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高値のトマトジュースで収益回復&地域活性! 地域の除雪も担う農家の行動原理とは【ゼロからはじめる独立農家#65】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

高値のトマトジュースで収益回復&地域活性! 地域の除雪も担う農家の行動原理とは【ゼロからはじめる独立農家#65】

農業は地域と切っても切れない関係。地域の土壌や人々に支えられてこそ営農が成り立つという側面もあるでしょう。そんな中、北海道西部に位置しニッカウヰスキー蒸留所があることでも知られる余市(よいち)町で、「地域が盛り上がれば、そこの農業も活性化する」とSNSなどで情報発信をする農家がいます。その農家、有限会社カワイの川合秀一(かわあい・ひでかず)さんは、農家として魅力ある農作物を生産するだけでなく、地域の人に感謝される「冬の仕事」も作り上げています。

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■カワイさんこと川合秀一さんのプロフィール
1986年余市町生まれ、農家の4代目。茨城県の農業専門学校を卒業後、2011年に実家の有限会社カワイに入社。2019年社長に就任。現在は生食用ミニトマトをジュースにする以外はすべてJA出荷するほか、産直ECサイトなどでカボチャやトマトジュースを販売。特にトマトジュースは地元ニッカウヰスキー蒸留所の直売所でも人気商品。3児の父でもある。

カワイさんのX(旧Twitter)

有限会社カワイのポケットマルシェのページ

農家になる決意

西田(筆者)

カワイさんとはいつもX(旧Twitter)でやりとりしていて、「カワイさん」と呼んでいたのですが、本名は「かわあい」さんなんですね。
そうなんですよ。でも「川合」という漢字を見るとみんな「かわい」と読むと思うので、そのほうがとっつきやすいかなと。だから会社名も「有限会社カワイ」です。

カワイさん

西田(筆者)

とっつきやすさ、大事ですよね。
さらに、子供のころは農家になるつもりがなかったとか。今ではミニトマトの糖度や大きさにも細かくこだわる「職人的農家」というイメージだったので、ビックリしました。
農家の子供あるあるだと思うのですが、小さい頃から休みの日は手伝いさせられて、なぜ友達のように遊べないのだろうと不満をいだき、どんどんと畑から遠ざかっていました。そんな状況だった高校生の時に、大型台風の吹き返しの風でうちの畑がある余市町では甚大な農業被害を受けました。

カワイさん

西田(筆者)

それは大変でしたね。当時はお父さんが社長の時代だったと思うのですが、有限会社カワイでも被害が大きかったのでは?
うちでは、ミニトマト用のビニールハウス(奥行50メートル)37棟すべてが倒壊しました。

高校からも「公欠にしてやるから家業を手伝え」と言われ、片付けを手伝いました。おふくろは心労で寝込んでしまって。そんな中、一番精神的にダメージを受けている親父(おやじ)が、その時はJAのミニトマトの部会長をしていたのですが、集荷所で「こんなことでへこたれてはダメだ。俺たちは一番大切な食を育てているんだ。これを糧に災害に強い産地にしよう!」とみんなを元気づけてる姿を見て、「親父すげえな」と。そんな親父を中心にして産地も少しづつ復興していきました。

親父みたいに地域の人から頼られる人になりたいと農家になることを決意しました。親父からは「外で勉強してきた方がいい」と言われて、茨城の農業専門学校に行きました。

カワイさん

西田(筆者)

地域の農業を支えるお父さんの背中を見て農家になる決意をしたんですね。カワイさんが今も主力である生食用ミニトマトを全量JA出荷しているのも、地域で頑張ろうという意識があるからなんでしょうね。
お父さんへのリスペクトが、カワイさんの農業のベースにあることがわかりましたが、他にお父さんから学んだことはありますか?
親父からは、余市の気候を生かした栽培方法やこの土に合う肥料など、農家4代にわたる知識を学びました。でも親父の教えに盲目的に従うのも問題だと思ってました。

カワイさん

西田(筆者)

確かに。カワイさんにはカワイさん自身の思いや考えがあって当然ですが、なかなか勇気がいることだと思います。
俺の好きな言葉に「代々初代」があります。先代を引き継ぎながらも、自分が初代のつもりで、先代への違和感も大切にしながら新たなことにチャレンジしていく。そのことが結果的に会社を守ることになると思います。

不採算部門だったミニトマトジュースをまかせてもらったのが大きかったかな。親父からも周りからも無理と言われたものなんですが、ラベルから味から作り方までイチから考え直し利益を出したことが自信になりました。

カワイさん

ミニトマト畑とカワイさん

ミニトマト畑でポーズをとるカワイさん

西田(筆者)

人気商品となっているトマトジュースの事業を立て直した後、お父さんの後を継いで社長に就任したとのことですが、その後も会社は順調そうですね。
今の農園の規模はどれくらいですか?
現在はハウス(奥行50メートル)が43棟あります。俺が就農した後に、何棟か増やしたり、建て替えたりしましたね。そのハウスで毎年1万6000~1万8000本のミニトマトを育てています。またカボチャも育てていて、こちらは主に直売用です。社員は5人、そのほか期間雇用が3人います。

カワイさん

地域貢献が冬の収入源に

西田(筆者)

