植えると育ってくれる野菜たち

野菜は勝手に育ってくれるとありがたいのですが、勝手に育ってやっかいなのが雑草。特に夏場の雑草はやっかいで、少しの間にすぐ1メートルぐらいの高さになります。そこで風来では夏野菜から秋・冬野菜の切り替えの際もマルチをギリギリまではがさず、それでいてすぐはがせるよう留め方などを工夫しています。雑草が生えると土も硬くなり耕起するのにも時間がかかります。何度も痛い目に遭っているので今は徹底するようになりました。

農的不労所得、つまり自然を利用した雑草対策としては、前回の記事 で書いた太陽熱処理も強い味方になってくれます。ビニールを張るだけで雑草を抑えられ、土の団粒構造化もすすめてくれる。炎天下の作業は確かに大変ですが、ほんの少し先行して時間を使うだけでそのあとが時間的にも労働的にも楽になります。

農的不労所得につながるものとしては発酵もそのひとつだと実感していますが、そちらはまた機会があれば書きたいと思います。

自然相手の農業はやることがキリなくあり、つい目先のことを優先してしまいがちですが、個人事業主である自分の時間を軸に考えていくとやるべき順番が見えてきます。そして時間を効率的に使うと売り上げと収益が増えてきます。自分の時間を安売りせず、価値を高めていきましょう。

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