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家族総出のみかん農家からの脱皮!独自の栽培方法で、若者が継げる農家へ

湯川真理子

ライター:

家族総出のみかん農家からの脱皮!独自の栽培方法で、若者が継げる農家へ

温州(うんしゅう)みかんの生産日本一を誇る和歌山県、中でも有田(ありだ)地域は有数の温州みかんの産地である。2025年に創業50周年を迎える有田の「マルケンみかん」は、28戸の生産者がみかん農家の悩みや課題を共同で解決し、次世代につないでいる。しかし、少し前までは「じいちゃん、ばあちゃんや子ども達まで家族全員で夜中まで働かなければ終わらないような仕事なんて、継がせられない」と嘆いていた。ネックとなっていたのは、繁忙期の家庭選別である。朝から収穫し、選果場に持っていく前に家庭で選別をするのが常識だったからだ。長年当たり前のように続いていた家庭選別を廃止し、その結果、後継者や新規就農者も増えた。みかんの花があと少しで咲きそうな4月末、「マルケンみかん」の代表・永石睦巳(ながいし・むつみ)さんに話を伺った。

「そげなことできん」と反対され続けた家庭選別の廃止

「マルケンみかん」のみなさん

和歌山県有田川町賢(かしこ)地区は紀伊国屋文左衛門が嵐をついて江戸にみかんを送ったと伝えられる地域である。みかん山には、江戸時代に先祖が積んだという石垣が残されており、2023年に世界農業遺産への認定申請が承認された「有田・下津地域の石積み階段園みかんシステム」地域だ。

「マルケンみかん」は、28戸の農家で作付面積60ヘクタール、年間生産量は約1300トンの温州みかんを栽培している。温州みかんは収穫する時期によって極早生(ごくわせ)みかん、早生(わせ)みかん、中生(なかて)みかん、晩生(おくて)みかんに分類されるが「マルケンみかん」が栽培しているのは、樹上で完熟させた早生みかんだけである。収穫時期は11月25日ごろから12月末だ。最近はさまざまな種類の柑橘類を栽培しているみかん農家が多いが、どうして早生みかんに絞っているのだろうか。

「50年前はいろいろ栽培していましたが、30年くらい前からはほとんど早生になりました。理由は早生みかんが適作でお客さまに支持されたからです」と永石さん。

後継者不足で悩むみかん農家が多い中、「マルケンみかん」の生産部メンバーの平均年齢は38歳と若い。その理由は「そげなことできん」と反対され続けた従来の農家の常識だったことを根気よく説得し、改革をしていったからである。

「マルケンみかん」の代表・永石睦巳さん

永石さんは会社勤めを経験後、35歳の時に家業のみかん農家を継いだ。

「このままだと自分の代で終わってしまう。確実に続かない。もっと効率良くできないのかと、常々思っていました」。自分の代で終わってしまうと思った大きな理由は、収穫時期の忙しさだった。早朝から日が落ちるまで収穫作業をし、深夜まで家族総出で選別作業をするのが当たり前だった。収穫したみかんを選果場に持っていく前に選別し、1級、2級、加工品、小玉に選別しなければならないという時間も手間も掛かる作業を家庭ごとに担っていたのだ。

「家族総出なので、親子げんかになることも多かったです。収穫期に家族が協力して、時には夜なべになることもみかん農家では当たり前で常識でしたが、それは世間的には非常識。改善していかないと、後に続くものが居なくなると危惧していましたが、最初は農業経験も浅かったので、なかなか意見を受け入れてもらえませんでした」

みかんの選別は山で済ませる!みかん農家の働き方改革となった「山選り(やまより)収穫」

家族選別を廃止したいが、代わりに誰が選別を担うのか。永石さんには収穫時期の作業の負担を分散させるための秘策があった。樹上選別である。しかも徹底して山で何度も選別を行なうやり方だった。

「家族選別を廃止するためには、収穫時に偏っていた作業の負担を分散させなければなりません。収穫前に何度も樹上で選別をすることで、収穫後の選別の手間や労力を省く方法です。山で選別するので『山選り収穫』と言っています」

