「つがる豚」ブランドで津軽から全国、そして世界の食卓へ
青森県津軽地方で1965年、豚1頭から創業した木村牧場。
現在は養豚を中心に飼料用米、再生可能エネルギー、精肉販売の4つの事業を展開しています。およそ9haの農場では1万5千頭の豚が肥育され、年間約3万頭が「つがる豚」のブランドで国内外へと出荷されています。
飼料価格の高騰や人手不足、インフレなど、さまざまな課題に直面し、経営環境が厳しさを増している畜産業。
そんな中、木村牧場は時代の先を見据えた取り組みが功を奏して増収・増益を続けており、かつ従業員の有給取得率はおよそ90%。安全・安心で持続可能な畜産業を目指す同社は、2017年に「農場HACCP」認証、2018年に「JGAP」認証を取得し、2022年GAP Japanで新しく創設された『GAP実践大賞』を畜産部門で唯一受賞しました。
大企業並みの労働条件で有給取得率90%を達成
とはいえ、創業からこれまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。先代から事業を引き継いだ木村洋文社長は、「バブル崩壊やリーマンショック、東日本大震災、現在のインフレなど、数々の困難がありましたが、常に時代の先を読んで生き残ってきました」と振り返ります。
木村社長は、現在のような人手不足や飼料価格の高騰を早くから予見し、従業員の待遇改善や職場環境の改善、業務の効率化、海外の影響を受けない国産飼料への転換などに次々と取り組んできました。
「バブルの頃は24時間365日働くような働き方は当たり前でしたが、今は完全週休2日、週40時間労働、残業は月平均で15〜20時間、有給取得率はおよそ90%です。最初は3日に1回休んで利益が出るのかと半信半疑でしたが、利益はしっかり出ています。短時間で集中して働く方が効率も良いことがわかりました」。
畜産業といえば人材の確保が慢性的な課題ですが、木村牧場では賃金体系を抜本的に見直して大企業並みの労働条件で人を雇っています。そして利益が出ればまた人を雇い、人材の定着と完全週休2日の実現、有給取得率を向上させるという、いい循環が生まれています。
「つがる豚」で東京五輪を目指し、JGAP認証を取得
東京オリンピックの招致が始まった頃、木村社長は全社員に向けて一つの目標を掲げました。
それは、オリンピック選手村の食事に木村牧場の「つがる豚」を食材として採用してもらうこと。56年ぶりの日本開催という大きな節目に自社で育てたつがる豚が世界標準の食材に認められることで、社員のモチベーションアップを図ろうと考えたのです。
選手村食堂の食材に選ばれるためには、食の安全や環境保全などへの取り組みの証となる「GAP」認証の取得が不可欠でした。木村牧場では、地域で生産された新鮮な米を飼料に配合したり、つがる豚の排泄物に籾殻などを加えて堆肥づくりを行ったり、豚舎の屋根で太陽光発電を行ったりして、多角的に農場改革を進めた実績がありました。
飼料米の使用は、豚の体調管理だけでなく地域の農業との連携や活性化につながり、臭気対策として始めた堆肥の生産や豚舎の屋根で行う太陽光発電は、資源の有効活用や地域の資源循環に貢献しています。
また職場では、食品安全マニュアルや農作業安全マニュアルの作成、各種手順書の掲示を行い、あらゆる作業や数字を徹底的に「見える化」して安全管理と業務効率の向上を実現。
さらに、労働環境の改善にも積極的に取り組み、年間休日100日以上などの労働条件の実践、自然環境に配慮した取り組みやSDGsの実践がJGAP認証取得、そしてGAP実践大賞で高く評価されたのです。
「私たちの取り組みは、賞を取ろうと思って始めたものではありません。大賞受賞は10年先やその先を見越して動き続けてきた結果のひとつだと受け止めています。良い農業が実践できていること、労働環境の改善と売上・利益の両立ができていることが総合的に評価されたのだと思います」。
数字の見える化をしたことで、現場のリーダーたちの意識が変わり、従業員間のコミュニケーションも上下左右に活発になりました。
「時代の変化を見越して社員一丸で取り組んだ結果、売上・利益を増大できました。この変化を社員全員が肌で感じられたことで、誰もが10年先に向けて挑戦することを恐れなくなったと感じています」。
常に10年先を見据え、持続可能な経営を目指す
変化が激しく、先を見通すことが難しい時代だからこそ、木村社長は「人材の力」の大切さを説きます。
「昔から日本では人を大事にしないといけないと言われてきたにも関わらず、バブル崩壊以降は人に対して冷たい対応をする会社が増えています。しかし、私は人材を単なるコストとして捉えてはいけないと思います。人材は時代の変化に応じる原動力です」。
現在、木村牧場で働く社員の前職は実に多彩です。鉄工所、運送業、お菓子屋、パン屋など、さまざまな経歴を持つ社員がそれぞれの部署で活躍しています。
木村社長は、「多様な個性や能力を持つ社員が活躍できる職場になっていかなければ、継続できない時代になっています」と指摘します。
担い手不足、飼料価格や燃料費の高騰などに見舞われ、苦境に立たされている畜産業界。
しかし、その逆境をバネに強い信念で農場改革に挑み、成長し続ける木村牧場。
これからの経営について木村社長は、「日本はこの先どうなっていくのか、世界はどうなっていくのか、その中で肉の消費はどう変わっていくのか。それらを考えながら10年先を読み、すでに動いています。その読みがたとえ間違っていたとしても、経営者が10年先の未来を指し示していかないと社員はついて来られません」と力を込めます。
安全・安心で質の高い「つがる豚」を青森から全国へ。
持続可能な畜産経営を目指し、養豚業を軸に堆肥づくり、太陽光エネルギーの供給で地域の資源循環にも貢献する木村牧場の挑戦は、まだ始まったばかりです。
【取材協力】
【お問い合わせ】
一般財団法人日本GAP協会 Japan GAP Foundation
日本GAP協会では、日本版畜産GAPである「JGAP畜産」をより身近なものにしていただこうと、JGAPロゴマークの使用方法や使用事例を紹介するオンラインイベントを開催します。
詳細はこちらからご確認ください。