開拓者の精神を受け継ぐ西部開発農産
お話をうかがったのは「株式会社西部開発農産」。社名にある「西部」とは、単なる方角の意味ではない。アメリカの西部開拓時代にも似た、開拓者の精神を指している。同社が拠点を置く岩手県北上市の西部地区は、かつて森林を切り拓いて農地とした開拓地である。戦後に先人たちが荒野に分け入り、ゼロから農を興した。あえて西部「開拓」としなかったのは、東北人特有の謙虚さからだろう。
地域の農業組織からスタートしていた同社は、1986年に法人化を果たした。高度経済成長期を経て、バブル真っ盛りの頃だ。一方で北上市は、かねてより企業誘致を進め、工業団地を整備してきた。地域の若者たちは農業を離れ、そこへ向かった。担い手を失った農地を、同社は「断ることなく」引き受け続けている。
こうして拡大を続けた結果、2026年現在、経営面積は1,070haに達する。内訳は主食用水稲(66ha)にはじまり、小麦(235ha)、大豆(245ha)。その他、蕎麦、飼料用米やWCS(稲発酵粗飼料)など、多岐にわたる。肉牛を育てる畜産部門を持つほか、自社製畜産物を提供する直営レストランまでも経営する。従業員数は生産部門だけで60人超、全部で約100人。北上西部地域の農と食を背負って立つ巨人だ。だが、その道のりは決して平坦ではなかった。同社が受け継いだ農地は、部外者の感覚で言えば、恵まれない土地だったからだ。
悪条件こそが、技術革新の母。立毛間播種に挑戦!

「この辺りは、もともと湿田が多く、土地は痩せています。そこに工場が沢山できて仕事が増えた。だから離農が進んでしまったのは、仕方がないことなのです」。同社で受託部長を務める清水一孝(しみず・かずたか)さんは語り始めた。同地の圃場は水はけの悪い湿田がほとんど。区画整理が進んでいないため、一枚の圃場は小さい。実際、同社が管理する30a以下の圃場は2,450枚!1,070haという広大な面積は、3,500筆以上もの圃場の集合体である。

同社圃場の一例。左側の中山間地域は、549枚、74.61haだから平均13.6a。涙が出てくるような小さな圃場だ。
「小さい圃場が点在していると、大型機械での作業効率は著しく下がります。これでも合筆を進めていて、そのままにしていたら、とっくに5,000圃場を超えていたはずです。まだまだ道半ばですが、合筆は進めて行きます。この条件のなかで、どうやって生産性を上げて、収益を確保していくか。それが我々の永遠のテーマなのです」
痩せた土壌、小さな湿田、そのうえ北東北の厳しい気候……この三重苦ともいえる悪条件が、同社の技術革新への原動力となった。その挑戦の結果身につけた栽培技術が「立毛間播種」である。
「立毛間播種」は秋まき小麦の課題を解決し3年4作を可能にする

従来のやり方では、大豆の後作として小麦を適期に播種できず、収量があがらなかった。提供:農研機構
北上市では従来、大豆の収穫が終わる10月下旬から11月にかけて、耕うん・整地したうえで翌年の小麦を播種していた。だが、このやり方には大きな課題があった、と清水さんは話した。
「大豆の収穫後に小麦を播種するスケジュールだと、あっという間に11月下旬になります。その頃は気温が低すぎて、小麦が十分に生育できないのです。越冬前に生育しないまま雪の下になるので、春になっても勢いがなく、結果的に収量が全く上がらない。年によっては、秋の長雨や早すぎる降雪により畑に入ることすらできず、播種を断念せざるを得ないこともありました」
収量が不安定なばかりか、播種できないリスクがある。これでは安定した経営は望めない。どうすれば最適な時期に小麦を播けるのか。そのジレンマを解決する鍵が「立毛間播種」だ。大豆の収穫を待たずに、畝間に小麦を播種するのだ。
農研機構は、麦・大豆の立毛間播種を水田・畑作輪作体系技術として発表したが、清水さんの発想の原点は地球の裏側「パラグアイ」にあった。2014年に農業研修で訪れた当地での光景だ。
「米や大豆の栽培を見て衝撃を受けたことを、今もはっきり覚えています。全てが『不耕起栽培』だったのです。畑を耕さず、前年の作物の残渣が残る畑に直接、種播していました。それでも作物は力強く育っていました。この『耕さない農業』の合理性を日本でも応用できないかと、ずっと考えていました」
不耕起栽培の核心は、自然の力を最大限に利用することにあると言う。大豆が生育している間に小麦を播くと、その後、自然と大豆の葉が落ちる。この葉が小麦種子への覆土の代わりになる。「これを生かすことで、大豆収穫後の耕うんや整地といった時間とコストがかかる作業を省略できるのではないか、と考えた。これが取り組みのスタートでした」

同社では現在、1年目「大豆」⇒2年目「大豆」「小麦」⇒3年目「蕎麦」と、「3年4作」体系とした。これが1,000haを越える広大な農地を安定的に経営するための最適解なのだろう。清水さんによると、成功の鍵は、先に記した大豆の落ち葉による自然の覆土と、立毛間播種を広大な面積で適用するテクノロジーの融合にあった。

大豆2年目の圃場では、5月に大豆の播種が行われる。150馬力を超える大型トラクターが走り回る。その後部には国内で唯一と思われる12条の真空播種機が搭載されており、大豆の種子が播かれる。大豆の播種が精密に行われることが、後の畝間の小麦播種を可能にする。

