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100%市場出荷から100%直売で活路! 都会のファーマーズマーケットで得た販路の縁【ゼロからはじめる独立農家#55】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

100%市場出荷から100%直売で活路! 都会のファーマーズマーケットで得た販路の縁【ゼロからはじめる独立農家#55】

産直ECでも人気のマーフィーズファームの篠塚政嗣(しのつか・まさし)さんは、IT業界で働いていましたが、祖父の後を継いで“孫承継”で農家に。ネット販売もさることながら、現在は積極的に都内のファーマーズマーケットに参加しています。100%市場出荷からの転換。それまでの経緯とファーマーズマーケットでの販売のコツを聞きました。

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■篠塚政嗣(マーフィー)さんプロフィール
1975年茨城県生まれ(48歳)。1996年に東京の美術系専門学校を卒業。飲食業などで働きながら、休みの日は井の頭公園で似顔絵を描くなどして美術の道を模索していた。2006年にホームページの制作などを手掛けるIT企業に入社。2013年祖父の後を継いで農家に。年間10種類以上の野菜を育て、週末は都内のファーマーズマーケットなどで販売。

篠塚さん(通称マーフィー)のTwitterはこちら

マーフィーズファーム、ポケットマルシェのページはこちら

IT業界から農家へ

西田(筆者)

私がマーフィーさんを知ったのは、産直ECのポケットマルシェのページでした。野菜をお客さんに直送するダンボール箱にイラストを描いているのが印象的だったのですが、もともと絵の道を志していたとか。
昔から絵を描くのが好きで、絵に携わる仕事をしたいと思っていたので、私自身農家になったことに驚いています。

マーフィーさん

マーフィーさんのイラスト

絵を描くのが好きなマーフィーさん。産直ECで注文を受けると、箱の一つ一つにイラストを描いて発送します

西田(筆者)

そうなんですね! 経歴がユニークなマーフィーさんですが、農家になったキッカケはなんですか?
直接のキッカケは、当時92歳の母方の祖父が足を悪くして、農家をやめて農地と家を手離すと聞いて、自分が継ぐことはできないかと思ったことですね。

マーフィーさん

西田(筆者)

92歳! そこまで現役だったこと自体すごいですね。手離すということは、ご両親は農家ではなかったということですよね。周囲からの反対はなかったですか?
両親ともそれぞれ親が農家で、苦労している姿を見ていたということもあり大反対でした。祖父にも反対されたのですが、私が継ぐと決意した時にはうれしそうでした。

マーフィーさん

西田(筆者)

そんな中での就農、勝算はありましたか?
祖父の家は私の実家から20キロほど離れていて、それまでほとんど農作業はやったことはなかったのですが、祖父に教えてもらえるだろうという思いがありました。
周囲や農業普及所(地域農業改良普及センター)の人からも「あそこの孫なら大丈夫でしょう」と。

マーフィーさん

西田(筆者)

私が最近注目している孫承継スタイルですね。大ベテランの師匠がいるのは確かに心強いですね。農業や販売のスタイルとしては、おじいさんがやっていたことを踏襲する形だったのでしょうか?
最初は祖父と同じスタイルということで、農業普及所にも5カ年計画を提出しました。内容はリーフレタス、トウモロコシ、ナス、ブロッコリー、ハクサイの栽培を中心とした100%市場出荷のスタイルでした。
ただ私が農家になってから3カ月後に祖父が亡くなってしまったんです。

マーフィーさん

西田(筆者)

そうなんですか。それは大変でしたね。最初はかなり苦労されたのではないですか。
まさに頼みの綱がなくなってショックだったのですが、親戚の農家や、近所の農家から「あいつの孫か、頑張れ」といろいろ教えてもらうことができました。

マーフィーさん

西田(筆者)

そうでしたか。直接は技術の継承ができなくても、おじいさんが残してくれた地盤というか、ご縁が助けてくれたんですね。

販売方法の見直し

西田(筆者)

まわりに助けられて始まったマーフィーさんの農業ですが、売り上げのほうは?
初年度、リーフレタスの買い取り価格が高騰していて、こんなに売り上げがあるのだと思いました。

