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耕作放棄地を緑肥で土作り!新規就農から成長を続ける有機生産者の取り組み

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ライター:

耕作放棄地を緑肥で土作り!新規就農から成長を続ける有機生産者の取り組み

限られた担い手への農地の集約化が進む昨今、耕作放棄地や明らかに地力の低い農地での耕作が必要となることもあるはず。そんな地力の低い農地を「採れる農地」にするには、技術・知識と、少なからぬ労力が必要となる。耕作放棄地を採れる農地に変える土作りを、緑肥を活用して実現し続けている新規就農者が居る。神奈川県平塚市で有機栽培を手掛ける「株式会社いかす」だ。今回は、緑肥のエキスパートとして知られる同社取締役の内田達也(うちだ・たつや)さんに、緑肥による土作りの極意を聞いた。

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有機農業と緑肥の活用を身に付けて新規就農!

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株式会社いかすは2015年、4名の仲間でレストラン・宅配事業として神奈川県平塚市で創業。2017年5月に農業に新規参入した。現在の役員は内田さんを含めた3名で、通年雇用の社員6名(生産2名、出荷1名、加工1名、福祉2名)、通年雇用のパート従業員8名(収穫、パッキング、野菜加工)を雇用。有機JASを取得しており、8haの圃(ほ)場でキャベツ、ナス、ピーマン、ブロッコリー、カリフラワー、オクラ、などなど年間40品目を生産している。

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販路は、一般消費者への宅配ボックスによる直販が4割で、残りは卸を経由して大手スーパーなどに出荷している。卸には、自社工場で加工したカット野菜も出荷している。

この他、有機栽培を学ぶ場所を提供すべく、創業3年目に「サステナブルアグリカルチャースクール」を開始。これは現在、はたけの学校【テラこや】として運営を継続している。2025年5月からは、農福連携も開始した。内田さんは、創業当初の様子から語り始めた。

「最初は1haの耕作放棄地を圃場にするところから始めたんですよ。荒れた農地を奇麗にすると、また別の農地を貸して貰えるようになります。『あの新規就農者は、ちゃんとやっているな』と信頼されるのです。年に約1haずつ圃場が広がっていき、今では8haになりました」

内田さんは非農家出身。大学で地域経済について学んだ後、人材関連企業に就職。環境ベンチャーに転職した後、28歳で脱サラ。(公財)自然農法国際研究開発センターで自然農法や有機農業について科学的に学んだ後、有機栽培を手掛ける静岡県の農業法人有機栽培に就職。ここでは農場長を務めた。こうして着々と有機栽培や緑肥活用の知識を深め、経験を積みつつ、人的交流を広げて行った。

土作りは基盤整備と育土に分けて考える

耕作放棄地での緑肥による土作りを語る前に、土作りと緑肥の基礎知識について、内田さんの考えを述べておきたい。

そもそも良い土とは、地力が高い=総合的な生産力が高い土のこと。また、土壌の生産力を決めるのは、物理性・化学性・生物性の三要素であると言われている。採れる農地にするには、この3要素を整えることが大切だ。内田さんは農地をみるとき、「土作り」と「育土」とを分けて考えているという。

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内田さんは、「土作り」を①基盤整備と②土壌改良、育土を③活性化・多様化、④秩序化・組織化、と分けて考えている。

「『土作り』とは、作物生産ができる土にするための基礎段階のこと。ゴミを除去したり、山を崩したり、暗渠・明渠(めいきょ)を埋設したり、といった基盤整備と、石灰・リン酸を入れて化学性を弱酸性にする土壌改良が、これに該当します」と内田さん。「土作り」により、物理性・化学性・生物性を整えるという。

一方の「育土」とは、作物がよく育つ土になるように、栽培を継続しながら土壌生態系を発展させる作業のことだと言葉を続ける。「有機物を使って微生物を微生物の数を増やす『活性化・多様化』、作物による環境形成作用の利用による『秩序化・組織化』を行います」

緑肥は物理性と生物性の改善に役立つ

荒れ地を整えて行く「土作り」の段階で、特に緑肥が有効である、と内田さんは説明した。

「地力が極めて低いとき、有機物が少ないときには、堆肥を入れることもありますが、基本的には『土作り』の段階で緑肥を入れます。緑肥は主に、物理性と生物性を改善することができるのです」

緑肥を使うメリットは、大きく分けて3つあるという。

・堆肥と比べて散布が楽(ソルゴー5㎏散布→草丈3mに育てる→生重10t以上の有機物を生産できる
・手軽に多くの有機物を鋤き込める
・センチュウ予防効果など病虫害を減らす効果がある緑肥もある
・根耕効果

耕作放棄地を採れる農地に改良するのに緑肥が有効な理由は、根耕効果が期待できるから、と内田さんは補足した。

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白い糸状のものは、80㎝~90㎝の層にあった大根の根。茶色は前作のソルゴーの根。ソルゴーの根に沿って大根の根がはっている。深い層にもソルゴーの根が到達しており、大根はそれを利用して根を伸ばしている。その結果「非常に奇麗な根の大根が収穫できました」(内田さん)

