江戸時代から続く農家の7代目。メロンから米へ大きく転換

比良山系の麓に広がる辻󠄀さんの圃場

辻󠄀さんが家業を継いだのは20歳のとき。いずれは実家を継ぐつもりで、東京農業大学の農場で1年間研修したのち、埼玉の種苗会社に就職した矢先、父親が50歳で急逝。そのまま地元に戻り、就農の道を歩み始めました。
当初はハウス栽培のメロンがメインで、並行して田んぼは2ヘクタールほどだったと言います。しかし、人手のかかる施設栽培よりも、機械で対応できる土地利用型の米、麦、大豆へと軸足を移したいと思っていた辻󠄀さん。その願いが図らずも叶うきっかけとなったのは、台風の襲来でした。

これを機に、土地利用型農業に専念。さらに地域の高齢化が進むなか、リタイアする農家から、自分たちの農地を任せたいと言われ、現在は43ヘクタールの農地で、米を25ヘクタール、残りは麦と大豆を栽培しています。
適期を示すアプリで判断精度を上げる

主に中干しや追肥のタイミングを「稲作先生」に相談しているという辻󠄀さん
―上手にお米を作る秘訣は?
と聞いてみると、辻󠄀さんの答えは明快でした。

就農したばかりの時に、辻󠄀さんは近所の高齢の農家から「お前は米が言うことがわかるけ?」と問われたことがあるといいます。当時は「米が喋るわけがない」と思っていたのですが、長い年月を経て、ようやく腑に落ちてきたと辻󠄀さんは振り返ります。いち早く異変を見つけ、適期に手を打つ。「ある意味、ドクターのような役割ですね」と笑います。
そんな辻󠄀さんが、作業時期の判断の支えとして活用しているのが、住友化学の水稲生育診断アプリ『稲作先生』です。圃場、品種、植え付け時期から気象データを活用して、中干し適期・幼穂形成期・出穂期・成熟期を予測してくれます。中干し・追肥・防除・収穫という4つの重要な作業を最適な時期に行えます。
スマートフォンに自分の田んぼの情報を入力することで、イネの生育を予測し、今何をするべきかがわかる仕組みです。2026年5月には、アプリ利用者が田んぼの畔から撮影した画像を元に予測する“中干し診断”の機能が追加され、実際のイネの生育の良し悪しで中干し適期が判断できるようになりました。
※中干し診断はつなあぐ会員限定機能ですので、会員登録(無料)をしてお使いください。

稲作先生のアプリ画面。農作業しながらでも簡単に入力できるようにシンプルな仕組みにこだわった。
2024年7月の公開以来、着実に利用者を増やし、インストール数は6000ほどに。広告記事の掲載に加え、現場を回る中で直接紹介するといった地道な活動を通じて広がってきたところに、開発者と農家との距離の近さが感じられます。
「忙しい中で使っていただくので、正確さとレスポンスの速さのバランスを今も探っています」と前田さん。
辻󠄀さんは、この「稲作先生」を主に中干しや追肥のタイミング判断に活用しています。米、麦、大豆と複数の作業が重なる中で、どの作業を優先するかを決める材料になっていると言います。

あくまでも主役は辻󠄀さん自身の経験です。前田さんも、辻󠄀さんの経験に基づいた作業の進め方を尊重することを前提に、アプリはあくまでもサポート役として勧めています。

住友化学の前田道弘さんからアプリの使い方の指導を受ける

8代目へ託す未来

レイクスファームのロゴは、「匠」をもじったもの。空と琵琶湖を表す青と稲の緑がポイント
2027年4月には、辻󠄀さんの息子さんが8代目として家業に加わることが決まっています。現在、宮城県で2年間の修行中で、この間に辻󠄀さんは、新たな技術や栽培品目の導入に積極的に取り組んでいます。
その一つが、「乾田直播栽培」への取り組みです。これは水を張っていない乾いた状態で田んぼを平らに整えてから、苗ではなく種を直接播く方法です。この方法では、これまで5月の連休に集中していた移植作業を前倒しできる利点があります。

乾田直播栽培の田んぼ。稲と稲の間隔が狭く機械での作業効率も良い

収量に関しても、「にじのきらめき」の品種の場合、従来の移植栽培が11.3俵に対し、乾田直播栽培でも11.2俵とほぼ同等。しかも経費が下がると言います。経費を抑えながらも収量を維持できる結果に、辻󠄀さんは確かな手応えを感じています。
もう一つは、飼料用の子実コーンの栽培を2025年から始めています。昨今何かと話題にのぼる米価の動向に左右されない経営の柱を準備するためです。子実コーンは作業時間が短く、高齢化による農地の急拡大にも対応しやすいのが最大の魅力です。

飼料用の子実コーンの栽培

ただ、辻󠄀さんが目指すのは、メガファームではなく、自分の目が行き届くミドルクラス。圃場で90〜100%のパフォーマンスを出せる、手入れの行き届いた作物を作ることを望んでいます。「肥料も燃料も高騰し続けるからこそ、無駄が出ないように効率よくやっていきたい」と辻󠄀さん。
決して時代の“はやり”に流されることのない辻󠄀さん。追肥や防除にドローンを活用していますが、「みんなが使っているから」ではなく、「これをやりたいから、ドローンが必要」という考えで導入しています。

観察という農作業の原点と、データが導く科学の眼。この二つが重なり合う野洲の田んぼは、これからの米づくりの一つの理想形なのかもしれません。日に焼けた顔をクシャッとさせて笑う辻󠄀さんから、米づくりへの愛情の深さが伝わってきました。
取材協力:株式会社レイクスファーム、レーク滋賀農業協同組合、株式会社高岡屋、住友化学株式会社
記事内で紹介していた稲作先生についてはこちら
















