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「勘と経験に頼る農業ではいけない」。創業12年で150ha管理の根幹にある、金融仕込みの“数値化・書面化”と省力化への貪欲さ

「勘と経験に頼る農業ではいけない」。創業12年で150ha管理の根幹にある、金融仕込みの“数値化・書面化”と省力化への貪欲さ

農業経営において「規模拡大」は常に理想として語られるが、同時に「労働集約的な働き方」という壁が立ちはだかるのも常だ。特に地方部における高齢化と担い手不足は深刻で、スポットでの労働力を確保することさえ容易ではない。
この難題に対して「企業的農業」の最適解を模索してきたのが、青森県十和田市に拠点を置くT-Agri Group だ。代表の竹ケ原直大さんが2013年に法人化した同グループの「十和田アグリ株式会社」は、わずか12年で耕地面積を18haから約150haへと飛躍的に拡大。青森県稲作の最高権威賞にも輝くなど、先進的な取り組みが光る。その背景には、伝統的な「農家の勘」を徹底的に排除した、金融仕込みの管理術と省力化への執念があった。

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数値化・書面化で“勘に頼る農業”から脱却

八甲田連峰や十和田湖など豊かな自然に恵まれた青森県十和田市。この地で、水稲を中心に大規模な耕作を行うのが十和田アグリだ。主食用米の「まっしぐら」86haのほか、大豆19ha、小麦22ha、牧草22haの計約150haにも及ぶ広大な農地を、正社員13人と期間従業員10~15人で管理している。

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従業員は10~40代で構成されており、平均年齢は32歳。最年長者は46歳の竹ケ原さんだというから驚きだ。これだけの若い組織であるにも関わらず、コメの食味などを競う県主催のコンテストではグランプリ受賞経験を持ち、コメの平均反収も地域平均を大きく引き離す11~12俵を維持している。

その理由は同社の事務所にあった。十和田アグリの現場に入ってまず驚いたのは、創業当時からの栽培に関するあらゆるデータやノウハウが記録・保存されている点だ。「何を、何グラム撒くか」「何センチの深さで作業するか」。これらが数値化・書面化されており、播種や育苗作業に際して、従業員がいつでも確認することができる。農業現場に根強く残ってきた「背中を見て覚えろ」といった徒弟制度的な風土はここにはない。

「従来の“勘に頼る農業”では、人が多くなればなるほど作業や品質にブレが生じてしまう。それでも、この“勘”にもきっと、何かしらの根拠があるのだろうと考えていました。それらをできる限り数値化し、目に見える形にしていこうと、創業当時から記録保存してきました」

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こうした取り組みは、確かな作業効率と品質の再現性を生みだしたと竹ケ原さんは言う。
「作業基準が明確であるため、高校を卒業したばかりの若手社員であっても、短期間で作業の要領を掴み、即戦力として現場に立つことができます」。勘や技術の属人化を防ぐことも、組織をスケールさせるための重要な要素なのだろう。

地域農業の行く末に危機感。「個人の形態では担い手になりえない」

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同社のルーツは、竹ケ原さんの父が創業した飼料用稲わら・乾牧草の生産販売を行う「竹ケ原農産」にある。地域農業を支える“縁の下の力持ち”として長年頼られてきた家業だったが、竹ケ原さんが就農を決断したのは意外にも、大学卒業から約11年後のことだった。

地元の信用金庫で勤務していた竹ケ原さんが就農を強く意識したのは、地域の農地が急速に荒廃していく現実を目の当たりにしたからだ。
「個人農家の形態では“担い手”にはなりえない。企業的な仕組みを取り入れ、持続可能な農業と経営を実現しなければならないと感じました」。こう確信した竹ケ原さんは2013年に家業を継承し、十和田アグリを設立。当初は18haでコメ単作からのスタートだった。

規模拡大の光と影

法人化当初から、竹ケ原さんは明確に「規模拡大」を見据えてきた。高齢化により離農する近隣農家らから積極的に農地を引き受けることで、栽培面積は約12年で9倍近くにまで拡大している。
しかし、面積の拡大は「労働負荷の増大」という課題も突きつけた。
「年を追うごとに作業面積が増え、現場の疲労は限界に達していました。従来のやり方では計画通りに作業を終えることが物理的に難しく、自分が60代になった時、とてもじゃないがやりきれないと痛感したのです」

