公式SNS

マイナビ農業TOP > 農業経営 > 新規就農わずか3年で売上は右肩上がり。リピーター9割を実現する、パズルのような計画栽培

新規就農わずか3年で売上は右肩上がり。リピーター9割を実現する、パズルのような計画栽培

湯川真理子

ライター:

新規就農わずか3年で売上は右肩上がり。リピーター9割を実現する、パズルのような計画栽培

大阪の南東部に位置する大阪府富田林(とんだばやし)市。大阪市内までは電車で約30分の距離にありながら、古くからの農業者も多い地域である。ここで2019年に新規就農し、わずか3年で経営を軌道に乗せたのが「笑ノ百姓(えみのひゃくしょう)」の中塚和典(なかつか・かずのり)さんと菜津美(なつみ)さん夫妻だ。
露地栽培で年間約150種類の野菜を育て、年間を通じて野菜を切らさない。収穫期を綿密に計算し、露地栽培でありがちな「端境(はざかい)期」を作らない栽培を実践している。代表の中塚和典さんに話を伺った。

twitter twitter twitter twitter
URLをコピー

売上は毎年右肩上がり。普通のことはしないから生き残れる

畑の前の直売所にはその日に収穫された野菜が並ぶ

2026年6月初旬、この時期限定のトウモロコシの収穫が始まった。笑ノ百姓の畑の前にある直売所の人気商品だ。販売初日には15分ほどで完売し、追加収穫したトウモロコシも直売所に並ぶや否や完売した。2019年に4反からスタートした農地は2026年には50反に増え、作業メンバーは中塚夫妻の他に、5名のスタッフがいる。

とれたての野菜を直接お客さんに届ける直接販売を徹底し、畑には常に10種類以上の野菜がある。宅配で届けられる野菜セットは、笑ノ百姓の野菜だけだ。お客さんの9割がリピーターで、そのお客さんたちの口コミで新規のお客さんが増え続けている。一軒の農家だけで、通年野菜を切らさずにセットで宅配し続けることは、極めて緻密な計画性がなければ実現できない。

店頭に並んだ途端、すぐになくなってしまうトウモロコシ


和典さんの前職は栄養士である。約10年間病院に勤務し、調理の仕事を経て新規就農した。農家を目指したきっかけは、家庭菜園で育てた小松菜が驚くほど美味しかったことだった。「自分で野菜を育ててお客さんを笑顔にしたい」という思いが原点にある。

農業への転身を申し出た和典さんに対し、妻の菜津美さんも快諾。和典さんは大阪府とJA大阪中央会が主催する新規就農サポート事業「新規就農『はじめの一歩』村」(現・「富田林市きらめき農業塾」)の研修生として1年間、農業の勉強を重ねた。同塾は土日や休日を利用して通うことができたため、仕事を続けながら学ぶことができたという。塾で指導してくれた農家の紹介で4反の農地を借りることができ、2019年4月に病院を退職、翌5月から本格的に農業をスタートさせた。

屋号を「笑ノ百姓」とした背景には、和典さんの強い決意が込められている。
「農家は百の仕事ができるすごい技術を持った集団です。屋号を考える際、百姓という文字は使いたかったので、微笑みの『笑み』と合わせて『笑ノ百姓』にしました」

しかし、1年目は出荷した野菜を適正価格で販売できず苦戦を強いられた。
「最初は1反の畑を有効に使う方法が分からず、虫の発生にも悩まされました。近郊の直売所への出荷は価格競争が激しく、野菜が適正価格で評価されません。就農1年目は儲けがほぼありませんでした」
このままでは継続できないと考え、販売方法の転換へと舵を切る。

2年目からは、それまで別の仕事をしていた菜津美さんが加わり、大きな戦力となった。菜津美さんはまずSNSでの発信を始めた。
「日記のように毎日配信していました」と和典さんは振り返る。
栽培した野菜を使った料理の紹介から、旬の野菜の案内、ときには笑顔の和典さんの姿まで、「主人が農家になりました」というストーリーを発信し続けた。
配信を続けるうちに、近隣のカフェから「店の前で販売しないか」と声がかかり、3軒の飲食店で軒先販売が始まった。一度購入したお客さんは着実にリピーターへと育っていった。
「購入してくれたお客さんから『セットにしておいてほしい』という声をいただき、野菜セットの宅配をやってみることにしました」

