そもそも堆肥とは
堆肥とは、有機物を積み置いて、微生物の働きで分解させたもののことです。
材料には、稲わらやもみ殻、落ち葉、樹木のチップやバーク(樹皮)などの植物性のものや、家畜ふん尿などの動物性のものが使われます。
かつては、植物性の有機物を主原料にしたものを「堆肥」と呼び、動物性のものを「堆きゅう肥」と呼んでいましたが、現在はさまざまな材料を混ぜてつくることが多いため、すべてを総合して「堆肥」と呼ぶことが一般的です。
したがって、一言で「堆肥」と呼ばれるものでも、主原料や副原料の違いや製造方法の違い、腐熟度合いの違いなどで、性質が異なってきます。
堆肥化する目的は、そのままでは農業に使いにくい有機物を使いやすい状態にする、ということです。たとえば、「施用後の急激な分解や、作物のチッソ飢餓を防ぐ」「作物にとって有害な成分を分解する」「堆肥化中に出る高熱で有害微生物や雑草種子を死滅させる」などのねらいがあります。
肥料と堆肥の違い
堆肥というと、「土づくり資材」としてのイメージが強いのではないでしょうか。確かに堆肥には、化学肥料にない総合的な土壌改良効果があります。もともとの土壌の肥沃度や物理性(排水性、保水性)、生息する微生物の数などを改善するといった性質です。
もちろん堆肥にも肥料成分はあります。ただし、複数年にわたってゆっくりと放出される性質があるため、この肥料成分を考慮せずにたっぷり散布してしまうと過剰害が起きるなどのトラブルが発生する懸念があります。このため、堆肥は「特殊肥料」と位置付けられ、販売する際には肥料の成分量などを詳しく表示する義務が課せられました。
ホームセンターなどで袋詰めで販売されている堆肥のパッケージには、肥料と同じように原材料や成分割合が書かれています。
堆肥の材料の種類
植物性の堆肥の材料 | ・稲わら
・もみ殻 ・バーク ・落ち葉 |
動物性の堆肥の材料 | ・鶏ふん
・豚ふん ・牛ふん ・馬ふん |
堆肥にはさまざまな材料が含まれていることが多いです。
繊維質が多く、単体では発酵しにくい植物性有機物主体の堆肥には、発酵を促すようにチッソ成分が多めの有機物が加えられていたり、畜ふんなどの動物性有機物主体の堆肥には敷料の稲わらや籾がら、ウッドチップ、バークが混ざっています。
それぞれの材料にどんな特徴や傾向があるのか、詳しく見ていきましょう。
稲わら
農家が自給できるということで、古くから盛んに使われてきた材料ですが、コンバインが普及するにつれて、水田にそのまますき込むことが多くなりました。
現在は、稲わら主体の堆肥をつくることが少なくなりましたが、畜舎の敷料として使われており、畜ふん堆肥のなかに混ざっています。
肥料成分が少なく分解されにくいという性質は、土壌養分のバランスを崩すことなく土壌改良をするのに都合が良いという面もあります。
- 繊維質が多く分解されにくいため、堆肥化するには何らかのチッソ分を加える必要があります
もみ殻
玄米を守る硬い殻。分解されにくく、ケイ酸分が多量に含まれています。
水分を保ちにくく、独特の舟形を長く維持して土に隙間をつくるので、土壌の通気性をよくする効果が高いのも特徴です。
水分が少なく、水を弾く性質があることから、生ゴミや畜糞などの水分の多い材料に混ぜて、水分調整の役割を果たす副資材として活用されています。
バーク
バークとは、樹皮のことです。
保水力、保水力が高いのが特徴で、砂質土壌などの水抜けが激しく、養分の流亡が多い農地の土壌改良に向きます。また、この性質を生かして、果樹や庭木の「有機物マルチ」としても活用されています。
落ち葉
クヌギやナラなどの落葉広葉樹の落ち葉を堆積して腐らせたものです。針葉樹の葉は、生育阻害物質を含むことが多いうえ、腐りにくいのであまり使われません。バークと同様、保水性・保肥性も高いです。
土壌改良に使われるほか、米ぬかや畜糞などを加えて踏み込み温床にも活用された後、有機質の育苗培土として用いられることもあります。
鶏ふん
牛や豚などの畜ふんと比べると、栄養素が豊富で、早く効きます。値段が安く、肥料分がほどよく入っていて、とくにカルシウムが多いのが特徴です。ただし、採卵鶏は硬い卵を作るためにエサにカキ殻などの石灰分を多く入れるのでカルシウムが多く、ブロイラーはそれよりも少なめです。
他の畜ふん堆肥よりも成分量が多いため、土壌改良というよりは、有機質肥料としての使い方が多くされています。値段も安価なうえ、必要な散布量も少なくて済むため、肥料代高騰を背景にして利用する人が増えています。
市販の「鶏ふん」には生の鶏糞を発酵させたもの、ただ乾燥させたものが入り混じっています。袋をよく見て、必要あれば製造元に問い合わせてください。
