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東日本随一のもち米農家が実践する「収量の最適化」と「独自販路」【岩佐と紐解く戦略農業#02】

岩佐大輝

ライター:

連載企画:岩佐と紐解く戦略農業

東日本随一のもち米農家が実践する「収量の最適化」と「独自販路」【岩佐と紐解く戦略農業#02】

売り上げを立てる仕組みづくりが上手な農家を取材する連載企画。今回は農事組合法人野菜のキセキの理事、村上和之(むらかみ・かずゆき)さんの農場を訪問し、経営の考え方や手法を聞いた。聞き手は自身も複数社を経営する株式会社GRAの岩佐大輝(いわさ・ひろき)さん。コーディネート役はマイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が務める。

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【プロフィール】
■村上和之さん

農事組合法人野菜のキセキ 理事
大学卒業後、アメリカに留学し貿易を学ぶ。その後帰国し、宮城県岩沼市で少なくとも11代続く家業の農業を継ぐ。東日本大震災で被災したのを機に、復興プロジェクトとして「野菜のキセキ」を立ち上げ、現在は農事組合法人として運営。主にもち米を作り、自社で販売している。

■岩佐大輝さん

株式会社GRA代表取締役CEO
1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本および海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。

■横山拓哉

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

加工用米の割合を増やし収入アップ

横山:今日は野菜のキセキ、村上さんにお話を聞きます。よろしくお願いします。

岩佐:まずは村上さん、自己紹介をお願いします。

村上:野菜のキセキの村上です。宮城県岩沼市で、お米を中心にした農業をやっています。45ヘクタール中32ヘクタールでもち米を、残りで「ひとめぼれ」を作っていて、全て自分たちで販売もしています。もち米は昔は約20ヘクタールで作っていたのですが、今から4年前に米価がすごく下がるといわれていた年があって。それを機にもち米に切り替えて、加工用米という形で企業と契約しました。

岩佐:もち米と、いわゆる普通のお米ではどれぐらいの差がついているのでしょうか。

村上:加工用米というと安く聞こえるかもしれませんが、僕たちの場合は一般流通よりも高く売っていて、そこにプラス補助金がつきます。今年の収入は同一面積で1.5倍ぐらいにはなると思います。反収でみても「こがねもち」で9俵、「ひめのもち」で9俵半ほど、「ひとめぼれ」で9俵半ぐらいです。

岩佐:ほとんど同じぐらいの反収があるんですね。

村上:「ひとめぼれ」はもっととることができますが、今の規模が管理する上ではちょうどいいんですよ。僕たちは一般の人たちに販売するので、食味重視です。機械で田んぼごとにデータを取り、例えばタンパク質の割合などを計測しています。自分たちの思いだけでおいしさを伝えるだけでなく、データとしておいしさを示すことで付加価値を上げています。

規模を大きくするのが最適解ではない

岩佐:入口の巨大倉庫に最新のトラクターがたくさんありましたね。例えば大型トラクターとかを使うと「規模の経済※」が働くわけですよね。どれぐらいの規模が効率的なのでしょうか。

村上:広げていくなら、50ヘクタールごとがベストかなと思います。100ヘクタールになると人手が必要になりますし、機械の台数も増えます。でも小回りが利かないと、これからの時代、対応できなくなるじゃないですか。
僕たちの場合はおいしいものを提供して、その付加価値のもとに海外と戦おうと考えています。今後は自分たちで作るだけじゃなくて、いろんな農家とジョイントしていく必要性があると思います。それもあって今は50ヘクタールにとどめているんです。

岩佐:ちなみに「ひとめぼれ」は個人の方に販売しているんですよね。

村上:実は僕の妻がベトナム人でインフルエンサーなんですよ。妻の営業のおかげで、今日本にいるベトナム人が相当な量を購入してくれて、直販だけで全部売り切っています。
もともと、うちは有機栽培や特別栽培をする農家でしたが、震災を機に健康意識の強いお客さんが離れていってしまって。安くておいしいものを好む人は多いですが、僕はそんなものはないと思います。ちゃんとしたものを作り続けるにはお金が必要なんです。「僕たちが次の作付ができる金額を払ってくれる人は誰か」を探していった結果、外国の方々に向けて売ることにつながりました。

