畑の雑草、野菜の残渣どうしてますか?
暖かくなると一気に伸びてくる雑草。初夏の畑仕事はほぼ雑草管理と言ってもいいくらいです。除草剤を使用しない我が菜園生活 風来(ふうらい)では、野菜を育てている畝の上はビニールマルチで雑草対策をしていますが、畝と畝の間の通路はまさに草ぼうぼう。また野菜の切り替え時期には、前作の収穫後に残った葉や茎など大量の野菜残渣が出ます。私なりに良かれと思う方法で処理していますが、他の農家はどうなんだろう……。
そう思って先日Twitterにてアンケート形式の質問をしたところ81件の回答があり、うち77.8%の農家が「畑の雑草はすき込む」という回答でした。
アンケートに回答してくれた知り合い(ツイートの「いいね」から推測)に個別に聞いてみると、「すき込む」と答えた理由の多くは「持ち出すのが大変だから」とのこと。確かに我が風来(耕地面積30アール)と違い、何ヘクタールもの規模ともなると労力も時間もかかりますし、その持ち出した雑草や残渣の置き場の確保なども大変だと思います。
逆に「持ち出す」と答えたであろう人に理由を聞いたら、「病原菌が残っていそうだから」「害虫の巣になっているから」「すき込んだら野菜がうまく育たなかったから」という返信をもらいました。中には「畑から持ち出してはいないけど、すき込んでもいない。畑の端に集めて堆肥(たいひ)にしてます」という人も。
農家になって24年目の私はというと「畝の上に生えた雑草や前作の残渣は持ち出す。でも通路の雑草は刈った後そのまま放置」というスタイルになりました。
ただこれは、一度立てた畝をそのまま形を変えず表面15センチだけ耕す半不耕起栽培のスタイルをとっているからこそできているとも言えます。作物の切り替え時期にまとめて圃場(ほじょう)を耕運してその都度畝をつくるスタイルではそのようにはできません。
一般的にはどうするのが良いのかと考えていたところ、現在私が通っている三重県津市のコンポスト学校の主催者で堆肥づくりの名人、橋本力男(はしもと・りきお)さんの授業の中で雑草をどうすべきかというヒントがありました。
土づくりにおいての発酵と腐敗とは
橋本さんの授業の中で「土づくりにおいての発酵と腐敗の違いは何か」という問いが出されました。
我が風来では20年以上漬物製造業も行ってきており、食品における発酵と腐敗は身近なものです。その違いは、人間にとって有益なものか、そうでないものかということ。発酵させることでその食品を長持ちさせたり、味を良くしたりし、また人の健康にとって良いものになることもあります。対して腐敗はイヤな臭いを発したり、食べると食中毒など健康を害したりするものと言えます。
風来の漬物製造では塩分と温度と圧(重し)で発酵に導くようコントロールします。無添加で作っているということもあり、そのバランスを欠くと腐敗に転じてしまいます。
土づくりにおける発酵と腐敗の場合、作物の成長に対してプラスになるのが発酵。腐敗は、作物が病気になったり、害虫を呼び寄せたり、成長障害を起こしたり、最悪の場合は枯れてしまうような状態と言えます。
土づくりにおいて大切な3つの要素が「物理性」「化学性」「生物性」です。水はけなどの「物理性」や肥料分などの「化学性」は長年重視されてきましたが、最近では土壌内の微生物のバランスや量などを指標とした「生物性」に注目が集まってきました。
土づくりにおける腐敗とは、この生物性のバランスが崩れ、野菜にとって害になる微生物などが増えた状態と言えます。どんなに肥料分が高いものを施肥しても土が腐敗した状態、つまり「生物性」が考慮されていない状態だと害虫を寄せ付けたりします。人間に例えると、どんなに体にいいと言われるものを摂取しても腸内環境が整っていないと吸収されにくい状態であることと同じなのかもしれません。
では土づくりに雑草や野菜の残渣を使う場合、その発酵と腐敗を分けるのは何でしょう。それは窒素分と水分と温度です。雑草や野菜の残渣には腐敗を促す菌の栄養となる窒素分や水分が多く、さらに菌が活動しやすい温度という条件が整うとすぐに腐敗してしまいます。夏場の生ゴミなどを想像すると分かりやすいかもしれません。
以上のことから、作物の視点で土を腐敗させないためには雑草や野菜残渣を持ち出すことが一番簡単な解決法と言えます。でも持ち出せない場合はどうすればいいのでしょうか。
雑草を土づくりに活用するには
そこで刈り取った雑草や野菜残渣などを腐敗させない方法を橋本さんに聞いてみました。
まずは、十分に雑草や野菜の残渣を乾燥させることが大切とのこと。乾燥の目安は、刈った草や残渣の色。緑色が残っているうちはダメで、茶色くなればOKだそうです。かかる期間は夏場だと2週間、春秋は3週間ほどになると言います。
雑草を刈る際にハンマーナイフモアなどを使うのもコツ。短く裁断されるので表面積が大きくなり、乾燥しやすくなるそうです。
十分に乾燥させたのち、土に浅くすき込んでいきます。浅くすき込む理由について、橋本さんは「土づくりにおいての発酵は好気性発酵なので、空気が必要」と言います。土の深いところは空気が少ない上に水分が多く、嫌気性細菌によって腐敗しやすくなってしまうからです。
その後、できれば1週間おきに3回かき混ぜます。最初にすき込んでから1カ月ほどおいて、発酵がうまく進むと雑草の形がなくなるか残っていてもさわるとボロボロと崩れるので、そのような状態になったら深くすき込んでもよいとのことでした。
今回橋本さんの話を聞いて、我が風来でやってきた雑草や残渣の処理の方法は間違っていなかったとわかりました。
実は、風来でも就農当初はトラクターで深く全面耕起して畝立てしていました。その後、ひと畝単位で野菜を変えていけるようにと、畝を固定して表面だけ管理機で起こす半不耕起スタイルに。意図していた訳ではないのですが、野菜栽培の失敗が以前より少なくなりました。表面だけ起こすことで好気性発酵を促すことになったのだと思います。
もちろん雑草管理は、それぞれの農業のスタイルによって変わります。人材、コスト、時間などのリソースが限られる中で、雑草や残渣の処理の際に何を優先するかもそれぞれです。その中で土づくりの視点を優先して雑草管理を考えてみると、持ち出すべきかすき込むべきかの判断は変わってくるのではないでしょうか。