ジャンルの垣根を越えたトップシェフの共演
イベントを主催する「Chefs for the Blue」は、フードジャーナリストと東京のトップシェフによって2017年に立ち上がった料理人チーム。2021年9月には京都チームも発足し、 NGOや研究者、サステナブルシーフードを専門とするコンサルティングファーム、政府機関などと連携し、持続可能な海を目指した自治体・企業との協働プロジェクトやフードイベントなどの活動を行っている。
この日のイベントには延べ約400人が参加。ランチやディナーでは、約30人のシェフたちがジャンルの垣根を越え、この日のために特別に考案した渾身の「サステナブルな魚介料理」を提供した。
海の課題と未来を語り尽くす濃厚なトークイベント
同日、ひときわ会場の熱気をさらったのが、シェフや生産者らによるトークセッションである。3部構成で、海産資源の危機や課題を共有するとともに、今後の挑戦や展望について力強く語られるなど、濃厚なトークが展開された。
サステナブルシーフードの歩みとこれから
最初のセッションでは、フレンチ・鮨・イタリアンという異なる領域から日本の食を支える3人のトップシェフが登壇した。社会に新しいコンセプトを提案するべく活動を続けてきた3人。社会起業家の山崎大祐さんをゲストに招いて、海のリアルな現状と、今後の挑戦についてディスカッションが行われた。
| ▼登壇者
石井真介さん(シンシア) 杉田孝明さん(日本橋蛎殻町 すぎた) 坂本健さん(チェンチ)
▼ゲスト 山崎大祐さん(株式会社マザーハウス 代表取締役副社長) |
3人のシェフは、活動の背景にある問題意識や料理人としての葛藤と使命感について赤裸々に語った。食の枠組みを超えたビジネス・社会活動としての持続可能性について、深い洞察が交わされた。

山崎さん(右上)、石井さん(右下)、杉田さん(左上)、坂本さん(左下)
山崎さんは「同じ問題意識を持って作り手が横で繋がるのは、お互いのプライドもあるため、実は非常に難しいこと」と、ジャンルを超えたシェフたちの連携について感嘆。
「Chefs for the Blue」の立ち上げ当初から活動に尽力してきた石井さんは、自身が店をオープンした約10年前と比較し、かつて当たり前のように使えていた魚介類の多くが、現在では仕入れ困難になっている現実に言及。「水産資源の減少を日々肌で感じながらも、その深刻な事態を詳しく知らず、料理人として海の環境に対してこれまで何も行動を起こしてこなかったことに強い危機感と恥ずかしさを覚えた。これこそ、現在の活動に身を投じる原点」と振り返る。
坂本さんは「サステナブルやリジェネラティブという概念は、単に環境のためという大義名分や義務感で行うべきものではない」とした上で、顧客に食材の背景にあるストーリーを伝え、その価値をシェアしていくことの重要性を説く。「これにより、レストランでの『美味しい』『楽しい』という体験が、本当の意味でより豊かで価値あるものになる 」と話した。
杉田さんは「次の世代や日本の水産業界に少しでも役に立てることがあれば、恩返しの意味も込めてこの活動に参加したいと思った。師匠の言葉を受け継ぎ、自分たちの技術や立場を通じて社会に還元していく責任がある」と思いをにじませた。
シェフと生産者によるクロストーク。水産現場のリアル
2つ目のセッションでは、海や川といった現場で奮闘する生産者と、その食材の魅力を料理で表現するシェフによるクロストークが繰り広げられた。両者の言葉からは、海産資源を取り巻く現状と、食文化の危機が浮き彫りになった。登壇者は以下の通り。
○ 林亮平さん(てのしま)
○ 光畑隆治さん(魚春)
○ 堀内さやかさん(御料理 ほりうち)
○ 桑原正樹さん(宍道湖漁業協同組合)
○ 梅原陣之輔さん(八雲茶寮)
○ 山西秀明さん(ヒロメラボ)
海藻(藻場)の減少と和食の危機
和歌山県で海藻の養殖などに取り組む山西さんは、海の生態系を支える「藻場」が全国的に減少している現状を説明。瀬戸内海で過去50年で藻場が半分以下に減少したデータを紹介し、黒潮の大蛇行や海水温の上昇など複数の要因が絡み合っているとした。
てのしまの林さんも「和食の出汁に欠かせない真昆布の天然物は、現在ほぼゼロに近い状態まで激減している」と同調。「和食の根幹が失われつつあるこの事実すら、世間に広く知られていない」と、危機感をあらわにした。
瀬戸内海の魚種激減と未利用魚の活用