マーフィーさん

西田(筆者)

出だし快調な感じですね。その後はどうでしたか?
1年目の栽培がうまくいったことと相場の高騰はまさにビギナーズラックだったようで、その後は食べていけないわけではないのですが、大きく稼げることもありませんでした。

茨城の私の畑がある地方は野菜中心の大面積の農家が多く、リーフレタスも緑と赤の2種類育てて、その年の相場が高い方を出してあとは畑にすき込む。またハクサイも4、5年に一度は相場が高騰するので、それまで我慢すればいいという風潮がありました。ただ、私の畑は1ヘクタールと専業農家としては小さく、そのスタイルは難しいなと感じてきてました。

マーフィーさん

西田(筆者)

「ハクサイは博打(ばくち)」なんていう言葉を聞いたことがあります。そのようなスタイルは難しいと感じて、何か変化させたのでしょうか。
3年目が終わって、このまま市場に出して相場に左右されていたらジリ貧になると感じました。それで4年目から道の駅にある野菜の直売所で販売を始めました。袋詰め、バーコード貼りなどの手間はありましたが、工夫すると売れる手応えを感じました。

マーフィーさん

西田(筆者)

私にとってマーフィーさんはイラストが得意な人という印象なんですが、直売所でも活用されたのでしょうか?
POPや食べ方の案内などにイラストを活用しました。マーフィーズファームと名乗り始めたのも直売所がキッカケです。マーフィーというのも本名からのニックネームで、絵を描いた時のサインで使ってました。

マーフィーさん

西田(筆者)

そこから産直ECでも販売を始めたんですよね?
直売所では自分の工夫で売れる喜びもあったのですが、どうしても安売り合戦になってしまう。そんな時に産直ECのポケットマルシェ創業者、高橋博之(たかはし・ひろゆき)さんの車座座談会がうちの近くであり、その会に参加したことをキッカケにポケットマルシェに登録して、2018年から販売開始しました。

マーフィーさん

ことのはセット

ポケットマルシェに出品している茨城県農家の作物をまとめた野菜セットも販売

西田(筆者)

そうだったんですか。私もその高橋博之さんが車座キャラバンで石川に来られたのをキッカケに、本格的にポケットマルシェでの販売を開始しました。
市場出荷、地域の直売所、産直ECときて、今は都内でのファーマーズマーケットに積極的に参加されてますが、そこにも何かキッカケがあったのですか。
ポケットマルシェのスタッフさんから、東京の大崎駅で毎週末開催されているファーマーズマーケットを紹介されたのがキッカケで、2019年から始めました。

マーフィーさん

西田(筆者)

大崎といえば山手線の駅で、オフィスビルが立ち並ぶ地域ですよね。どのくらいの頻度で大崎のファーマーズマーケットに出店しているのですか?
ほぼ毎週土曜日に参加しています。

マーフィーさん

西田(筆者)

ほぼ毎週? 大変ですね。通うのに時間もかかりますよね。
車で片道およそ2時間半です。ただ、絵の勉強にも茨城の実家から東京郊外の吉祥寺にある専門学校に通っていたので、それほど大変だとは感じていません。

マーフィーさん

西田(筆者)

なるほど、そんな経験もあって通うのに抵抗がないんですね。
ちなみに就農当初は市場出荷スタートでしたが、今の販路別の売り上げ比率はどんな感じですか?
産直ECとファーマーズマーケットでの売り上げがほぼ100%になります。

マーフィーさん

西田(筆者)

それは大きな方向転換ですね。直接販売だと利益率も違いますよね。

ファーマーズマーケットでの販売のコツ

西田(筆者)

まず都内だと出店料がいくらか、また実際どれくらいの売り上げがあるのかも気になるところです。
ファーマーズマーケットは大崎駅を中心に出店しています。出店料は1回3000円とそれほど高くなく、売り上げはシーズンにもよりますが、平均して週2~3万円でしょうか。トウモロコシは爆発的な売り上げがあり、そのシーズンには普段の倍ぐらいの売り上げがあります。

