最新テクノロジーのほか、持続可能性に焦点当てた出展も

次世代農業を牽引(けんいん)する最新テクノロジーをはじめ、生産から加工、流通、販売に関するあらゆる製品・サービスが会場をにぎわせた「農業Week」。13回目の開催となる今回は、併催しているイベントも含めて計約850社が出展した。
前回開催までの「国際農業資材EXPO」「スマート農業EXPO」「6次化EXPO」「畜産資材EXPO」に加え、今年から新たに加わった「農業 脱炭素・SDGs EXPO」の計5展で構成された今年の「農業Week」。世界的な関心が高まっている、脱炭素や農業の持続可能性に資する新たな製品・サービスが集い、再生可能エネルギーを活用した先進技術やCO2削減技術、有機肥料やバイオスティミランとなどの農業資材なども注目を集めた。
初日から多くの農業法人やJA関係者、参入検討企業らが来場し、国内外の出展企業と熱く商談を繰り広げていた。
見回りが不要に! 害獣捕獲監視システム『マタギっ娘 LTE-M版』

4度目の出展となったマクセルフロンティア株式会社。長年にわたって培ってきた半導体製造装置や産業機器用途のシステム開発・製造経験を生かし、害獣捕獲監視システムをはじめとしたIoTソリューションを手掛けている。
象徴的なのが、害獣や鳥獣が”わな”にかかるとメールで通知してくれる害獣捕獲監視システム「マタギっ娘」。”有害鳥獣捕獲わな”などの見回りを効率化できるとあって、特に自治体や捕獲事業者などから根強い支持を得ている。特に、このほどリリースされた「マタギっ娘 LTE-M版」では、携帯電話通信エリア圏内であれば中継局や基地局を使わず端末のみで利用できるとあって、個人でも低コスト、短工期での導入が可能となった。端末のデモ機を手に取ってみると、スマートフォンと同程度の小型で軽量。電池で駆動するため、設置やメンテナンスも容易だ。マルチキャリアに対応しており、広い範囲で使用可能だという。

取材に応じてくれたマクセルフロンティアの担当者は「獣害といえばシカやイノシシのイメージですが、近年はこのほかにアライグマやハクシビンなどの被害も都市部で増えているようです」と口をそろえる。わなを設置して対策するにしても、容易に入り込めない山中や交通の便の悪い箇所に設置しなければならない場面もあるだろう。こうした見回り作業がネックになりがちな場所では、特に重宝されそうだ。
同社新事業開拓営業部長の武井正彦(たけい・まさひこ)さんは「LTE-M版は現在、さまざまな自治体で実証実験がなされていますが、『手間がかからず使いやすい』というお声をいただいています。コスト感もかなり抑えられるのもポイントですね」と胸を張る。「弊社にはこれまでの電子機器や端末を作るメーカーとしての実績があります。今後はそれを農家さんのために役立てていきたい。そのための現場ニーズを今後も抽出していきたいですね」と力を込めた。

取材に応じてくれた、武井さん(左)らマクセルフロンティアの担当者
NTTグループが描く、循環社会実現に向けた「食農バリューチェーン」

日本電信電話株式会社 研究開発マーケティング本部の村山卓弥(むらやま・たくや)さん
農業など、食に関わるさまざまな課題をICT(情報技術)活用によって解決するとともに、デジタルトランスフォーメーションによって従来になかった新たな価値の創出を目指すNTTグループ。「グループとして描いているビジョンが、生産から流通・販売、消費・食、環境保全までをつなぐフードバリューチェーンの実現です。現在、グループ38社が農業に関するサービスやプロダクトを手掛けており、それぞれが『食』を取り巻く社会課題解決に取り組んでいます」と話すのは、日本電信電話株式会社の村山さんだ。
例えば、農業の労働力不足という課題に対して同社では、ロボットによる農作業の自動化・遠隔監視制御の実現に取り組んでいる。今回の出展では、北海道大学、岩見沢市と連携して取り組んできた、省力化へ向けた実証の成果を公開した。
各グループ企業が手掛けてきた農業関連サービスやプロダクトも多くの生産者、自治体関係者らの注目を集めた。
グループ唯一の農業専業会社である株式会社NTTアグリテクノロジーのブースでは、最先端の環境制御と営農支援ソリューションを軸としたデジタルファーミングによる「次世代グリーンハウス」など、今後のフードバリューチェーンの根幹を支えうるソリューションを展示。
農業用ドローンの製造・販売を手掛けるNTT e-Drone Technology(イードローンテクノロジー)株式会社のブースでは、来春販売予定の国産ドローン「AC101 connect」が展示された。来場者は同機の特徴である軽さやコンパクトさに触れながら、導入後の農作業に思いをはせていた。

