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コメの生産コスト削減は「農地の集積・集約が最も効果的」。輸出戦略の根幹を支えるのは

kumano_takafumi

ライター:

コメの生産コスト削減は「農地の集積・集約が最も効果的」。輸出戦略の根幹を支えるのは

新潟市の農業生産法人「木津みずほ生産組合」は、台湾をはじめとするコメの輸出で確かな実績を上げている。昨今の米価高騰という逆風のなかでも、「5年先、10年先を見据える」と、値上げ幅を最小限に止めて輸出事業を継続。その競争力を根底で支えているのが、「農地の集積・集約」による徹底した生産コスト削減だ。

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富裕層ターゲットに、先駆け的に輸出を推進

スクケ郛フソソナト、ワA

木津みずほ生産組合は、地域のコメ農家8軒が集まって1986年に設立された農業生産法人であり、早くからコメの輸出に取り組んできた。

新潟県農業法人協会の会長も務める理事の坪谷利之(つぼたに・としゆき)さん(67)は、輸出に取り組む理由について「米価の安定と販路拡大を両立させることが理想」と語る。ただ、ここ数年は国内のコメ価格高騰の影響で、輸出相手国との交渉には大変苦労した。海外バイヤーに価格を提示し、なぜこれほど高騰しているのかを説明したものの、「よく日本では暴動が起きませんね」と、皮肉とも取れる不満を漏らされることもあった。
それでも輸出を継続できたのは、現地の富裕層をターゲットに据え、高品質で良食味な「新潟米」をアピールし続けた結果である。現在では海外の量販店のみならず、世界的に著名なレストランにコメを納入するまでに成長した。
輸出事業をさらに軌道に乗せるために最大の課題となっているのが「生産コストの削減」だ。、それを実現するカギについて坪谷さんは「農地の集積・集約にある」と断言する。農地を集約してコンバインなどの移動距離を短縮し、燃料代を減らして作業効率を上げることが、コスト削減に最も効果的だからだ。中東情勢の不安定化などで原油価格が上昇している昨今、その重要性はますます増している。

「農地の集積・集約が生産コスト削減のカギ」と話す坪谷さん

組合設立時から見据える「農地・集約」と作業効率化

木津みずほ生産組合が誕生した背景には、地区の生産農家が個別に農機具を所有するのではなく、集団化によって台数を減らし、効率的に農作業を行う狙いがあった。当時は国による生産調整(減反)が行われていたが、組合を立ち上げた坪谷さんの父は「いずれ自由にコメが作れる時代が来る」と予想していたという。その予想通り、減反は選択制へと変わり、組合の耕作面積も設立当初の18haから61haへと急増した。
現在の作付面積は、加工用もち米が4ha、輸出用米が12haで、それ以外はすべて主食用米となっている。栽培方法の特徴としては、高密度で育苗する密苗を導入しており、育苗箱を1反あたり12箱に減らしているほか、一部で湛水直播も行っている。ただし、直播は収量が安定しないため6〜7haに抑え、残りの面積はすべて1台の田植え機で移植をこなしている。
品種によって移植時期をずらす工夫もしており、5月1日から25日ごろにかけて「ヒメノモチ」「こがねもち」「コシヒカリ」「こしいぶき」「ヒノヒカリ」の順で作付けを行っている。

国の支援策を活用し、険しい地権者説得を乗り越える

こうした作業工程をスムーズに進めるには、基盤となる農地の集積・集約が欠かせない。坪谷さんは、2015年当時と現在とで、同地区の農地区画や組合が耕作する農地がどう変遷したかが一目でわかる2枚の地図を見せてくれた。それらを比べると、合筆によって1区画の田んぼが大きくなり、かつ農地がまとまって配置されていることが明確にわかる。

集積後の農地の地図

しかし、そこに至るまで地権者を納得させる道のりは険しかった。坪谷さんは地権者を説得するため、自ら農林水産省へ出向いて農地集約化の支援策などを学んだ。その中の一つに「経営転換協力金」があった。これは農地中間管理機構(農地バンク)に農地を貸し付けると、面積に応じて協力金が支給される制度だ。地権者の中には「いったん農地バンクに預けたら、もう農業をやめるしかなくなるのでは」と不安を抱く人もいたが、坪谷さんは、働けるうちは耕作を続けられる仕組みを丁寧に説明し、集約を進めていった。

集積前の農地の地図

データが証明する「移動距離の短縮」こそ最大のコストダウン

坪谷さんがそこまで農地集約にこだわるのは、「生産コストを下げるには、農地の集積・集約が最も効果的」という確信があるためだ。その根拠として、組合のコンバインの稼働データを見せてくれた。
1年間のコンバイン稼働時間は175時間、消費する燃料は1,160リットルで、1時間あたり約10リットルを費やす計算だ。年間の走行距離は331kmに及ぶが、そのうち実際に脱穀しながら走行している距離は190km。その差である約140kmは、単なる「圃場間の移動」に費やされているのである。
コストを削減するには、この移動距離を減らすしかない。田植え機でも同様だ。移動距離の短縮が最も効果的なコスト削減策として、農地の集積・集約は必須条件なのだ。移動を減らせば燃料の節約になるだけでなく、コンバインが舗装道路を走ることでクローラーを傷めるリスクも軽減できる。坪谷さんは「現在の耕作面積は60ha余りだが、農地がさらに集約できれば、今ある機械のままでも80haから90haは耕作可能」と胸を張る。

農地の集約・集積は生産性の向上だけでなく、事業外収入を生むメリットもある。「農地耕作条件改善事業」を活用し、1区画の面積を20aに拡大すると、20万円の補助金が支給される。同組合では毎年3haずつの区画拡大を行っており、150万〜160万円の事業外収入を得ている。
坪谷さんによれば、1区画の理想的な面積は「60aから80a」だという。これは現在使用している6条刈りコンバインの籾タンクがちょうど満タンになる面積だからだ。20aの区画だと13分で刈り取れるが、次の圃場への移動に10分もかかってしまう。そのため、「60a」「60a」「80a」といった大区画の圃場を整備してきた。

なお、坪谷さんは日本農業法人協会の「土地利用型農業経営研究会」の会長も務めており、現場での議論を通じてコメ政策に関する意見をまとめ、国への提言も行っている。

5年先、10年先を見据えた揺るぎない輸出戦略

コスト削減に心血を注ぐ一方、前述の通り同組合では先駆け的にコメ輸出に取り組んでおり、いち早く台湾向けの輸出も実現させている。「令和の米騒動」が起きるまでは、輸出価格が1俵あたり1万1,000円(新潟港渡し価格)、それに国の助成金4,000円が加わり、生産者の手取りは約1万5,000円となっていた。
昨今の国内米価高騰を受けて輸出価格も値上げせざるを得なくなったが、値上げ幅は最小限にとどめたという。「価格が下がった時に『また輸出を再開してください』と頼んでも相手にされない。我々は5年先、10年先を睨んで輸出に取り組んでいる」と坪谷さんは語る。

台湾で販売されている自社の精米

台湾での店頭価格は2026年4月現在、2kgで580元。日本円に換算すると約2,893円とかなり高額だが、それでも現地のスーパー向けに20t、レストラン向けに60tの輸出契約を結んだ。これに加え、世界各国に展開する著名な日本食レストランにも350tを輸出している。価格が高くても、食味と品質が担保された日本のコメは富裕層の確かなニーズを掴んでおり、同組合の挑戦はその確固たる証明となっている。

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