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「農業の現場をもっと知ってほしい」。老舗農家の5代目がSNSで情報発信を続ける理由【農垢の素顔#7 めろん屋富岡】

連載企画:農垢の素顔

「農業の現場をもっと知ってほしい」。老舗農家の5代目がSNSで情報発信を続ける理由【農垢の素顔#7 めろん屋富岡】

農家のTwitterかいわいで「王子」と呼ばれている若手生産者がいる。千葉県成田市でサツマイモやメロンなどを栽培する「めろん屋 富岡」の富岡優人(とみおか・ゆうと)さんだ。農作業の風景や栽培過程を紹介する投稿などが人気を集め、SNSの総フォロワー数は2万人に迫る勢い。今年3月に開かれた全国青年農業者会議では最高賞の農林水産大臣賞を受賞するなど、生産者としての手腕も光る。農業系アカウントの素顔をひも解く本連載の第7回は、同氏の活躍に光を当てていきたい。

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平松農園|仙台 富岡(@5_daime_lon)さん
メロン作り40年、サツマイモ作り120年の歴史を持つ農家の5代目。茨城大学農学部卒業後の2019年に就農し、同年よりInstagram、翌年にはTwitterでの情報発信を開始。「メロン王子」「サツマイモ王子」として知られ、SNSの総フォロワー数は約1万8000人を数える(2023年4月末現在)。

明治時代から続く老舗農家の5代目

千葉県北部中央に位置し、稲作を中心に多様な畑作が行われる成田市。特に同市大栄十余三地区(旧大栄町)は古くから、全国有数のサツマイモ産地として名をはせてきた。この地域で明治33年からサツマイモ栽培に取り組んできたのが富岡農場(のちのメロン屋 富岡)だ。紅はるかや紅あずまのほか、紫芋などの珍しい品種も育てており、1980年代からは、甘さや香りが特徴の「タカミメロン」を栽培している。

5代目園主の富岡優人さんは就農5年目の26歳。父、祖母ら4人で、サツマイモ2.2ヘクタール、メロン30アール、ニンジン20アールを手掛けている。特に品質管理にこだわりを見せ、富岡さんは「メロンでいえば、直接販売がほとんどなので、ギリギリまで熟したメロンを提供できるのが強み。サツマイモでも、常に新しい栽培管理を取り入れながら、品質管理を徹底しています」と胸を張る。

家業を継ぐ決意を固めた高3の夏

「もともと小学生の頃から休みの日は畑で作業を手伝っていたので、卒業文集で将来の夢を『農家』と書くぐらい、就農はゴールとしてありました」と語る富岡さんだが、まずは一般企業に就職して経験を積みたいと考えていた。就農するのは数年先のことだ思っていたそうだ。「高校生くらいから将来のことを考え始め、当時は流通関係の仕事について、農業経営に役立つノウハウなどを身に着けられればと思っていました」

考えが変わったのは、高校3年時。農場の大黒柱だった祖父が亡くなり、人手が足りなくなってしまった。「当時は高校を出てすぐ農業を始めるつもりでしたが、家族に諭され大学へ行かせてもらうことになりました」と富岡さん。大学卒業後すぐに家業を継ぐという決意を固めた。

茨城大学農学部に進学すると、植物生体防御学研究室で農作物の病害を専攻。灰色カビ病やうどんこ病など菌類の病害の感染から発病までのメカニズムを学び、防除の方法を習得した。「さまざまな知識を習得して視野が広がりました。卒業論文を書いたり、データをまとめたりした経験も今に生きています」

全国青年農業者会議で最優秀賞の快挙

大学での経験が実を結んだのが、若手生産者らが農業の課題解決策などを発表する全国青年農業者会議(全国農業青年クラブ連絡協議会主催)だった。千葉県代表として出場した富岡さんは、代々行ってきた独自の採苗方法を発表。これまで先端苗のみを使用するのが慣例だったサツマイモ栽培で、途中苗を活用することで少ない労力で多くの苗が採れ、かつサイズのそろいも良かったとする成果を披露した。取り組みの新規性などが評価され、土地利用型作物部門で最優秀賞である農林水産大臣賞を受賞した。

繁忙期に人が足りず、苗を一遍に植えたい時期を棒に振った経験がこの栽培方法にたどり着いたきっかけだという。十数年ほど途中苗の活用を続けており、春の繁忙期を緩和することにもつながっているそうだ。

「サツマイモは基本的にJA出荷なので、産地同士のチーム戦だと思っています。生産効率を産地全体で上げていければ」と、この採苗方法の普及にも期待を込める。

SNSによって広がった消費者、同業者とのつながり

紡がれてきた歴史を継承した富岡さんだが、自身の代で新たに始めたことがある。それがSNSでの情報発信だ。「はじめはBtoCビジネスを始めるために知名度を上げる目的で始めましたが、次第に農業現場のリアルや、農産物へのこだわりを、もっと多くの消費者の方々に知ってほしいという思いに変わっていきました」

就農してすぐにSNSを始め、今ではTwitter1万人、Instagramは7000人のフォロワーを有する。「消費者の方々は農作物がどう生産されているかイメージが湧かないと思います。現場を知ってもらい、付加価値を感じてもらえたら」と、サツマイモやメロンなどの成育過程や農作業の風景を伝えている。これが、生産者の正当な評価にもつながると考えているからだ。

農業の正しい知識を消費者に伝えることにも注力している。象徴的なのが「農薬」に関してだ。「自分が農薬をどう使っているのか発信しています。今年8月には農薬散布ドローンを導入する予定なので、イモムシ防除の様子などもお伝えできたらと思っています」

直接販売の新規事業にも挑戦


SNSを介して、販路の幅も広がった。スーパーとの取引が新たに増えたほか、6次産業化を行う農家とのコラボレーションが決まるなど、これまでになかった売り先も見つかっている。農家どうしのつながりも生まれ、人の輪が広がったと、笑顔を見せる。

今後は、焼きイモの移動販売やオンラインストアでの冷凍焼きイモの販売にも挑戦するつもりだ。「もう少し自分の時間に余裕ができれば、直接販売という形でプラスアルファの事業をやっていきたいと思っています。焼きイモはご家庭で調理するのは大変だと思うので、キッチンカーの移動販売などで実現したい。発送の簡略化が実現できれば、冷凍焼きイモの販売にもチャレンジしたいですね」

今後は、1日バイトアプリ「デイワーク」などを活用しながら、徐々に自身の作業負荷を減らして新しい事業に挑戦していく予定だ。歴史を受け継ぎ、新しきを創造する気鋭の若手生産者の活躍に、今後も目が離せない。

取材協力

めろん屋 富岡
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