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新規就農者増で売り上げV字回復を実現。山形セルリーを低迷から救ったプロジェクトとブランディング戦略【後編】

新規就農者増で売り上げV字回復を実現。山形セルリーを低迷から救ったプロジェクトとブランディング戦略【後編】

セルリーのハウス栽培を団地化することで新規就農者の確保に成功し、一時は3分の1にまで落ち込んだ出荷額をV字回復させた山形セルリー。JA山形市では担い手育成だけではなくブランディング戦略にも力を入れ、販売先の受け皿を着実に広げていった。山形セルリーの多岐に渡る取り組みについて、JA山形市アグリセンター経済部次長の志田恭一(しだ・きょういち)さんに話を聞いた。

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新規就農者増で売り上げV字回復を実現。山形セルリーを低迷から救ったプロジェクトとブランディング戦略【前編】
新規就農者増で売り上げV字回復を実現。山形セルリーを低迷から救ったプロジェクトとブランディング戦略【前編】
山形セルリーといういっぷう変わった名の商品がある。一般にセロリと呼ばれる作物だが、JA山形市ではフランス語発音の「セルリー」という呼称が用いられている。50年以上の歴史を誇り、ブランド力を生かして堅調な売り上げを作っていた…

山形セルリーのブランディング戦略

ハウスの団地化以外にも、市場での販路や販売額を確保するためのブランディング戦略に取り組んできたJA山形市。主な取り組みについては以下の通りだ。

GI登録でブランド化

山形セルリーは地理的表示(GI)保護制度に登録されている。
JA山形市が中心となり、県と市の協力を得ながら、2017年1月、農林水産省に申請を行って2018年4月に登録を受けた。

申請から登録まで1年以上かかったことからもわかるように、GIの登録はハードルが高い。

志田さんによれば、GI登録では「ひめセルリー」の力が大きかったという。ひめセルリーは、その種子をすべて自家採種しており、山形特有の作物であるとの評価を得るのに役立ったのだ。

GI登録によるブランディング効果について、志田さんは次のように語った。

「ブランド力は確かに上がりました。山形県のブランド商品といえば、『米沢牛』と『東根さくらんぼ』が有名で、メディアなどでも多く取り上げられます。それらのGI登録されている商品が紹介されると、同じくGI登録されている他の商品もまとめて取り上げられるので、山形セルリーも紹介される機会が多くなりました」

さらに、2018年10月には特許庁の地域団体商標の登録認定も受け、「山形セルリー」というブランド力を強化していった。

やまがたGAP認証で信用力アップ

翌2019年にはJGAPの団体認証を取得し、生産者グループとしての信用力をアップさせた。2023年からは、JGAPを県版GAPの「やまがたGAP」へ登録変更した。

やまがたGAPはブランディングの効果に加えて、生産管理の面でもメリットが大きい。生産管理の工程を可視化することで、栽培マニュアルの策定に役立ったと志田さんは言う。

「ベテラン農家さんは、どうしても自分なりの経験や勘で作物を育てがちです。そこをやまがたGAPに取り組むことによって、農薬の取り扱い、生産管理、衛生管理などの基準を部会で統一することができます。それがセルリーの品質の安定につながり、結果的に販売戦略にも効果があったといえます」

生産管理工程の可視化は、担い手育成においても役立った。新規就農者にとって、GAPは栽培マニュアルのような役割を果たしてくれる。組織的に新規就農者を受け入れたいJA山形市にとって、やまがたGAPは人材育成の仕組みづくりの後押しにもなったと志田さんは振り返る。

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有名イタリアンシェフとのパートナー協定

JA山形市は、鶴岡市出身で全国にイタリアンレストランを展開する料理人・奥田政行(おくだ・まさゆき)さんと、山形セルリーPRのためのパートナー協定を結んでいる。

レストラン「アル・ケッチァーノ」で食材として使ってもらったり、ハウス団地内で山形セルリーの料理コンテストを開催してもらったりして、全国に山形セルリーのおいしさを発信している。

また、奥田シェフの発案からJA山形市で料理レシピ集を作成して、消費者にセルリーのおいしい食べ方を伝える取り組みも行っている。セルリーの袋に一つずつレシピを入れたり、袋にQRコードを印刷したりして、レシピを見てもらいやすい仕組みも整えている。