左から林さん、光畑さん、堀内さん
倉敷市の老舗鮮魚店の5代目である光畑さんは、「魚の総量以上に、小魚や貝、カニ、エビといった魚種の減少を肌で感じている」と語る。前出の林さんも10年前の開店当初に使えていた魚が仕入れられなくなっていると応じ、瀬戸内海の資源減少を示すデータを紹介した。そこには、イカナゴはかつての4%に減少しているほか、タイラガイは10年で2%に激減、イイダコに至っては20年で1%まで激減しているという衝撃的な数値が並んでいた。
「原因は温暖化だけでなく、1980年代からの過剰漁獲や護岸工事など、複合的な要因がある。誰が悪いということではなく、このままでは資源が消滅するという事実を認識しなければならない」(林さん)
宍道湖における50年の資源管理と「しじみ」の再定義
島根県・宍道湖のしじみ漁について、桑原さんは昭和48年(1973年)から自主的に漁獲制限を行ってきた歴史を説明。当時は1日500kgだった漁獲枠を現在は90kgまで引き下げることで、安定した資源を維持しているという。漁師たちが資金を出し合って警察OBによる密漁取り締まりを実施しているほか、「連帯責任」を課すことで厳格にルールを遵守させている。
この取り組みを受け、堀内さんは「これほど真摯に守られているしじみが、十分に消費されていない現状が悔しい」と吐露。堀内さんと桑原さんは1年を通したしじみの食べ比べを行い、宍道湖の海底環境(砂地や泥地、東西南北のエリア差)による味の違いを調査している。最も美味しい時期や個性の違いを検証することで、宍道湖のしじみの本質的な価値を消費者に届けていく決意を語った。

左から桑原さん、山西さん、梅原さん
悲願のオリジナル商品「BLUE DELI」をお披露目

最後のセッションでは、家庭で気軽にサステナブルシーフードを味わえる、「Chefs for the Blue」初のオリジナルレトルト商品「BLUE DELI(ブルーデリ)」の第1弾として、「マグロのテール煮」をお披露目した。
食材には、「海の未来」のシンボルである「大西洋クロマグロ」の、市場で余りがちな部位である「尾の身」を使用。ラインナップは中華、フレンチ、和食の3種類。
中華を担当した慈華の田村亮介さんは、2種の唐辛子や山椒などのスパイスを重ねて、まぐろ本来の食感と旨味をダイレクトに生かした工夫を説明。フレンチを担当したNO CODEの米澤文雄さんは「加工の段階で、どうしてもハーブやスパイスの香りが飛んでしまったり、逆に香りが変質して食べるラー油のようになってしまうこともあった」と開発時の苦労を打ち明ける。和食を担当した恵比寿 えんどうの遠藤記史さんは、「完璧な味を提供するのではなく、家庭でワサビや生姜などの薬味を合わせて自分好みに仕上げる『余白』を残した。これこそが、家庭で料理を主体的に楽しんでもらうという、活動の根底にある思いとリンクしている」と開発意図を語った。

左から遠藤さん、米澤さん、田村さん
数々の障壁を乗り越えて商品化された「ブルーデリ」。田村シェフは「この商品を通じて、背景にある海のストーリーや低利用部位を活用する意義を知ってもらい、少しでも多くの方にサステナブルな選択肢を身近に感じてほしい」と話した。
「ブルーデリ」は、公式サイトにて購入できる。
まとめ
「ブルーフェス2026」は、日本のトップシェフたちが「料理の力」で海の危機を訴え、消費者へと未来の選択肢を提示するきわめて意義深い試みとなった。
「Chefs for the Blue」は、今後もオリジナル商品の開発を積極的に行っていくとしている。トークイベントの最後には、参加した約30人のシェフがステージへと集合。圧巻のフォトセッションを実施して、盛況のうちに幕を閉じた。















