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アフリカはコメを求めている──需要を敏感に捉えたタンザニアのコメ輸出戦略

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アフリカはコメを求めている──需要を敏感に捉えたタンザニアのコメ輸出戦略

食の欧米化や人口減少を受けて、恒常的な「米余り」が叫ばれている日本。稲作に適した風土や、先祖代々培われてきた技術を最大限に活用しつづけるためには、輸出に力を入れるのも一つの解決策だろう。日本はこれまで香港やシンガポール、アメリカといった国々にコメを輸出してきたが、経済発展の著しいアフリカも輸出先となりうるかもしれない。コメを求めるアフリカの現状と、アフリカの中でコメ輸出国になろうとしているタンザニアの動きを見てみよう。

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アフリカの人たちは、お米を食べる

アフリカ(本稿ではサブサハラ・アフリカと呼ばれるサハラ砂漠以南の地域を指す)といえば雑穀ばかり食べられていると考えられがちだが、それは教科書的な理解に過ぎない。現在では都市に住む人々を中心にコメの消費が進んでいて、1人あたりでは年間に20キロ以上のコメを食べている計算だ(日本は50キロ程度)。コメの消費量は確実に増えており、日本との差は日に日に縮まっている。

ところが、アフリカで食べられているコメの多くは、アフリカで作られたものではない。その多くはインドやベトナム、タイといったアジアの国々から輸入されている。アフリカでのコメの生産量は年にもよるが2000万トン前後で、これは消費量を十分に満たす量とは言えない。かなりの割合を域外からの輸入に頼っており、その輸入量は全世界輸入量の3割程度を占めている。

これは、日本にとって大きな好機だとは言えないだろうか。ご存じの通り、人口減少もあってコメの需要が低下している日本。かたや、人口が増加しコメの生産力が追いつかず、多くを輸入に頼っているアフリカ。価格や距離の問題をはじめとして乗り越えるべき壁は多くあるものの、アフリカという市場を日本のコメの輸出先として捉えてみてもよいのではないかと筆者は考えている。以下、もう少し詳しく議論してみたい。

アフリカ大陸の面積は日本の約80倍。サブサハラ・アフリカに限定しても約65倍で、そこに約11億5000万人が暮らす

コメ輸入大陸アフリカ

そもそも、歴史的に一つの一次産品に輸出依存してきたモノカルチャー経済が象徴しているように、アフリカ大陸では農業が盛んだ。それにもかかわらずコメは圧倒的な輸入超過である。これはなぜなのだろうか。

前提として、アフリカ大陸は広いものの、稲作に適した国は決して多くない。サハラ砂漠やその周辺はもちろんのこと、南部アフリカの多くも年間の降水量が1000ミリに及ばず稲作に適した地域とは言えない。地理的に見ればアフリカ大陸は大まかに見て北緯35°から南緯35°に広がっているが、年間降水量が1000ミリを超えるエリアは北緯15°あたりから南緯15°あたり(と一部の島国)に集中している。あくまでも大まかな傾向性であって、かんがいなどによって克服できる課題ではあるものの、稲作に適したエリアが広くないことは理解できるだろう。逆に、日本がいかに水に恵まれた国かが実感できる。

アフリカの中にも稲作が行われている国はある。西アフリカの大国ナイジェリアやコートジボワールなどはその例だ。ところが、稲作が盛んな国々では消費量も多い傾向にある。伝統的なコメ生産国で米食文化が発達していることは想像に難くない。結果として国内消費分を賄うことすら難しく、大陸のコメ需要を満たすには至っていない。

要するに、アフリカ大陸全体を見渡しても、コメを域内に流通させる余剰がある国は少ないのだ。しかも前述の通り、コメの消費量はアフリカ全体を通して増加傾向にある。慢性的なコメ不足はしばらく続くことが予想される。

東アフリカの穀倉地、タンザニア

そんなコメ輸入大陸であるアフリカにおいて、例外的なポジションにある国がタンザニアだ。サブサハラ・アフリカの中では上位の生産量を誇り、特に東アフリカにおいて穀倉地としての地位を築きつつあるタンザニア。近隣のウガンダやルワンダは、タンザニア産のコメを輸入している。なぜタンザニアは例外的にコメの輸出を達成してきたのだろうか。