カワイさんのXを見ていると、冬場は除雪の話題が多くなってますね。雪国の農家で冬場は除雪車のオペレーターになるという人はいますが、自前で除雪車をそろえてやっているというのは珍しいと思うのですが。
親父が機械好きでして……(笑)。もう30年ほど前になるんですが、ある日、大きいホイールローダーを「買ってきたぞ!」と。我が家や畑回りの除雪用ではあったんですが、うちだけではもったいなかったので、近所のスーパーや葬祭場の駐車場などの除雪を請け負うことにしたんです。そしたらどんどん口コミで広がってきて、親父の時には請け負い価格もバラバラだったんですが、俺の代になってから価格を統一し本格的に事業となりました。

ミニトマトの作業は2月下旬の種まきからスタートして6月から10月まで収穫、その後片付けとなるんですが、除雪の時期はその畑の休業期間にハマった形になります。

カワイさん

ホイールローダー

自前のホイールローダーで駐車場の除雪

西田(筆者)

私が住む石川県も豪雪地帯というわけではないのですが、例年雪は積もります。道路に関しては公的機関で除雪してくれるのですが、道路脇によけられて壁になりそれを除雪するのも大変だったりします。身近で頼める人がいたらありがたいですよね。

実際の作業体系や料金はどのようにされているのですか。
除雪作業は夜に行います。俺は夜中2時から、従業員には3時から出動してもらって、朝6時30分には終えるようにしています。

料金はその都度の代金制ではなく、シーズン契約となります。今は200軒契約しています。

カワイさん

西田(筆者)

シーズンごとの契約だとやってもらう側としては安心ですね。いわゆる「除雪のサブスク」ですね。
まさにサブスク。なので豪雪の年は大変です。

うちはそんなに安く設定してないのですが、そのぶん丁寧な仕事を心掛けています。一旦契約をやめて戻ってくる人も多いです。そこも地域の信用があればこそだと思います。

カワイさん

農は地域の代表的資源

西田(筆者)

カワイさんといえば、Xでフォロワーが7500人を超え、農家の間でも有名なんですが、そんなXの投稿も地元の余市愛にあふれているように見えます。そんな地元愛は昔からあったのですか?
小さい頃は、今、余市町の魅力だと感じているさまざまなことを当たり前だと思っていたのですが、一度外に出てから魅力を再認識しました。余市には海も山もある。味覚の宝庫で空気もきれいで景色も最高。ぜひこの地に来て感じてほしいと思うようになりました。

カワイさん

西田(筆者)

他ではあまりないものといえば、カワイさんのミニトマトジュースかと思います。1本180ミリリットルで850円となかなかのお値段ですが、それでもリピーターがいて人気商品となっていますね。この値段設定には強い思いがあったのでしょうか。
以前、余市が朝ドラの舞台になったことがあるんですが、反響はその蒸留所だけで余市全体には波及しませんでした。でも観光の中心はやはりその蒸留所。トマトジュースを立て直すにあたり、その蒸留所併設の直売所で売るのにふさわしいものにしようと決めました。

ミニトマトを加工する場合、ヘタもげや傷などのあるB級品をまわすのが普通ですが、有限会社カワイでは最上級のミニトマトをジュースにしています。加工委託先でも驚かれるくらい。味のチェックも欠かさずしています。

蒸留所の直売所には、置いてもらえるよう何度も何度も通ってお願いしました。当時、蒸留所でも「地元のものを」という考えもあり、置かせてもらえることになりました。今は決して安くなくても売れていて、「良いものであれば置くところさえ考えればやっていけるのだ」と確信しました。

カワイさん

トマトジュース

180ミリリットル850円のミニトマトジュース。デザインの文字は高校時代の恩師に依頼

西田(筆者)

あのミニトマトジュースにはそんな思いがこもっているのですね。
実績を出すことで、地域の人たちの見る目が変わることを実感しました。そこで農家だけでなく水産加工業者や観光業者、ワイン醸造所の若手でマルシェを開催しました。

そのマルシェも口コミで広がり、他の地域からも多くの人が来てくれるようになりました。それをSNSで発信することで、さらに影響が広がって。

それまで「何もない」と言っていた人もマルシェで販売するなどそれぞれの自信にもつながってきたように思います。

カワイさん

西田(筆者)

まさに地域とともに歩んでいる感じですね。

農家は自営消防団、またPTA役員をやるのが当たり前という空気もあって、それを負担に感じている人もいますが、カワイさんはそんな活動を含め積極的に地域に関わっていますよね。
人によっては向き不向きもあるし、イヤなら断ればいいと思います。ただ地域が盛り上がることは農業の活性にもつながると実感しています。その地の特色となると、必ず1次産品が入りますしね。

カワイさん

西田(筆者)

地域全体が盛り上がることで長く強い農業になりそうですね。カワイさんの行動原理が少し分かったように思います。

最後に今後の展望をお聞かせください。
できるだけ多くの人に余市に来てもらいたいと思っています。そのために、今はインバウンドに注目しています。その誘致の一環として、輸出にも力を入れたいと思っています。

いずれ「日本」ではなく「余市」を目指して世界中から来てくれる。そのことで国内からも注目され、それが地元民の誇りにつながると思っています。

地元への誇りこそが地域活性の原動力になり農業の活性化にもなる。そう信じています。

カワイさん

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