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注目のリジェネラティブ農業を徹底解説! サステナブルとの違いや具体例を紹介

伊藤 雄大

ライター:

注目のリジェネラティブ農業を徹底解説! サステナブルとの違いや具体例を紹介

リジェネラティブ農業という言葉をご存知でしょうか。日本では「環境再生型農業」とも呼ばれ、注目され始めています。その意味や考え方、根幹をなす「不耕起栽培」、「カバークロップ」などの技術的意味と併せて解説します。

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リジェネラティブ農業とは

「再生」「回生」などの意味を持つ英語「リジェネラティブ(regenerative)」の考えに基づいて取り組まれる農法の一つです。日本では「環境再生型農業」と訳され、自然環境をよりよい状態に再生させることを目指しています。基本のスタイルは「無化学肥料」「無農薬」「不耕起」。科学力や機械力に依拠した近代的農業が土壌を破壊してきたことを省みて、むやみやたらに土をいじらず、植物や土壌生物の力を生かし、有機物がふんだんにある「土壌の健康」を取り戻す。それが、地球環境の再生につながる、という考え方による取り組みです。

サステナブル農業との違い

リジェネラティブは地球環境の「再生」が目的です。地球環境に配慮した言葉では「サステナブル(持続可能な)」がありますが、こちらの目的はあくまで「持続」。すなわち、自然を持続可能な形で管理・開発しようという、ある意味では人間中心的ともいえる発想です。一方のリジェネラティブは「人間と自然を分かつことなく、共存共栄すること」をテーマにしています。

リジェネラティブ農業が注目される背景


リジェネラティブ農業は、二酸化炭素を土壌に取り込んで温室効果ガスの排出削減を実現する「カーボンファーミング」としても注目を集めています。
人間活動にともなう二酸化炭素などの温室効果ガスの放出によって、地球の気候は変化しつつあります。その傾向は今後一層進むとみられ、「脱炭素社会」に向けた動きが急激に進んでいます。

農業は、世界の温室効果ガス排出量のおよそ4分の1を占めると指摘されており、環境に配慮した農法が求められるようになりました。
そのような情勢のなか、リジェネラティブ農業は土壌を健全化する過程で土壌中の有機物、すなわち炭素量を積極的に増やす農法ということで、それによって大気中の二酸化炭素を減らすことができるため、脱炭素の観点でも注目されています。

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リジェネラティブ農業の主な目的

  • 化学肥料や殺虫剤の使用量削減と作物の自然回復力の向上
  • 土壌における炭素と水の保持力の向上
  • 農場とその周辺に住む生物の保護と多様性の向上


2019年に設立された、農業や生物多様性に関する団体「One Planet Business for Biodiversity」(OP2B)は、リジェネラティブ農業の目的を上記のように定めています。

目的は大きく分けて三つですが、OP2Bはそれぞれを個別に達成するものではないという点を強調しています。たとえば、畑を耕さなかったり、農薬の使用を控えたりすれば、農場とその周辺に住む生物は多くなります。すると、害虫をエサにする天敵が増え、土壌では病原菌と拮抗(きっこう)する土壌微生物が増殖し「自然回復力」が向上します。また、土壌の生物が増えれば、微生物が有機物を分解して土壌に取り込んだり、ミミズなどが団粒構造をつくったりして土壌水分を保ちやすくします。

リジェネラティブ農業における指標

【リジェネラティブ・オーガニック認証(ROC)三つの柱】
土壌の健康 土壌内の有機物を増加させ、炭素を蓄積させる
動物福祉 動物福祉を向上させる
社会公平性 農家・酪農家・労働者に経済的な安定・公正を提供する
回復力のある地域生態系・コミュニティを形成する

2020年、リジェネラティブ農業を広く進めるうえでリジェネラティブ・オーガニック認証(ROC)が生まれました。母体となったのは、有機農業の研究機関であるロデール研究所、ボディーケア製品のドクターブロナー、アウトドア企業のパタゴニアが設立したリジェネラティブ・オーガニック・アライアンス(ROA)。

これには世界的に「有機農業」が広がるなかで、何をもって「有機」と呼ぶかが曖昧になってきたという背景があります。アメリカでは、土を使わずに植物を育てる養液栽培や工場型畜産も有機農法として認めています。