タンザニアといえばコーヒーが有名だが、農業全般に関しても非常に恵まれた国だと言える。日本の2.5倍ほどの大きさの国には平地が広がっていて、温暖でありながら十分な降水量があって稲作にも適した土地だ。しかも、伝統的にコメの消費量はそれほど多くない。トウモロコシから作ったウガリ(そばがきのような見た目と食感。色味や触感だけでいえばパン生地が近い)や、タピオカの原料で有名なキャッサバを主食として食べることが多いためだ。こうした文化的な背景も同国の輸出力を後押ししている。

右側の白いかたまりがウガリ(ルワンダ滞在中に筆者が撮影)

ちなみに、タンザニアの農民は、家族や隣近所とのつながりや支え合いを大切にすることで経済的に厳しい環境を生き延びてきた。こうした地縁・血縁を大切にする文化は21世紀の今でも残っているようだ。日本の都市部で失われつつある人と人との濃密なつながりが、タンザニアではまだまだ色濃く見られる。筆者も何度かタンザニアを訪れているが、街を散歩していると日本の地方都市に来たかのような錯覚を覚えることもあった。

今ではコメの一大生産国として名高いタンザニアだが、コメ生産に注力しはじめたのは2000年代に入ってからである。コメ生産で国を立てようと「国家コメ開発戦略」を2009年に策定。2010年代にはコメの自給率200%を超える年もあり、コメの輸出国としての位置付けを確かなものとした。

その後、2022年には天候不良のあおりを受け、国内のコメ価格は急騰した。経済都市ダルエスサラームにおけるコメ価格は前年比で2倍近くになったと報道されている。そのような中でも輸出の勢いを落とさなかったことが、タンザニアの勝因だったのではないかと筆者は感じている。

驚くべきことに、逼迫(ひっぱく)するコメ不足に対して緊急輸入が行われた中でも、コメの輸出は継続された。この辺りに、東アフリカの穀倉地になろうとする同国政府の強い決意が表れている。こうしたタンザニアの意向・思いを背景として、たとえばウガンダの大統領は国内のコメ農家を保護するよりもタンザニアのコメを輸入することを選んでいる。

タンザニア農民の自助努力

ここまでマクロな政策や市場などを見てきたが、それだけでタンザニアのコメ生産力を語ることはできないだろう。コメを実際に生産する農家についても検討する必要がある。なぜなら、政府が号令を掛けたり補助金や種苗をばらまいたりしたところで、政府の思い通りに農家が動くわけではないからだ。お察しの通り、国家や経済の思惑に比べて農業はもっと複雑だ。

その点で特筆すべきなのが、タンザニア農民の力強さである。前述した通りタンザニアの農民は地縁・血縁を重要視しており、国家に対する自律性が高いとされてきた。実務的に言えば国家による種苗管理や流通管理はスムーズには進んでいないが、そこには自分たちの経験や知恵に従う農民の自律性もあるのかもしれない。

タンザニア政府は「農業第一(Kilimo Kwanza)」という政策を掲げて農業分野への積極投資をうたってきたが、農民にどの程度響いているのかは疑問だ。さらにいえば、中央政府が予算を付けたところで地方政府には十分に資金が届いていないという報告もある。たとえば種苗管理についても、ネリカ(New Rice for Africaの略で、収量の高いアジア稲と病気や雑草に強いアフリカ稲を交配して開発した稲の品種の総称)をはじめとする高収量品種の普及に努めているものの、在来品種がまだまだ主流の地域もあり改革は進んでいないようだ。

しかし、現実的にデータを見れば、タンザニアは2010年代を通してコメの収量の大幅増加を達成している。この理由を考えたとき、農民の自助努力で説明するのが最も合理的なのではないかと筆者は考えている。

農民一人一人には、国家を立てようとか輸出経済を盛り上げようとか、そのような崇高な理想はないのかもしれない。自分の家族においしいご飯を食べさせてあげたいという思い、隣近所が困っているなら支えようとする考え(と、大金を儲けたいという功名心)に支えられている。厳しい環境・社会の中を生き抜こうとする生存戦略が、第一義的にはあるはずだ。

ここまでタンザニアのコメの輸出戦略について見てきたが、国家のけん引に加えて、自律的な農家による自助努力がコメの輸出を可能にしている様子がうかがえる。国家による政策と農民による生存戦略が両輪となり、タンザニアは東アフリカの穀倉地としてのポジションを獲得したようだ。日本としては将来的な競争相手になりうるタンザニアから学ぶべきところも多いかもしれない。

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