重労働からの解放をもたらした「密苗」

このジレンマに対し、同社が講じてきた手立ては大きく2つある。一つは、東北地方で先駆け的に導入した「密苗(高密度播種苗)」である。
竹ケ原さんは法人化した当初から規模拡大を視野に入れ、あらゆる省力技術を検討してきた。直近では約5年間にわたって、鉄コーティングした種の湛水直播に取り組んできたが、寒冷地特有の冷風「やませ」によって積算温度を確保できず、望んだ品質・収量を確保することができなかったという。

しかし、ここで得た教訓やデータは、その後に導入した密苗において遺憾なく発揮されている。メーカーからの提案を受け、2016年に30aの規模で実験的に密苗を始めた竹ケ原さん。3年目の2018年には大胆にも、当時の全面積(約40ha)を密苗に切り替えた。

密苗のメリットについて竹ケ原さんは「育苗関連資材の費用削減効果もある」と前置きしつつ、一番の成果は省力化によって「従業員の肉体的負荷が激減したこと」と強調する。
「従来の慣行栽培では育苗期間に約40日間ほど要していましたが、密苗によってこれが14日間に半減しました。育苗箱も本来は2.5万箱必要なところ、7000箱で済む 。体感的には、従来の10分の1程度まで重労働が軽減された印象です」

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育苗ハウスの面積も従来の約3分の1で済む

密苗の弱点を払拭した「徹底した管理」と「土づくり」

一般的に密苗は植え付け初期の苗が小さく、雑草に負けやすいことから「収量が落ちる」という先入観も一部である。しかし、同社が維持する反収11〜12俵という数字はそれとは対照的に、地域の平均である9.5俵を大きく突き放している。その理由は「徹底した管理」と「土づくり」にあった。

「例えば、田植え後は1日3回の天気予報分析をルーティン化しており、寒さが予測されれば水を深くして苗の温度を維持する。逆に成長を促したい時期には水を浅くするようにしています」
先代から行ってきた耕畜連携も、良質なコメ作りの根幹を支えている。「稲わらを地域の畜産農家さんに提供し、いただいた有機物(牛ふん)を投入することが、土づくりにおいてものすごく大きな部分だと思っています」。JAとも連携し、毎年試験データに基づいて肥料の改良を重ねるなど、泥臭い努力と試行錯誤で収量の安定を図っている。

成長を支える「先行投資」の哲学

もう一つが、機械化を含めた労働環境の整備だ。
同社の事務所近くには、国内では稀有な米国製の巨大トラクターのほか、自動操舵トラクターやGPS直進アシスト田植機、農薬散布用のドローンなど最新鋭の農機がずらりと並ぶ。

ドローンで農薬を散布する従業員

農業にかかわらず、経営者の多くは粗利を最大化すべく、コスト削減を優先し、ギリギリの人員と機材で現場を回そうとする。しかし、それは往々にして現場の疲弊と離職を招き、組織の崩壊を招くことにもつながる。
竹ケ原さんの経営判断は逆だ。さらなる規模拡大を見据え、あえて人員と機械に「余裕」を持たせる先行投資を厭わない。精神的・肉体的な負荷を軽減し、適期に確実な作業を遂行できる環境こそが、結果としてコメの品質を担保しつつ、組織の質を底上げすると考えているからだ。

作業負荷を栽培技術と機械化で緩和し、若い人材が遺憾なく能力を発揮できる環境があるからこそ、耕地面積を拡大しても品質や収量を維持できるのだろう。

地域を守る砦として持続可能な農業を実践

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現在の管理面積は計約150haにも上る同社だが、竹ケ原さんの視線はさらにその先を見据えている。周囲からの要請がある限りは、今後もさらに農地を引き受けていく覚悟だ。農地の受け皿として、持続可能な農業を形にするために、スマート農機を駆使して効率化を図っていく。

積極的なスマート農機への設備投資は、若い人材の獲得という側面もあると竹ケ原さんは言う。「最近では農業高校を卒業したばかりの若手が、農業機械を使った作業の様子をInstagramで見て入社してくれました」。若者に少しでも農業に興味を持ってほしい、との一心で始めた情報発信が実を結んだ瞬間だ。

「農業は苦労するもの」「技術は背中を見て覚える」というかつての常識を、仕組みとテクノロジーで「企業的農業」の武器に昇華していく竹ケ原さんの歩みは、日本の農業が生き残っていくための一つのモデルケースと言えるだろう。

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