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安全な堆肥は良い堆肥に通じる リスクを下げる堆肥作りの方法

山口 亮子

ライター:

連載企画:連続講義 土を語る

安全な堆肥は良い堆肥に通じる リスクを下げる堆肥作りの方法

堆肥(たいひ)は有機肥料として使われる一方で、衛生管理を誤ると、農作物にふん便由来の病原菌を付着させるリスクもある。特に、加熱しないで食べる生食用野菜は注意が必要だと知られている。安全な家畜ふん堆肥を作るには、何に注意すればいいのか。農研機構北海道農業研究センターの寒地酪農研究領域 自給飼料生産グループ長、花島大(はなじま・だい)さんに聞いた。

海外では堆肥の衛生基準も

■花島大さんプロフィール

農学博士(2008年、東京大学応用微生物学)。農林水産省畜産試験場研究員、農研機構畜産草地研究所研究員などを経て08年、農研機構北海道農業研究センターへ。現在は寒地酪農研究領域 自給飼料生産グループ長。

──花島さんは、家畜ふん堆肥の病原菌の問題を研究していますね。

はい。日本で家畜の持つ病原菌への関心が一番高まったのは、1996年、大阪府堺市で発生した腸管出血性大腸菌O157:H7による大規模な集団食中毒が起きたときでした。牛のお腹の中にO157がいる場合があると分かり、食品の安全性への注目度が高まりました。

全国47都道府県の596農場で牛、ブタ、ブロイラーのふん便サンプルを解析した結果によると、O157の保菌率は牛で23%、ブタで18%、ブロイラーで0%。これはイギリスで過去に行われた大規模調査の結果と、それほど大きく変わりません。国内の細菌性食中毒の発生件数の推移をみても、サルモネラやカンピロバクターが多いですが、病原大腸菌もコンスタントに出てきます。

農林水産省が2007年度と08年度に生食用野菜のレタスとキャベツ、ネギ、トマト、キュウリについて、さまざまな地域を対象にサンプルを取って、腸管出血性大腸菌がいるかどうかを調べました。その結果、腸管出血性大腸菌をはじめ病原性のある菌は検出されませんでしたが、大腸菌だとレタスで28%、キュウリで27%から検出されています

アメリカやイギリスは堆肥の衛生基準を設けていて、アメリカの場合、ふん便性大腸菌が1グラム当たり1000個以下、サルモネラ菌だと4グラム当たり3個以下の堆肥を使いなさいと定められています。イギリスの場合、大腸菌の基準はアメリカと同じで、サルモネラ菌は25グラムの中に1個もいてはいけないとしています。

日本だと、堆肥中に含まれる有害微生物の規制はないんですけれども、日本においても堆肥を作るときは、菌をこのくらいの数まで下げていないとリスクがあります。

病原菌に対処するには

──病原性のある菌を死滅させるには、どんな方法がありますか?

大腸菌やサルモネラ菌をはじめ、病原菌を死滅させるには、だいたい50~60度を1時間も保持すればいいと分かっています。堆肥化するときは、55度以上を3日以上保持するようにと一般的に言われており、私も賛成です。

問題は、堆肥の水分含有量が高いと温度が上がりにくく、大腸菌が残ってしまうということです。水分の高い堆肥は、残存する大腸菌数が多い傾向があります。水分含有率を下げるために、おがくずといった副資材を入れると、空気(酸素)が堆肥内に拡散しやすくなり微生物の呼吸に利用されることで、温度がガーっと上がるんです。ただし、木質バイオマス発電の拡大もあって、おがくずを手に入れにくくなっているんですね。

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堆肥の表面や、下のコンクリートに面したところはあまり熱くならず、冷えてしまいがちです。全体が均等に高い温度に達するように、堆肥を切り返して攪拌(かくはん)する必要があります。

ほかに注意が必要なのは、高温により病原菌の菌数が大幅に低下した後に、残存した病原菌やふんとの接触による再汚染を起こしてしまい、病原菌が再増殖するという現象です。たとえば、生ふんの搬入に使ったホイールローダー(タイヤショベル)のバケットを堆肥の攪拌作業に使ったり、生ふんを積んでいたエリアで堆肥の攪拌作業をしたりすると、再汚染と再増殖が起きかねません。

油分を含む廃棄物に副資材としての可能性

──おがくずの価格が上がって、畜産農家が入手しにくくなっているということですが、手に入れやすい副資材はあるでしょうか?

もみ殻や麦稈(ばっかん、麦わら)がありますが、地域に偏りがあるため、副資材の調達で畜産農家が困っているところはあります。堆肥を水分調整のための副資材として使う「戻し堆肥」も一つの方法です。

副資材として、豆腐かす、米ぬか、油かすや鶏ふん、生ゴミを加えて堆肥を作る実験を、過去に手掛けたことがあります。特に乳牛のふん尿は水分率が85%ほどと高いので、水分が多くても温度が上がるように、微生物の栄養になるものを足そうと考えました。分解性の高い有機物を添加すると、微生物による分解が旺盛になり、すごく温度が上がりますね。

生ゴミも可能性があるかもしれないですね。実験で使った生ゴミは、清掃局に持ち込まれる生ゴミの組成に関する報告書を参考に、一般的な生ゴミを再現したものです。グラフにある「生ゴミB」は10%のサラダ油を含んでいて、「生ゴミA」より高い最高温度に達しました。

3_堆肥温度

花島さんが大腸菌の制御を目的に行った研究で得られた堆肥温度の推移(画像提供:花島大)

たとえば食用油を製造するときに出てくる廃白土(はいはくど)には、油分がしみ込んでいます。そのまま捨てようとすると、処分に困る産業廃棄物になってしまいますが、堆肥に添加すると、温度がぐんぐん上がるんです。実際、堆肥化に使っている畜産農家もいます。

もし地域に油分を含む廃棄物があれば、うまく使える可能性があります。
一定時間の高温を経ていない堆肥は、病原菌のリスクが高いだけでなく、悪臭の発生などにもつながりかねません。安全な堆肥を作るということは、良い堆肥を作ることに通じるのです。

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