そこで、「土壌の健康」「動物福祉」「社会公平性」を三つの柱として、不耕起や被覆作物など有機に関して14項目の基準を設けています。

リジェネラティブ農業の具体例

  • 不耕起栽培
  • オーガニック(有機)農法
  • 被覆作物の栽培
  • 農場に動物を住まわせる
  • 輪作・間作


リジェネラティブ農業の主軸となる技術をみていくと、あらゆる意味で生物が多様な農地を整えることが根底にあると思えてきます。技術の柱をみていきましょう。

不耕起栽培


畑を耕さない不耕起栽培は、海外、とくに南北アメリカでは広く普及している技術です。播種(はしゅ)や植付けを行なうために、部分的な耕起が行なわれることもあります。
もともとは土壌の浸食を防止する栽培方法として研究されはじめ、機械作業が大幅に省力化できるということで規模拡大のための技術として広がりました。この場合、耕さないことで生えてくる草は除草剤で対処します。

一方、日本での不耕起栽培は有機農業や自然農法の文脈で取り入れられることが多いです。リジェネラティブ農業の不耕起栽培も日本での考え方と似ており、耕さないことで土壌生物のすみかをかき乱さない、表土に残渣(ざんさ)が堆積(たいせき)することで微生物が活動しやすい環境をつくるなど、省力技術としての良い点を踏まえながらも、あくまで「土を再生」することに主眼を置いています。

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オーガニック(有機)農法

何をもってして「有機農業」と呼ぶかは諸説ありますが、基本的には化学肥料を使わず、殺虫剤や殺菌剤、除草剤などの農薬を使わない農法を指します。これらに加え、遺伝子組み換え作物(GMO)や抗生物質、成長ホルモンなどの使用を禁止する場合もあります。

リジェネラティブ農業では農薬も化学肥料も使いません。殺虫剤や殺菌剤はねらった病害虫だけでなく、その他の生き物や土壌生物にも悪影響を与えます。除草剤も同様、土壌を肥沃(ひよく)にしてくれる草(いわゆる雑草)も押しなべて枯らしてしまいます。また、化学肥料は、土壌の構造を化学的に乱すことで土壌微生物の活動を抑制すると考えられています。

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被覆作物の栽培


被覆作物(カバークロップ)は、リジェネラティブ農業にとっての技術的な柱です。むき出しの土壌に作物だけが植わっている状態にしないように、マメ科などの単一の植物だけでなく、ソルガムやヒエ、ヒマワリ、ソバなど、さまざまな植物を目的に応じてブレンドし、畑にまきます。

植物が土壌を覆うと、風雨による土の流亡を防ぐことができ、水分の蒸発や雑草の発芽が抑えられます。また、被覆作物の根は土を耕し、土壌生物のエサになる炭素を供給するなど、さまざまな効果をもたらします。

農場に動物を住まわせる


農地に、牛やヤギなどの動物を移動放牧するのはよくあることですが、リジェネラティブ農業の独自性は、家畜が草を食べ、草を踏みつぶすことで大きな役割を果たしていることに注目するところです。食べられた草は再生しようと光合成を活発に行ない、通常よりも多くの炭素を土壌に送り込みます。また、踏み潰された草は土壌を覆い、土壌生物が暮らしやすい環境を整えます。家畜を放牧することで、多種多様な生物が農場に住みつき、土壌が豊かになります。

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輪作・間作


連作障害という言葉があるように、同じ作物を同一圃場で作り続けると、土壌からは特定の栄養分が収奪され続け、特定の作物を好む害虫や病原菌が住み着きます。
それを避けるために、輪作(作物の種類とその生育場所を周期的に変えること)や間作(複数種の作物を近くに植えること)を行います。

生物多様性を守ることは、作物の生産性と矛盾しない

日本ではまだ浸透していない「リジェネラティブ農業」ですが、その根幹にある技術はどれも日本でも古くからなされている技術です。また、根底に流れているのはあらゆる意味で「生物多様性を守る」こと。それは、作物の生産性とはなんら矛盾しないということです。
海外ではリジェネラティブ農業が大規模で実践されていますが、日本の風土や農業事情に合うように工夫することで、今後、日本でも定着していくかもしれません。

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