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堆肥づくりで失敗しない土づくり! 生ゴミ堆肥は地域づくりもかなえる【ゼロからはじめる独立農家#46】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

堆肥づくりで失敗しない土づくり! 生ゴミ堆肥は地域づくりもかなえる【ゼロからはじめる独立農家#46】

土づくりとひと言で言いますが、実はとても奥深いもの。農家にとって土づくりとは、作物づくりに欠かせないだけでなく、その人の農業の方向性に関わる大事なことだと言えるでしょう。
多くの農家がそれぞれに土づくりを追求する中、岐阜県白川町にある五段農園の高谷裕一郎(たかや・ゆういちろう)さんは、地域の資材で堆肥(たいひ)づくりをし、販売までしています。高谷さんに土づくりと堆肥の役割、さらに堆肥づくりを地域コミュニティーの活性化につなげているお話も聞きました。

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■高谷裕一郎さんプロフィール
1977年、秋田県鹿角(かづの)市に生まれ育つ。山形大学農学部から同大学院に進み、土壌中の菌根菌について研究。卒業後、横浜市の種苗会社勤務を経て2015年に岐阜県白川町へ移住、2016年「五段農園」を開業し、有機農法での営農を始める。同年、農林水産省「農業技術の匠(たくみ)」認定者の橋本力男(はしもと・りきお)さん主宰の「コンポスト学校」で学んだことをきっかけに、堆肥の技術を多くの人にとって身近なものにすべく、2020年に「堆肥の学校」を開校。
高谷さんのTwitter
高谷さんのポッドキャスト「小農ラジオ」

土づくりとは

西田(筆者)

高谷さんは大学で土の研究をした後、種苗会社を経てゼロから農家になったとのことですが、農地を借りる時は土壌にこだわりましたか。
まずは農地を借りられるかどうかもあやしくて、土壌を選んではいられませんでした。実際借りたところは水はけが悪く、初年度の春作も5月にはあきらめて野菜を全部取り払いました。そこにセスバニアという根が深く張って排水性を良くすると言われている緑肥をまいたのですが、それでも改善されなくて。

調べてみると、移住した白川町の圃場(ほじょう)は数十年前、稲作ができるように水をためる目的で粘土質の土を入れ土壌改良されたとのことでした。田んぼにはいいのですが、畑をするには耕せる土の部分が少ない、いわゆる作土層が浅い地域だというのが分かりました。

高谷さん

五段農園の風景

高谷さんの五段農園の風景

西田(筆者)

土づくりの3要素は物理性、化学性、生物性と言われますが、その中でも物理性に含まれる水はけは最も大事だと思っています。私は新規就農者には「畑を選べるなら、土質より水はけがいいところを選ぶように」とアドバイスしています。水はけはなかなか変えられないので。

高谷さんはそんな作土層が浅いという状況から堆肥に興味を持ったのですか?
堆肥に興味を持ったのは育苗土からです。栽培は有機栽培と決めていたのですが、有機肥料100%の育苗土はなかなかいいのがなくて、手作りしても大手メーカーが作る育苗土と比べて発芽のそろいが非常に悪くてあきらめていたんです。そんな時に堆肥づくり名人の橋本力男さんの講演会があり、お話を聞いてこの方法ならできるのではないかと思い、橋本さんが主催されている「コンポスト学校」に通いました。その中で堆肥の大切さ、役割を知りました。

今、育苗土は自家製のものを使ってます。大手のものに比べて育ってきた時の根の張り方が違いますね。根がしっかりしてないと肥料分の少ない有機の畑ではすぐにダメになってしまうので、そういった点でも良かったなと思います。

高谷さん

西田(筆者)

育苗土からだったんですね。有機、無農薬栽培でも種まき用の土は大手メーカーのものを使っている人、多いようですね。私もその一人です。発芽に失敗しても時間は取り戻せないので冒険するのが怖くて。個人的にも高谷さんの育苗土をぜひお願いしたいです。

研究者から実践者になった高谷さんにとって、土づくりにおける堆肥の役割とは何でしょう。
土づくりの3要素の中でも、水はけや土の硬度など物理性の土台の上に化学性と生物性が成り立っていると思っています。堆肥を入れることで生物性の要素である微生物が増え、微生物が働いて腐植が増えることで通気性や排水性などの物理性を高める団粒構造ができ、化学性である肥料分が入ることで土のバランスがとれてきます。

物理性が土台と言ったのは、畑に有用な微生物はほぼ好気性、つまり空気がある程度ないと生きていけないからです。水にすぐつかるようなところはどれだけ堆肥を入れても微生物が窒息してしまいうまく団粒構造ができず、物理性の土台が作れません。

高谷さん

西田(筆者)

堆肥の視点から見ることで、水はけの大切さに改めて納得しました。高谷さんは自家製の堆肥だけで野菜を育てているとのことですが、肥料を買うのが当たり前の時代、そのこと自体がすごいことですよね。それには堆肥の出来がかなり重要ではないかと思います。次はそんな堆肥について聞いていきます。

堆肥づくりの実践

西田(筆者)

高谷さんは堆肥づくりをその名人である橋本力男さんのところで学び、その後自身の工夫も重ねて良質な堆肥を作り、それを利用した培養土の販売もしていますね。そんな高谷さんにとって「いい堆肥」とは何でしょう。
「いい堆肥」とは難しい質問ですね。ひと言で言うと、「その農家のイメージどおりに作物が育つもの」でしょうか。ただしその土地や作物によって中身は変わってきますので、ひとつの形があるものではないと思います。あとは「栽培において失敗しないもの」ですね。