より精密で高度な駆動が可能となった「AC101 connect」
スマートフォン向けアプリやクラウドサービスの数々も、多くの来場者の目を引いていた。株式会社NTTドコモが提供する圃場管理ツール「畑アシスト」や、株式会社NTTデータが手掛ける営農支援プラットフォーム「あい作®」、株式会社NTTデータCCSが日本農薬株式会社と共同開発した「レイミーのAI病害虫雑草診断」や水稲生育診断アプリ「Growth eye」といった面々が並び、その機能や特徴について、各社がそれぞれPRしていた。

村山さんは「サービスのピースはそろいつつあり、全国のさまざまな企業や自治体との連携も徐々に生まれてきています。ゆくゆくはグループ会社同士が連携し、さらに課題解決に資する取り組みが生まれれば」と展望した。
環境に配慮した持続可能な農業をサポートする、株式会社オムニア・コンチェルト
「環境」「ECO」「農業改革」をキーワードに事業展開してきた株式会社オムニア・コンチェルト。1台で500のセンサを接続でき、最大20カ所のハウスを制御できる環境統合制御盤「Concerto(コンチェルト)」のほか、骨組みやブラインドに木材を使ったハウスなどが展示され、環境配慮、再生可能エネルギーの活用、農産物の収穫量や品質の向上をトータルでサポートする同社の高い技術力が垣間見えた。

木製ハウスの側面には、ブラインド型両面太陽光パネル、天井部分は、スリット型両面太陽光パネルが付加され、ハウス内温度や湿度、日射量を植物体の状況に応じて自動開閉し、発電や光合成の効率が最適になるように制御している
とりわけ来場者の目を引いていたのが、「コンチェルト」で取得したデータを3D画面で確認できる遠隔監視制御システム「Sfumato(スフマート)」。ハウスの制御機器を遠隔監視・制御できるほか、CO₂濃度や温湿度などの数値やハウス内設備の動きを3D画面でリアルタイムに映し出すのが最大の特徴。かん水状況やCO₂状況もスマートフォンやPCなどで即座に確認することができる。同社担当者からシステムの説明を受けながら大きくうなずく来場者らの姿からは、同技術の革新性がうかがえた。

3Dによってハウス内の状態のほか、温度や湿度などの数値も一目でわかる
発案者である同社執行役員兼システム開発部長の潘博文(はん・はくぶん)さんは「これまでのデータ分析はグラフばかりで非常に煩雑でした。自分が農家さんの立場だったら、ハウス環境が適しているかの判別もつかず、どのセンサからのデータを意味しているかも分からないので、これを栽培に生かせるとは思えませんでした」と開発の背景を説明する。
誰しもが運用できるよう、「機器の見える化、ハウスの見える化、制御の見える化、データの見える化」をコンセプトに開発された同システム。ハウス環境も自由に設定することができ、個々の生産者が持つ経験やノウハウを生かすことができる。過去の成育状況ごとの環境設定も一見してわかるため、事業を承継する際に課題に上がりがちな勘や経験、ノウハウの伝承にも一役買いそうだ。
今後も機能を追加していく予定。潘さんは「どれくらいの水や電気、CO₂を使って、どれくらいの収穫量があったかの収支も確認できるように、今後アップデートしていきたい」と展望を語ってくれた。

約半年かけて開発した3D遠隔監視制御システムの機能を解説してくれた潘さん
見て、聞いて、試して。商談や農家談義にも花
SDGsや環境配慮に寄与するサービスをはじめ、最先端の技術が一堂に会した第13回農業Week。海外の企業出展や外国人来場者も多く、環境配慮がいかに世界的な関心事かうかがえたイベントだった。3日間の来場者数は計35808人。会場では出展者と来場者が活発に商談する姿が見られ、生産者同士の意見交換にも熱が入っていた。
出展者による製品・サービスセミナーも行われ、来場者が自身の関心事や注目トピックに理解を深めていた。