“名人“の祖父に野菜栽培のイロハを学び、24歳で独立
岐阜県のほぼ中央に位置する中濃地域。
比較的温暖なこのエリアで野菜農家の祖父の背中を見ながら育ったのが、川村雄祐さんです。
雄祐さんが農業を始めるきっかけとなった祖父の川村泰久さんは、農業歴40年以上。“名人“として地元の岐阜県のみならず、愛知県や関西でもその名が知られた存在です。
小学生のころから祖父の畑を手伝い、自然といずれ自分も農家になるのだと考えていた雄祐さん。大学を卒業後、泰久さんの下で本格的に農業を学び、1年半修業を積みました。
2020年、24歳で独立就農。地名を冠した「たわらファーム」を開園しました。JAから約4,000万円の借り入れをして、泰久さんのビニールハウスの横に同規模のトマト栽培用のハウスを建てます。
「トマトを選んだのは、作業の手間と収益を考えてのことです」と経営戦略を話してくれた雄祐さん。多額の借金をすることについても「怖くはなかった」と淡々と話します。「この先、40年、50年続けていくことを考えたら新しいハウスが必要です。効率化を試みれば、毎年400万円返済していける計算でした」
借金をしてハウスを建てる思い切りの良さに驚かされるとともに、意外だったのは、祖父と同じ土耕栽培ではなく別の農法を選んだことです。
「母から聞いた話では、祖父は毎日ほとんど休まず、子どもの卒業式にも行けないくらい忙しかったそうです。同じやり方では続かないと思い、栽培を工夫して効率化を進める必要があると考えました」
実際に、泰久さんの手伝いをする中で土耕栽培の大変さを実感していた雄祐さん。効率を求めて採用したのが、養液栽培と言われるポットに苗木を定植して育てていくポット耕栽培です。各ポットへの水やりやハウス内の温度調整、天窓・側窓の開閉も自動で管理することができます。
雄祐さんは祖父のように丁寧でおいしい野菜づくりを目指しながらも、より効果的な栽培を行うため、岐阜県方式のポット耕栽培システムを学ぶことを決意。農業用資材の製造などを手掛ける企業の農場で研修を受け、自身の農業を確立していきました。
販売先がない、正月も孤独に作業、配信数が伸びない・・・順風満帆ではなかった就農初期
就農当初、まず栽培を始めたのが冬春トマト。10月から冬を越えて7月まで長期間収穫できる「王様トマト(パルト)」と「りんか409」の栽培から始めました。
祖父から得た知識と知恵、そして試行錯誤した効率化により、1年目から想定以上の量を収穫できたといいます。
しかし、思わぬ壁にぶつかりました。多くの農家がぶつかる壁、”販路”です。
「当時、市場と直売所の2ヵ所しか販路がありませんでした。そこで、他の直売所に手当たり次第電話をしたり、知り合いから紹介してもらったりして、販売先を増やしていきました。結果取引する直売所は9ヵ所にまで増え、2年目からは価格を自分で設定できる直売所だけに卸す方針転換ができました」
自身の工夫と努力で、壁を乗り越えた雄祐さん。
しかし直面したのは、それだけではありませんでした。
「就農当初はずっと1人でやっていたので、年末や正月も休みなく働き、地元に帰省した友達から連絡があっても『仕事があるからゴメン』と誘いを断っていました。農業自体を嫌いにはなりませんでしたが、孤独で閉塞感があり苦しかったです」
独立就農した若者ならではの悩み。しかし地元のご縁で、知り合いが手伝ってくれるようになります。孤立感はなくなり、農作業が楽しくなったそう。
また、トマトの栽培品種を増やし、さらにナスやトウモロコシなどさまざまな野菜の露地栽培も行うようになりました。
「農業は人を増やしたほうが絶対に楽しくできると確信しました」
就農1年目の9月には、野菜づくりに関する動画配信を始めました。
今でこそ94万回以上再生されている「トマトの脇芽のかき方」も初期に投稿したものです。
最初からうなぎ上りに再生されたわけではなく、「当初はまったく伸びなかった」とのこと。
しかし、一般的にトマトの苗を植え始める4月頃になると再生回数が急上昇。「投稿時期が悪かったからだと気づきました」と冷静に振り返る雄祐さん。
トマト以外にもナスやキュウリなどさまざまな作物の動画を投稿するようになり、現在メインチャンネルの登録者数は10万人を突破しています。
「動画配信を始めた目的は、収益というよりも認知度を高めることです。”トマト農家”として認知されるのではなく”ゆーすけ”として知ってもらうことで、僕自身がブランドになる。僕が育てたナスやトウモロコシなども安心して買ってもらえるようになると思いました」
現在は動画担当の仲間も加わり、メインチャネルだけでなく、サブチャンネルと園芸チャンネルも開設。毎日複数の動画を投稿しています。
「配信頻度で言えば、農業Youtuberの中で僕が一番だと思います」
土づくりから始まるこだわり いまこそ好機ととらえ、農業を儲かるビジネスに
おいしい野菜づくりを追求する雄祐さんが祖父の泰久さんから学んだことの1つが、土づくりの大切さです。
たわらファームではさまざまな肥料を施肥していて、そのうち自身の動画配信チャンネルでも紹介しているのが有機肥料『こっこりん®️』です。
「土づくりや肥料にこだわっていた祖父が”これが一番良い”と使い続けていたのが『こっこりん®️』です。連作障害や病気に強いですし、ミネラルが豊富でリン酸を多く含んでいるので苗木の初期生育がすごく良くなるんです。追肥に使った時もすぐに根張りが良くなり、効果を実感しました」
雄祐さんがトマトの味をさらに良くするためにいま着目しているのが水です。
「ポット耕栽培で同じ育て方をすれば他の人も同じようなトマトを作ることができてしまいます。差別化を図るためには、肥料にこだわることも一つですが、水やりを工夫することも大事なのではないかと考えています。茎や葉などの生育状況を見て水やりの回数を調節し、もっとおいしい野菜を作っていきたいです」
たわらファームは開園して4年目を迎えました。
就農2年目以降も順風満帆だったわけではなく、3年目にはトマトの半分が枯れてしまい、苗を植え直したこともありました。それでもたわらファームは、祖父からの教えと自身の戦略をもとに、当初の事業計画を上回る収益を上げ続けています。
そして雄祐さんは、いままた新しい取り組みを始めています。
「次はイチゴを始めます。そのために今年、また新しいハウスを建てます。あとは白菜とブロッコリーの露地栽培にも挑戦しようと思っています」
独立以来、一心不乱に走り続けてきたその歩みを緩めることなく、さらにアクセルを踏み込む雄祐さん。前進を続けるその原動力をたずねると「若い人たちの農業集団をつくりたいんです」とまっすぐな答え。
「いま、農家のほとんどは高齢の方々です。10年が経つ頃には規模を縮小したり、手がかけられなくなったりして、空いている土地が増えます。これはチャンスです。いまこそ、若手農家が規模を拡大することができ、儲かるビジネスにしていけると思います。そのために、動画配信も活用して農業のやり方を示していき、仲間を増やしたいと思っています」
前向きに、そして失敗を怖れずに次々と挑戦を続ける雄祐さん。
その夢が実現する日は、もうすぐそこにあるのかもしれません。
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