茨城や栃木でも農場を運営
中森農産は設立が2017年。加須市で水田を借りて営農をスタートし、急ピッチで面積を広げてきた。2023年には新たに茨城県鉾田市で農場を開いたほか、栃木県野木町の農事組合法人をグループに入れ、合計の作付面積は300ヘクタールに達した。すでに国内で有数のスケールだ。
品目はコメを中心に小麦、大豆、トウモロコシ。いずれも広い農地を必要とする作物だ。カロリーが高いので、カロリーベースの食料自給率の向上に貢献できる。「植物が好き」「組織に縛られたくない」「環境を守りたい」といった動機で農業を始めるのとは違う、就農の目的がここに示されている。
中森さんは高校生のときに農業関連の本を読み、農業の大切さを感じて東京農業大学に進学した。大学4年のころには都内の各所で青果店を運営するなど、学生時代から起業家的な側面があった。栽培の腕を磨いて高みを目指す生産者ではなく、経営者として農業に関わろうとする姿勢はいまに通じるものがある。
もともと世界の食料問題に興味があった。大学に入ると、日本の農業も高齢農家の引退などで厳しくなっている現実を知り、国内に関心が向くようになった。だがそのときは「頭での理解にとどまっていた」(中森さん)という。2011年の東日本大震災で、考え方が劇的に変化した。
有事における農山漁村の力強さ
「いても立ってもいられなかった」。中森さんは震災が起きたときのことをそうふり返る。被災地に支援物資を送るボランティア活動に参加し、トラックの手配を担当した。そのうち運転手を確保するのが難しくなり、自ら運転して被災地に向かうことになった。地震の1週間後のことだ。
宮城県石巻市の漁村で見た光景が、中森さんの価値観を大きく変えた。