マーフィーさん

西田(筆者)

販売スタイルも、何かマーフィーさんならではの工夫をしているのですか?
最初の頃は野菜を洗ってから袋詰めして持っていっていたのですが、今はそんな時間もないので、とにかく収穫して泥付きのまま持っていき、その場で袋詰めのスタイルになってます。その作業自体が注目されてパフォーマンスにもなっているようです。

マーフィーさん

西田(筆者)

その場で詰めるのがパフォーマンスになるというのは分かります。ある意味、農家ならではの技ともいえますね。
大崎では出店料5000円のリモート販売なんてのもありまして。出店者は大崎に野菜を送って販売を委託し、当日はZoomで現場と農家をつないで会話ができるというものです。コロナ禍の前からあったのですが、コロナ禍を機に一気に広まりました。都会では、ファーマーズマーケットなどさまざまな販売方法への理解がある印象です。

マーフィーさん

西田(筆者)

リモート販売というのがあるのが驚きです。ファーマーズマーケットもどんどん進化しているんですね。

さらにマーフィーさんのSNSを見ていると、大崎駅以外にも歌舞伎座の劇場、また銀座や渋谷などでも販売していますね。そのような都心の販売場所の関係者とはどうやってつながっていったのでしょうか。
大崎駅で出店し続けたり、マメにTwitterで情報発信したりすることで関係者がマーフィーズファームを知ったことがきっかけで、声を掛けてもらっています。

そんな中で声を掛けてくれたのが「CSA LOOP」というサービスを運営する会社。CSA LOOPは、1年分の野菜セットの代金を前払いでいただくCSA(Community Supported Agriculture=地域支援型農業)のようなスタイルで、消費者の家庭で出た生ごみを堆肥(たいひ)にして農家に渡すなど食循環の取り組みもしています。野菜は農家自身が毎月決まった日に決まった場所で配布する仕組みで、都内を中心に少しずつ広がっているようです。
こういったことができるのも人口が多い都心だからかと思います。

マーフィーさん

野菜受け渡し

月に1度の野菜セットの引き渡し会場(都内)

あと、カフェの店先などでの出店の声掛けも多くいただきます。初めての場所だと1日の売り上げが2000~3000円なんてこともありますが、どんなご縁につながるか分からないので積極的に参加しています。

マーフィーさん

西田(筆者)

初めてのところでは売り上げが少ないというのは私も分かります。それが分かっていても出店するのは、やはりマーフィーさんが人と接するのが好きだからでしょうね。

ほかにファーマーズマーケットで何か工夫していることはありますか。
ファーマーズマーケットは外でやることも多く、日差しの加減で白地に書くと文字が読めないこともあります。そこで今は黒い厚紙に白いマーカーペンで手描きするようにしています。

それから、マーケットの後もお客さんとつながれるように、産直ECのQRコードや連絡先カードも用意しています。初めての場で売り上げが少なくても、そこに来ていた方から産直ECで注文をいただけることもありました。

マーフィーさん

西田(筆者)

今の時代はその後につながれるというのが大切ですね。最後に新規就農者へアドバイスをお願いします。
「直感を信じて、好きな方を選んでいく」ということでしょうか。栽培も売れるものというより、育てて気持ちいいものを選ぶ。農業自体もですが、ワクワクしないと続けられないと実感しています。私の場合は気づいたらこうなってましたが、絵描きから始めて人と接するのが好きだったからこのスタイルになったのだと思います。

マーフィーさん

西田(筆者)

マーフィーさんが絵の経験を農業に生かしたように、すべての経験が生かせるのが小さい農家の特徴ですね。また、今の時代は販売方法も多様化していることが改めて分かりました。
さらにマーフィーさんは積極的にいろいろなことに参加し、またSNSで情報を発信していくことでご縁を引き寄せているのだと感じました。

まさに“会える農家”マーフィーさん。興味ある人はぜひファーマーズマーケットなどに会いに行っていただきたいと思います。これからの活躍も期待しています。

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