この「山選り収穫」という呼び方は自然に生まれた造語である。このやり方は収穫までの作業量と選果場の仕事は増えるが後継者不足のネックとなっていた家庭選別を無くすことができるはず。「山選り収穫」は2012年の試験販売を経て、2013年から本格的に全面導入し、家庭選別の作業を廃止に踏み切ることができた。

「山選り収穫を発案してから実現するまで12年掛かりました」と永石さん。2023年には手順の標準化を目的に商標登録している。

古くから「マルケン」という組織が存在していた有田川の賢地区は、1976年には地域の良さを打ち出した組織作りを目指して「マルケン共選組合」を設立し、2021年に株式会社マルケンみかんとして法人化している。山選り収穫が実現したのは、永石さんがマルケン共選組合の副組合長を務めていたときのことである。
山選り収穫を行った結果、みかん本来のおいしさを味わってもらえるようになった。このやり方を隠さずに全国に広がれば良いと考えている永石さんは山選り収穫のノウハウを細かく教えてくれた。

山選り収穫作業

一般的なみかん農家も花から小さな実がなると摘果する樹上選別をしているが、頻度は1回から2回程度である。それに対し山選り収穫は樹上選別を何度も行うのが特徴だ。5月の摘蕾に始まり11月上旬まで何度も摘果作業を繰り返す。規格に満たないみかんは、この時点で落としていく。更に加工品用は収穫時点で分けておく。マルケンみかんでは、加工品としてストレートの『うんしゅうみかんジュース』を販売している。

「収穫時には葉が20枚から25枚に1個のみかんのみを残してあとは落とします」
何度も摘果作業をすることで出荷できないみかんは山で全て落とし切っているので、樹上完熟させたみかんを収穫するときは、ほとんど選別が終了している。

「山選り収穫を始めて、高齢者の負担も減ったと喜ばれています」と永石さん。収穫したときにみかんを入れるコンテナや配送用の段ボールに鮮度保持紙を使用し、鮮度の低下を防いでいるという。選果場での仕上げの選別は見た目や大きさ、糖度酸味の分析など、大半は機械で行っている。

仕上げ選別をする自社選果場

みかん栽培には、収穫量が多い”表年”と、収穫量が落ち込む”裏年”というものがあるが、永石さんは収穫量と品質を安定させるため、1本の木で半分ずつ成らせるように工夫している。そのため、マルケンみかんには表年も裏年も無いというから驚きだ。

出荷先は宇都宮市と石巻市の市場のみ!一般には出回らない

栃木県宇都宮市と宮城県石巻市の冬の定番となっているのが「マル賢(けん)みかん」である。なぜ、和歌山県の有田川のみかんが遠く離れた2つの地域のみに限られて販売されているのだろうか。その理由を永石さんはこのように話す。

「うちは市場に育てられた産地なんです。昭和40年から50年に掛けてみかんの価格が暴落した時代があったので、市場を求めて北上して行きました。そのときにご縁ができたのが宇都宮と石巻でした。それ以来のお付き合いが今も続いていて、2つの都市では小学生でもうちのみかんを知ってくれています」

毎年、シーズン終了後には市場の関係者と本音で反省会を実施し、改良点を解決していったそうだ。現在、2つの市場だけでも足りないと言われているそうで、他に販売することができないという。全国販売しているのはジュースのみである。どうしてもマルケンのみかんを食べたいという有田の人がいても特別に分けてあげるということもしない徹底ぶりである。それは長年、みかんを買い続けてくれている市場を大事にしているからである。

山選り収穫を始めてからは、みかんの味も向上したそうだ。
「みかんは収穫後の選別時の衝撃や圧力で品質が低下してしまうことがあるんですが、家庭選別機を使用しなくなってからは、衝撃や圧力が掛からないため品質低下が少なくなり、みかん本来の味を届けられるようになりました」

今後のテーマは、農家を持続させることだ。
「全国に包み隠すことなく拡げていきたいと思っています」と永石さん。山選り収穫のことを分かりやすく描いた漫画『マンガで見る!!マルケンみかん』も作成している。
何度も「そげなことできん」と言われながらも、持続可能な農業にしていくために継げる農業を目指してきた永石さん。その挑戦はなおも続く。

写真提供:株式会社マルケンみかん

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