豚ふん
単体ではなく、敷料とともに堆肥化されます。家畜ふんのなかでは比較的分解が速く、牛ふんより肥効が出やすいのが特徴。肥料成分の量を見ても、鶏ふんと牛ふんの中間の性質を持つと言えますが、相対的にカリがやや少ないです。
牛ふんや鶏ふんよりも入手先が絞られますが、土壌改良効果と肥料効果をともにねらえます。
牛ふん
産地ならずとも入手しやすいのが牛糞です。
他の畜種と比べると粗飼料を多く食べるうえ、敷料とともに堆肥化されます。そのため、他の家畜ふんより肥料成分含量が低く、繊維質が多いのが特徴です。
肥料成分が少なく、非常にゆっくりと効くため、主に土壌改良資材として役立てられてきました。肥料効果も望みたい場合は、あえて熟度が低い堆肥を使う農家もいます。この場合、分解の課程で植物に生育障害が起こりやすいため浅い層だけにすき込む、など、新しい活用方法も生まれています。
馬ふん
かつては農村にはたくさんの馬がおり、主要な堆肥の原料でしたが、現在は競走馬用の牧場などでしか大量には入手できなくなりましたが、稀にホームセンターなどで袋売りされていることがあります。
馬を育てる際には牛に比べても粗飼料をたくさん与えるうえ、咀嚼もあまりしないので糞は有機物が多いです。このため土壌改良に適していると言え、マッシュルームを育てる床にも使われるようです。
- 土壌の質が改善される
- 肥料効果で作物が育つ
- 作物中の糖分をキープしつつ育てられる
- 種類によっては害虫予防になる
堆肥は、肥料成分の補給に特化した肥料とは違いますが、さまざまな有機物が含まれているため、多様な効果があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
土壌の質が改善される
一つは、土壌の養分バランスを整えることができる点です。
堆肥中に存在している有機物が土壌の隙間をつくることで排水を促します。一方で、有機物が土壌中の水を含むことで、保水性や保肥力も高まります。
また、堆肥由来の微生物が土壌に住まい、堆肥中や土壌中の有機物をエサにして活動することで、生物相も豊かになります。土壌微生物がたくさん住んでいる土壌は、排水性、保水性、保肥力などが向上します。
肥料効果で作物が育つ
堆肥には、一般的な肥料よりは少ないものの、肥料成分が含まれています。その効き方もすぐに効くのではなく緩やかです。堆肥に含まれる有機物は、多種多様な微生物が活動することによって植物に吸収されやすい肥料成分に変化します。
この肥料成分を生かせば、毎年まく肥料の量も減ってきます。ただし、やみくもに多投するのは禁物。過剰が出るおそれがあります。堆肥の肥料分は土壌に蓄積され簡単には抜けないため、よく考えてから施肥量を決めましょう。
作物が美味しくなる
「堆肥を入れると、野菜の味がよくなる」という話をよく聞きます。堆肥には、チッソ、リン酸、カリといった3要素以外だけでなく、マグネシウムやカルシウムなどの植物の生育に必要な必須要素や、マンガンやホウ素などといった微量要素など、複雑な成分が総合的に含まれており、作物が健康に育つことがひとつの原因として考えられます。
また、堆肥由来の肥料成分は気温が高まるにつれて発現するため、植物の成長度合いと矛盾しにくいです。美味しい野菜は、植物中にだぶついて残るチッソ分が少ないと言います。植物が消化不良になりにくいのも、味をよくする一因です。
病害予防にもなる
俗にいう「連作障害」の原因は色々ありますが、そのひとつが肥料成分の欠乏です。同じ仲間の植物を同じ場所に何年も植え続けると、特定の肥料養分が不足します。すると、特有の欠乏症が起こる場合があります。基本的には不足した肥料成分を補給すればいいのですが、成分が特定できない場合には堆肥施用することで解決します。
また、堆肥を施すことで土壌微生物が増えます。土壌には、作物に悪さをする微生物もたくさんいますが、土壌に多様な微生物が住みつくことで拮抗作用が起こり、病原微生物の勢いを減らすことができます。
地域資源を上手に使おう
以上のように、堆肥は農業にとってとても大事なものですが、わざわざ遠くから取り寄せる必要はありません。
ここまでに紹介した堆肥の材料以外にも、堆肥化できる素材はじつはたくさんあります。身近なところでは家庭から出る生ゴミだったり、製茶工場から出る茶粕だったり、町ぐるみの事業で汚泥を堆肥にしたりと、時代の流れでさまざまなかたちの堆肥がこれから現れるように思います。
それらをうまく使いこなすことができれば、農業や家庭菜園はより良いものになっていくでしょう。