「緑肥を育てることで、土壌深くに根を打ち込み、労せず物理性を改善できます。ソルガムを草丈2mに育てると根は地下90cmに、草丈3mなら根は地下1.5mに到達します。当地では地下1mから縄文時代の遺跡が出てきますから、緑肥を育てることで縄文時代の土まで到達できるのです(笑)。この緑肥の根耕効果は、機械ではほぼ不可能。物理的な空間を有効活用できるようになるのです」

緑肥による土作りで、耕作放棄地を1作目で県平均単収以上に採れる農地に!

ここからは、いよいよ、同社による緑肥活用事例を紹介してもらおう。新規就農時に賃貸した1haの耕作放棄地が、緑肥を利用した土作りを行ったことで、1作目から県平均以上の単収を記録。翌年の作付けでは、北海道の平均単収以上に「採れる農地」へと改善した実例だ。

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「農地を借りたのは2017年5月。開墾からスタートしました。圃場のあちこちに散乱していたゴミを集めて、ダンプ1杯分を廃棄しました。所々に低木が生えていましたので、ユンボを使って伐根しました。更地にしたら、次に堆肥と剪定枝チップを投入して、発酵処理を実施しました。1カ月後には畑のプランクトンと言われるトビムシやヒメミミズなどの土壌生物が大量に発生しました。表層の10cmは放線菌だらけ、という状態でした」

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次がいよいよ緑肥の出番。ソルゴーを播種して3mに育てた。モアで粉砕、鋤き込みして、1カ月発酵させた。ここまでが内田さんが行った緑肥を用いた基盤整備だ。

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その後、「土作り」のもう一つの段階である土壌改良=化学性改良も行った。具体的には苦土石灰を投入して、塩基飽和度70%を80%に向上させた。

「土壌改良によりpHが安定しました。苦土石灰の投入量は、化学性分析をしてもらっている上ノ原農園土壌環境技術研究所 に依頼し、緩衝能試験を実験室で確認してから行いました。」

作業開始は5月。耕作放棄地のゴミを廃棄、低木等を重機で伐根、更地にした。堆肥と木質チップを投入して1カ月掛けて発酵させて、緑肥を育てた。緑肥をモアで粉砕してから鋤き込み、苦土石灰を投入して、化学性を整えた。

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そして11月、いよいよ「土作り」を終えた圃場に玉ねぎを植え付けた。この写真だけを見ると、ここが半年前には耕作放棄地だったとは、にわかには信じられない。

収穫した結果、1反当たりの収量は驚異の4t!これは神奈川県の玉ねぎ平均単収を越えている。なお、2年目は単収6tを実現したという。以降、ソルゴーと玉ねぎを連作する、という栽培体系で「育土」を継続しているという。

こうした実績が近隣土地所有者に評価されて、同社には継続的に土地が集まるようになり、今では8haへと圃場が拡大したことは、既に記した通りだ。

「耕作放棄地でも、抑えるべき所を抑えれば、採れる農地に改良できます。物理性と生物性の改良には、緑肥は極めて効果的です。一方で、土地によっては化学性を改良しないと、緑肥の効果は激減してしまうことがあります。塩基飽和度が低いと、緑肥さえ育たないのです。土作りは教科書通り、が一番。繰り返しになりますが、物理性、化学性、生物性を整えることが大切なのです」

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東京農業大学と、土壌立体構造調査を行ったときの様子。

内田さんの「土作り」とその後の「育土」は、科学的裏付けに基づいて行われている。東京農業大学、東京大学に相談し、協力を仰ぎつつ、土作り・育土技術を磨いている。

緑肥は使いやすい技術。緑肥を活用した農業の普及を手伝いたい!

「地球環境の保全や社会の持続可能性を高めるキーワードの一つに『脱炭素』があります。緑肥は炭素固定効果が高く、農業の脱炭素化に貢献できる生産技術とも考えることができます。
今回お話したように、緑肥は堆肥や機械による作業と比較して楽に、土壌の三要素を整えることができます。緑肥は方法さえつかめば使いやすい良い技術です。より多くの方に使って欲しいですね。緑肥の活用を含めた持続可能な農業を、多くの先達や仲間、研究者の人々から教えていただきました。ですから私も、自分が得た知識や経験を、メディアやスクールを通じて、皆さんにお伝えして行きます。皆さんもぜひ、緑肥を活用した農業に挑戦してみてください」

緑肥に興味を持たれ方は是非、内田さんが執筆している記事をご覧いただきたい。

参考
自然の力を生かす有機栽培(サカタのタネ)
オーガニック農場での緑肥栽培事例の紹介(雪印種苗)

写真・図提供:内田達也(株式会社いかす)

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