高谷さん

高谷さんの苗床土

高谷さんが作る有機培養土「けんど君」 すぐに売り切れる人気商品

西田(筆者)

私も農家になって20年以上になりますが、その「栽培に失敗しない」というのは大切だと実感します。これまで土づくりにいろいろな微生物資材を使ってきました。中にはかなり高価なものもあって、それらのうたい文句は収量が倍増とか作物に病害虫が出ないとかまるで万能薬。

でも実際使ってみるとうちの畑に合わなかったのか、使い方が悪かったのか、効果の差はほとんどありませんでした。高谷さんのところでは堆肥をどのようにとらえ、具体的にどう作っているんですか。
堆肥には2種類あります。鳥や豚などの肥料分の高い畜ふんをつかって肥料代わりにする養分堆肥。もうひとつは微生物の働きを重視して土づくりを主体に考える堆肥です。私のところで作っているのは後者になります。

落ち葉とモミガラとオカラを主原料にして10カ月ほどかけて完熟堆肥にします。微生物資材は購入していません。落ち葉についている土着菌が発酵を促す役割をしていて、そのことでその地域に合った堆肥になってます。作物によって施用量は多少変わりますが、10アールあたり1トン入れています。

高谷さん

西田(筆者)

実際に作るとなると大変そうですが、そのぐらいの量で足りるとは意外な感じがしました。
堆肥に含まれる肥料分も大切ですが、過度にありすぎると野菜にとっても害になると思ってます。肥料分を抑えて育てた野菜は後味がスッキリして日持ちする野菜になると実感しています。

できた堆肥の成分は検査していますが、うちではいわゆる施肥設計を厳密にはしていません。それでも土づくりができてくると野菜も養分を吸収しやすいのか、いい感じに育ってくれます。

高谷さん

西田(筆者)

イメージ的には肥料分があまりなくても育つ自然農に近くなっていく感じですね。

これまでは窒素、リン酸、カリの肥料3要素が分かりやすく重視されてきていました。それも間違いないと思いますが、微生物の大切さはこれからますます解明されていくと思います。何よりこうやって実践している方がいるというのは心強いです。

生ゴミ堆肥で地域づくり

西田(筆者)

先ほどのモミガラとオカラで作った堆肥のほかに、生ゴミ堆肥にも取り組んでいると聞きました。
家庭で出る生ゴミは燃えるゴミとして出されますが、水分を多く含むため、燃やすには大量の重油が必要となります。その半面、生ゴミにはさまざまな栄養素が含まれています。そんな生ゴミを活用しようと、これまでも畑に設置するコンポスト容器やダンボールコンポストなどの取り組みが全国でされてきましたが、管理が結構難しくなかなか継続できていないようです。

そこで1次発酵をそれぞれの家庭でやってもらって、難しい最終発酵はこちらでやるという取り組みを始めました。

高谷さん

西田(筆者)

なるほど2段構えというわけですね。確かに私の両親も畑に緑色の大きなコンポスト容器を設置して挑戦していましたが、においも出てうまくいかずあきらめてしまいました。それに、できた堆肥の使いどころも意外と難しいですよね。

取り組みの具体的な方法を教えてください。
まず地域の人を集めてワークショップで堆肥づくりの説明をし、参加者自身に70リットルの衣装ケースを利用したコンポストケースを作ってもらいます。それにこちらで用意した床(とこ)材(生ゴミの発酵を促進するもの)を入れて自宅に持ち帰ってもらい、その日から生ゴミを投入していきます。このケースでおおよそ2カ月分の生ゴミが処理できます。こうして1次処理した生ゴミは驚くほどコンパクトになります。それを農園に持ってきてもらい、こちらで最終発酵させます。切り返しなどをして4カ月くらいでできます。できたものは先ほど説明したモミガラ・オカラ堆肥と混ぜて畑に使っています。

1次処理した生ゴミを持ってきてくれた方にはモミガラ・オカラ堆肥(40リットル1400円)を半額でお分けしたりしています。でも、持ってくるだけの方も多いです。その時にまた2カ月分の床材(500円)を買っていかれます。

高谷さん

生ごみたい肥のコンポストケース

衣装ケースを利用した1次処理用のコンポストケース

西田(筆者)

各家庭にとっては生ゴミを出さなくていいというのが最大のメリットなんですね。あと分からなかったら高谷さんに教えてもらえるというのは心強いですね。
そんな中からうちの野菜セットのファンになってくれる人もいて、コミュニティー作りの一環となってます。

高谷さん

西田(筆者)

確かに、自分のところで1次処理した堆肥で育った野菜だと思うと愛着も出ますよね。
実際、1軒の農家でどのくらいの家庭と提携できるものなのでしょうか?
油圧ショベルカーのような重機があればいいのですが、人力で切り返すとなると20軒ぐらいが限度かな。回収の点から見ても、生ゴミ堆肥の活動はそれぞれの地域で行う「自律分散型」がいいと思います。今は農家や環境団体からもこの仕組み自体をレクチャーしてほしいと講演依頼もいただいています。

高谷さん

西田(筆者)

輸入肥料の高騰や環境保全の観点からも、生ゴミ堆肥はこれから注目されてきそうですね。小さい農家にとっても可能性を感じました。実は私も橋本力男さんのところで堆肥づくり、生ゴミ堆肥づくりを学ぶ予定です。そう思ったのも高谷さんの地域を巻きこんだ取り組みを見て地域づくりに生かせると思ったからです。今回お話を聞き、あらためて生ゴミ堆肥は地域のコミュニケーションツールになると感じました。
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