笑ノ百姓のインスタより ズッキーニにレモン汁をかけたパスタ

端境期をつくらず笑ノ百姓の野菜だけで宅配。パズルのような計画栽培

笑ノ百姓は、栽培期間中に化学肥料や農薬を使用しない露地栽培を行っている。
「野菜宅配を始めたのはコロナ禍の時期で、お客様は順調に増えていきました。しかし、最初に宅配を始めた2020年の秋に端境期が発生し、やむを得ず1か月間、配送を中断することになりました。ありがたいことに、お客様は解約せずに待ってくれましたが、端境期を作らないためにどうすればいいかを徹底的に考え直しました」

和典さんは、野菜を届けられない状況を打破するため、作付け計画に工夫を重ねていった。
「野菜セットを組むために栽培計画を立てています。例えば、6月の第2週に届ける野菜セットの内容をあらかじめ決め、そこから逆算して種を蒔きます。まるでパズルを解くような作業です。最初は計画通りにいかないこともありましたが、今では『うちの畑には常に10品目あります』と自信を持って言えるようになりました」

トウモロコシ畑

届く野菜で旬が分かる 露地栽培オンリーの野菜宅配

「新鮮野菜直行便」は、コロナ禍で需要を伸ばし、状況が落ち着いた現在もお客さんが増え続けている。家にいながら野菜の旬が分かるという、露地栽培ならではの特徴がお客さんを引き付けている。

1月、2月には多彩な冬野菜(キャベツ、ブロッコリー、ニンジン、白菜、大根、カブ、白ネギ、ほうれん草、ロマネスコなど)が届く。定番の野菜の中に、少し珍しい野菜が混ざるのが特徴である。3月には冬の名残と春の始まりを告げる野菜、4月には春野菜が届く。

「お届けする野菜の9割は分かりやすい定番のもので、残りの1割にロマネスコのような変わった野菜を混ぜています。野菜の美味しさは『鮮度・旬・栽培・品種』。あとは作る人ではないかと考えています。収穫したその日のうちにお届けするため鮮度は抜群です。今が一番美味しい状態の野菜だけを詰めています。購入してくださる方は、笑ノ百姓が作っている野菜だから、と選んでくれるケースがほとんどです」

露地栽培だからこそ、自宅に届く野菜で自然と旬を味わうことができる。次はあの野菜が届く季節だと、心待ちにするお客さんも多い。

新鮮野菜直行便の野菜 畑からの直送なので泥付きで届けている

農業を継続していくため「よそとはちょっと違う農家」であり続ける

笑ノ百姓の主な販路は、「新鮮野菜直行便」、定期的に出店するマルシェ、そして畑の前の直売所である。規模は小さいながらも、旬の新鮮な野菜を求めて近隣だけでなく遠方からも客が訪れる。売上の内訳は、直売所が4割、野菜セットの宅配が4割、マルシェが2割だという。

「大阪市などの配達は委託していますが、近郊エリアの配達は私自身で行っています」
直売所を含め、お客さんに直接手渡すスタイルを徹底している。

「SNSの発信は、常にお客様に向けて行っています。だから、農家が辛いとか困っているといったネガティブな発信はしません。常に楽しく農業をする笑ノ百姓でありたいと思っています。『努力とうんちは同じようなもの』という言葉をご存じですか」

そう言って和典さんは笑顔を浮かべた。
アニメ「クレヨンしんちゃん」のキャラクター・野原ひろしの言葉だという。
意味は、「踏ん張ること」「毎日すること」「水に流すこと」、そして「その姿は決して人に見せないこと」である。だからこそ、陰の努力はお客さんに見せたくない、と和典さんは語る。

菜津美さんに促され、収穫したばかりのトウモロコシをその場で生でかじらせてもらった。瑞々しく、まるでメロンのような甘みが口いっぱいに広がった。

取材協力:笑ノ百姓

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE
  • Hatena
  • URLをコピー

関連記事

新着記事

タイアップ企画