「セルリーのおいしい食べ方を知らない消費者の方が多いので、さまざまな調理方法を伝えて、山形セルリーの魅力をPRしています」(志田さん)

一つの株の部分ごとの食べ方も提案(画像提供:JA山形市)

新規就農者が語るセルリー栽培

農業への憧れから新規就農をする人が増えているという。しかし、憧れと現実とのギャップを痛感し、すぐに挫折してしまう人も後を絶たない。

そんな中、非農家出身の新規就農者を受け入れ、定着化に成功しているのが、JA山形市のセルリー部会である。

実際、ハウス団地での就農はどうなのか。就農4年目の石垣翔一郎(いしがき・しょういちろう)さんに話をうかがった。

前職は建設業。農地、資金なしで就農

石垣さんは山形市出身の37歳。前職は建設会社に勤務していたが、転勤の話が持ち上がったことがきっかけとなり、地元に残るため転職を決意した。

始めはアルバイトとして農業に携わっていたが、そんな中で山形県の就農支援窓口を担う「やまがた農業支援センター」から山形セルリーの取り組みを紹介された。

「農地も資金もない中での就農で、しかも機械もすべてがそろっていますし、なにより未経験者でも受け入れてくれると聞きました。本当にありがたかったです」と石垣さん。

元建設業の石垣さん。就農4年目、ハウス13棟を使用

ハウス団地は隣の地区のJAやまがたでも取り組まれており、キュウリ、モモ、ブドウなどの栽培が盛んだ。

他の選択肢がある中で、なぜ山形セルリーを選んだのか。
「他の団地も見ましたが、やはりセルリーが良さそうだと思いました。もともとセルリーが好きだったこともありますが、例えば、キュウリがどうやって育つのかは、アルバイトをしていた経験などでだいたいイメージできていました。ですが、セルリーはわからないことが多く、面白そうだと思ったんです」(石垣さん)

就農1年目で13棟に拡大

ベテラン農家の元で2年間の研修を受け、2020年に就農した石垣さん。「ほとんど知識ゼロからの研修でしたが、とてもわかりやすく教えてもらえました」と語る。

就農当初は7棟からスタート。ハウスが空いていたことや収入の面からも、初めから13棟で営農する予定ではあったが、妻と2人で作業をまわせるかがわからず、感覚をつかむために半分の7棟から始めた。「これならできそうだ」という手ごたえをすぐに得て、同じ年の秋作から13棟に増やした。就農4年目の現在も13棟でセルリー栽培を続けている。

先に就農した団地の先輩からアドバイスを受けられるのもありがたいという。
「ハウスによってセルリーの生育状況が全く違うので、管理が大変です。何か異変を感じたらすぐに相談するようにしています」

セルリーの生育期間は6カ月。コマツナやホウレンソウなどの葉物野菜と比べると生育期間は長めだ。それだけに病気で出荷できなかった時のショックも大きくなる。

取材中も絶えず情報交換をする志田さん(左)と石垣さん(右)

収入減の不安を軽くするため、今後石垣さんはセルリーの春作と秋作の合間に別の作物を作ることを検討している。実際、すでにコマツナやホウレンソウなどの葉物野菜を植えている生産者は他にも何人かいる。

何を育てるかは実験中とのことだが、「自分たちがおいしいと思うもの、人から喜ばれるものを作りたい」と石垣さんは言う。

今後の展望は「現状維持」

志田さんによると、2014年に立ち上げられた山形セルリーの団地化プロジェクト「農業みらい基地創生プロジェクト」は、担い手育成の仕組みが整ったため、一段落ついたという。

「今後の展望としては、まずは現状を維持することです。そして、これからメンバーの高齢化が続くので、生産量が落ちないように、空いた圃場があれば、また新規就農者を募って入っていただくことも考えたいと思います」

展望を「現状維持」と答えた志田さん。新規就農者の受け入れ態勢が整い、販売状況も安定していることへの自信がその一言に表れていると筆者は感じた。

担い手不足が懸念される農業界において、なんとも頼もしいJA山形市である。

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