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航空法改正でドローンはどう変わる?

山口 亮子

ライター:

航空法改正でドローンはどう変わる?

「空飛ぶロボット」と呼ばれるドローン。上空からの撮影や農薬散布だけでなく、播種(はしゅ)も可能になり、積載重量も増えるなど技術革新が進む。今はまだ使用者の監視下で飛ばさなければならないが、完全自動化を視野に規制緩和や法制度の整備が進んでいる。

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農薬散布の申請手続きが簡素化か

ドローンでは、規制の強化と緩和がともに進む。その飛行に関しては、国土交通省が航空法で、農薬に関しては農林水産省が農薬取締法で所管する。大きな変化を迎えているのは、航空法だ。2022年は、6月と12月の2回にわたって、改正航空法が施行された。

このうち、規制強化に当たるのが、2022年6月20日に100グラム以上のドローンの登録が義務化されたこと。緩和に当たるのが、同年12月以降に国土交通大臣に農薬散布の承認を求める申請手続きを簡素化する動きがあることだ。

安全上の配慮から機体の登録が義務に

まずは、登録の義務化から見ていこう。

ドローンの普及に伴って、航空法に違反した飛行や事故が増えている。しかし、所有者を特定できずに事故原因を究明したり、改善を求めたりできない事例も出ており、規制強化のために航空法が改正された。

これにより、100グラム以上の機体は、登録済みのものでないと屋外で飛ばすことができなくなっている。国交省によれば、登録数はすでに30万機を超えている。なお、農業用ドローンに限った登録数は不明である。

所有者は機体の情報や所有者や使用者の情報をオンラインや郵送で提出して申請し、登録記号を交付される。その登録記号は、機体に表示しなければならない。

ドローンに関するお役立ち資料はこちらからDL

ドローン版ナンバープレート「リモートID」も義務化

加えて、2022年6月20日以降に機体を登録する場合は、「リモートID」機能を搭載しなければならなくなった。これは、ドローン版の「ナンバープレート」といえる。登録記号や製造番号といった機体を識別するための情報を機器から発信し、離れた場所からも受信できるようにするものだ。

その通信には、近距離無線通信の規格の一つであるBluetooth(ブルートゥース)などを使う。機体を目視できる程度の近さなら、国交省航空局や空港をはじめとする重要施設の管理者、警察などが、機体の情報を把握し、怪しい機体かどうか判断できるようになる。

ドローンの登録制度のイメージ図(出典:国土交通省ウェブサイト

無人航空機の登録制度(国土交通省ウェブサイト)
https://www.mlit.go.jp/koku/koku_ua_registration.html

機体認証と技能証明で農業利用にも手続き簡素化の波?

ここまで規制の強化を見てきた。ここからは、農薬散布の申請手続きの簡素化という緩和の動きを見ていきたい。

ドローンによる農薬散布は、航空法上の「危険物輸送」「物件投下」に当たり、国土交通大臣の承認が必要となる。現状は飛行開始予定日の10開庁日前までに、事前承認のための申請をしなければならない。この際、申請書に加え、機体や飛行させる人、飛ばすときの体制が安全確保の基準に適合していると示す書類や資料を提出する。

最大1年間まで適用可能となる包括申請ができ、個人の申請だけでなく、ドローンメーカーや販売代理店などが申請を代行することもできる。

ドローンで農薬散布を行うために(農林水産省ウェブサイト)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/drone-132.pdf

この手続きが省略可能になるかもしれない。国交省が機体の認証制度と操縦者の技能証明制度を創設、2022年12月5日から開始されたからだ。

機体の認証制度は、すでに紹介した登録制度とはまた別のものだ。夜間や目視外の飛行といった、より高い安全性が求められる「特定飛行」を行うに当たって、機体の強度や構造、性能を検査し、安全性を確保することを目的とする。ドローンを使った農薬散布が該当する「危険物輸送」「物件投下」も、この特定飛行に含まれる。

機体認証等(国土交通省ウェブサイト)
https://www.mlit.go.jp/koku/certification.html

12月から開始されたもう一つの制度は、飛行に必要な知識と能力を持っていることを証明する資格制度だ。国が定める指定試験機関で、無人航空機技能証明の試験を実施する。

無人航空機操縦者技能証明等(国土交通省ウェブサイト)
https://www.mlit.go.jp/koku/license.html

機体認証と技能証明という二つの制度が創設されたのは、国が「成長戦略実行計画」で2022年度中に次のことを実現すると掲げてきたからだ。それは、「有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行」という「レベル4飛行」である。

レベル4の実現に当たって、国交省は「許可・承認の合理化・簡略化」を進めている。その一環として、農薬散布の申請手続きの省略を検討しているのだ。

国交省無人航空機安全課は「ドローンの使用者がこの2制度を利用することを前提に、一定の飛行の条件を満たして安全確保策を講じれば、承認手続きを省けないか検討中」としている。

今後に期待したい。

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