8月には大豆が青々と茂っている。この畝間に、どうやって小麦を播種するのだろう。

9月中旬、大豆の畝間をトラクターが走り小麦を播種する。大豆の播種が一直線で行われるため、小麦播種時に大豆を傷めることなく走ることができる。後部には播種機が搭載されており、この播種も精密に行われる。
「自然の覆土」は、コロンブスの卵的な発想だ。播種したら覆土する。それが農業の常識だ。ところが同社はその常識に従わず、自然の摂理に任せることで、重労働である耕うん・整地作業の省略を可能にした。もちろん常に不耕起栽培ではなく、必要なタイミングで耕起・整地を実施している。
「覆土の作業は、最も大切な大豆の収穫作業と時期が被るから、作業分散の効果もあるのです」
広大な農地での畝間播種を成立させるのが、最新テクノロジーと農業機械の力だ。トラクターとブロードキャスターはGPSと連動している。
「昔は動散を背負って、数人で列を作って人の手で撒いていたんです。今では考えられない重労働ですし、今の規模では絶対に不可能です。何しろ180haですから。これが大きかった」

こうして適期である9月に播種されることで、小麦は大豆収穫期になると、ある程度の大きさに成長している。大豆収穫中の圃場に見える緑色の部分が小麦である。

大豆の畝間に播種された小麦は、翌年7月に収穫される。見事に実っている!
立毛間播種にもデメリットはあるが、それを上回る圧倒的な経営メリット
もちろん立毛間播種は万能ではない。播種量が通常の1.2~1.5倍になること、小麦播種時にトラクターが走行するタイヤ跡の影響により大豆の収量が1割程度落ちてしまうこと、そして播種後の降雨に小麦の発芽が左右される自然条件のリスクが残る、と清水さんは説明してくれた。
「それらのデメリットを差し引いても、得られるメリットの方が圧倒的に大きいのです。まず、小麦の収量が確実に向上します。理想的な時期に播種できる効果は絶大なのです。そして何より、大豆収穫後の耕うん・整地作業が完全にゼロになる。燃料費、機械の負担、人件費。農業経営を圧迫するこれらのコストを大幅に削減できるインパクトは計り知れません。3年4作が実現しますから、3年間で1作多く収穫できる。これは、そのまま収入増に直結します」
やや余談になるが、最後に同社の凄みを伝える話をしておこう。清水さんは立毛間播種の裏にある考え方として、「雑草の輪作」という視点についても教えてくれた。
「立毛間播種を導入することで、作物のローテーションは複雑になります。これを単に作物を回すだけではなく、『雑草をコントロールするための輪作』だとも考えています。例えば、大豆の畑ではイネ科の雑草を徹底的に叩き、次にイネ科の小麦を作付けする際には広葉の雑草を抑える。そしてローテーションのどこかに水田を入れることで、畑の雑草の種をリセットする。作物ごとに使う除草剤の系統が違うことを利用して、特定の雑草だけが蔓延するのを防ぐことができるのです」
目先の雑草を農薬で叩く、という対症療法的な発想からの転換だ。雑草管理を長期的な視点でデザインし直し、作業効率と持続可能性を高める。条件に恵まれない土地を次々と引き受け、立毛間播種を駆使してブロックローテーションしてきたからこそ辿り着いた、開拓者ならではの経営哲学だ。
立毛間播種は農地利用効率を高める。北東北のスタンダードになり得るのか

これほど合理的な技術が、なぜ他の地域に普及していないのだろうか。清水さんには、当たり前だろ、と言わんばかりに即答した。
「立毛間播種は寒冷地だからこそ絶大なメリットがある技術です。宮城県以南の地域では、11月に播種しても十分に収量を確保できる。だから、あえて立毛間播種を導入する必要性がないのです」
それでも、岩手より北の地域、例えば青森や秋田、北海道といった我々と同じかそれ以上に厳しい気候の地域では、立毛間播種は大きな武器になるはずと、言葉を続ける。「作物も小麦に限る必要はありません。当社でも今は緑肥を組み合わせた体系も組んでいますし、ご自身の地域の特産品などと組み合わせることで、自分流の立毛間播種を構築できるはずです。北国の農業の可能性を広げる十分なポテンシャルがある技術だと確信しています」
狭い農地と厳しい気候、人手の流出。そうした逆境を、知恵と最新技術、それに不屈の開拓者精神で乗り越えてきたのが、西部開発農産だ。考えてみれば、狭い農地と地域からの人材流出は、日本農業が抱えている共通の悩みそのもの。同社が磨き上げた立毛間播種は、少ない人手でも農地利用効率を高めることで、収入増を実現する。これは日本農業が抱える課題に対する、一つの現実的な解である。
取材協力・画像提供:西部開発農産
参考:農研機構東北農業研究センター







![[ユーザーインタビュー]市況を多角的に読み解き、最適な値づけと栽培戦略を実現!【青果市況情報アプリ「YAOYASAN」】 [ユーザーインタビュー]市況を多角的に読み解き、最適な値づけと栽培戦略を実現!【青果市況情報アプリ「YAOYASAN」】](https://agri.mynavi.jp/wp-content/uploads/2026/03/e833f36c961c1152af5cd17bfe657647-200x150.jpg)