※生産の規模が大きくなるほど製品一つあたりの平均コストが下がる効果のこと

収量を上げるための工夫

岩佐:先ほど、もち米の反収は9俵以上と伺いましたが、単位面積あたりの収穫量がかなり大きいですよね。この背景にはどんな技術があるのでしょうか。

村上:技術というよりは機械やシステムを使って、最適化に長年取り組んできました。クボタの営農支援システム「KSAS」と、PFコンバインと呼ばれる食味・収量センサ付きコンバインを使っています。いろんな微量要素の状況を見ながら10年ぐらい試行錯誤を重ねてきました。
9俵以上とれている田んぼはそれ以上の収量を狙わず、反収が低い田んぼを平均値に持っていくための最適化をするようにしています。そうすれば必然的に収量の平均は上がるじゃないですか。

岩佐:素晴らしいです。でも最初はそこまでの反収はいかなかったわけですよね。

村上:いってません。最初は7俵とか、ひどい時は虫もつきやすかったり、病気にもなりやすかったりして、5〜6俵のときもありました。

岩佐:1枚の田んぼの中でも場所によって収量が違うわけで、場所によって施肥のコントロールもしているのでしょうか。

村上:今年から栽培管理支援システム「ザルビオ」を使って、コントロールしています。また新たに導入したコンバインも約5mメッシュで収量やタンパク値を測れるものになります。10俵とれるもち米の栽培技術が実現する可能性は高いですよね。

地道な営業で販路を拡大

岩佐:もち米は企業に対して販売しているそうですが、企業へはどうやって営業したのでしょうか。

村上:20年弱前から地道に営業して、いろいろな人たちの紹介で枝が広がっていったような感じです。最初は、ある餅加工会社の社長さんが僕のことをかわいがってくれて、いろんな人を紹介してくれたり、「今からもち米を作っておいた方がいい」とアドバイスくれたり。その方を信用して進んでいきました。

岩佐:やっぱり最初はドブ板営業だったんですね。

村上:クレームもいっぱいありました。信用を築くまでは、例えば何かあったら納品先の工場まですっ飛んで行ったことも。でも安定した栽培ができることで生産物も高品質にもなっていき、クレームもほとんどなくなりました。

横山:村上さんは生産でも営業でも地道にPDCAを回していますが、そうなる最初の1歩目はどんなところから始まったのでしょう。

村上:正直なところ、好奇心です。生産については、クボタの営業にすごくいい方がいたんですよ。PFコンバインも貸していただいて、見える化がPDCAを回す上では重要だし、営業のツールとしても活用できるという方向性を見いだ出せました。
営業に関しては、昔のことであまり覚えていませんが、必死だったんでしょうね。経済的にもそこまで余裕がありませんでしたし、自分たちがリスクを背負って高い価格で販売していく努力が必要でした。

6次産業化で自分たちで需要を作る

岩佐:今後、6次産業化を進めていくと伺いましたが、具体的にどんなことをするのか教えてください。

村上:今年中にフィリピンでおにぎり屋を始める予定なんです。海外に自分たちのお米の需要を作っていきたいなと。僕たちは今でも、加工用米や補助金などを全て複合的に収入化しているので、もう頭打ちなんですね。さらに収入を増やしていくためには、しっかりと6次産業化して、なおかつ国内でレッドオーシャン(激しい競争状態)に入っていくよりは、海外に出て行った方が需要はあると考えています。
今回はトライアルで知り合いの店を間借りしてやるので、初期投資はあまりかかりません。何カ月間か販売してみて、結果次第で本格的に場所を探したり、そちらの方にランクアップするかランクダウンするかを判断したりします。そこも好奇心です(笑)。

岩佐:今は円安ですし、フィリピンの富裕層の購買力もかなり上がっていると聞きました。

村上:僕たちがちゃんとおいしいものを提供すれば、日本より高い金額で販売することができると思います。やっぱり僕たちも補助金にフォーカスしすぎるとメンタルが病むというか。「あそこについたのに、なんで俺たちにつかないのか」と考えるとマイナス思考になってしまうので、今はそこを当てにしない。その後の未来がどっちに振れるかわからないけど、僕たちがリスクを取って、自分を信じて進んでいくしかないと思います。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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