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「需要に応じた生産」の理想形。産地を救った「ラーメン専用小麦」という戦略

kawashima_reijiro

ライター:

「需要に応じた生産」の理想形。産地を救った「ラーメン専用小麦」という戦略

農林水産省は水田での「需要に応じた生産」を推奨している。それを県が主導して、JA・製粉会社・小売店にまで一気通貫する仕組みを構築したのが福岡県産小麦「ラー麦」。全国有数のラーメン県である福岡が「ラーメンのために開発した小麦」である。元々、福岡県は米麦二毛作が盛んな土地柄だが、なぜ「ラーメンのための小麦」が産地モデルとして成立したのだろうか。その背景には、品種開発から流通、それを支える生産現場の工夫がある。本稿では福岡県農林水産部の担当者に、その全体像を聞いた。

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「ラーメンのために開発された小麦」という出発点

「ラー麦はラーメンのために開発された小麦です」。取材に対応してくれた福岡県農林水産部水田農業振興課課長技術補佐の高橋忍(たかはし・しのぶ)さんは冒頭、そう明確に言い切った。

「ご存知の通り、福岡は全国有数のラーメン県です。日常のなかにラーメンがあり、豚骨スープと良く合う細麺が愛されています。この独特のラーメン文化に一番合う小麦をつくろうという発想が、品種開発とモデル構築の背景です」

そして生まれたのが、品種名「ちくしW2号」。「ラー麦」というブランド名で、ラーメン用途に特化した小麦として県内で普及が進められてきた。2008年に県の準奨励品種に採用され、翌年から一般栽培が始まった。

「特徴的なのは、最初から『使う側』に開発に入ってもらったことです。製粉会社、JA全農ふくれんといった関係者が品種選定の段階から関わり、『どんな麺がラーメンに合うのか』という実需の視点を前提に品種設計が行われました」

品種が「ちくしW2号」に決定した後は、さらに製麺業者とラーメン業者をメンバーに加え、普及推進に向けて協議を行ってきたと、高橋さんは言葉を続ける。

「ラー麦は、県が研究機関だけで開発した品種ではありません。ラーメンという食文化の現場と協力して開発した小麦なのです」

流通の風上から風下まで一気通貫するモデルを構築

2025年産で「ちくしW2号」の作付面積は約1,900ha。福岡県の小麦全体は約15,500haだから、およそ12%を占めている。規模としては、極端に大きいわけではない。高橋さんは「この状態を安定して維持できていることが重要です」と説明してくれた。


その背景にあるのが、ラー麦独自の流通設計だ。収穫された小麦はJAのカントリーエレベーターに集められ、乾燥・調製を経て県内の製粉会社に供給される。その先にあるのは、県内の製粉業者やラーメン店である。

「ラー麦」として求められる小麦は、タンパク質含有量が12.0%以上の品質のものである。この品質の担保を担うのが、JA全農ふくれんだ。タンパク質含有量が高い小麦で作れば、麺にコシがでて伸びにくい。豚骨ラーメンにベストマッチする細麺は、こうしてできている。JA全農ふくれんでは品質を分析しているが、その結果は次年度に向けて農家にフィードバックされている。

「流通は、基本的には県内で完結します。農家さんからJA、製粉会社、そして製麺会社やラーメン店へとつながっています。通常の小麦のように入札で価格が決まるのではなく、あらかじめ合意された条件で買い取っていただいています。市場で都度価格が変わるのではなく、計画的に生産と消費を合わせていく仕組みに近いですね」

「ラー麦」が実現しているのは地産地消ではない。ラーメンという明確な食文化を起点に「設計された農業」だ。

排水性を高め、追肥する。これが「ラー麦」生産のポイント

冒頭に記したように、福岡県は大豆を含めた米麦二毛作が盛んな地域だ。だから小麦の生産は水田の後作を前提としている。この「水田から畑へ」という二毛作体系のなかで重要な技術になるのは、言うまでもなく排水である。「硬質小麦づくりは排水対策が不可欠です」(高橋さん)

水田転作畑は土壌が水を保持しやすく、雨が降ればすぐに滞水する。小麦は湿害に弱く、根が酸素不足に陥ると一気に生育が停滞する。いかに圃場から水を抜くかが重要になる。

そもそも一気通貫のビジネスモデルが成立するのは、厳格な品質管理=タンパク質含有量の管理があってこそだ。湿害対策は、収量と品質を決定付けるポイントとなる。

「昨年度の全国麦作共励会会長賞を受賞した農家さんの事例では、表面排水と地下排水対策の徹底を行っています。表面排水対策として、額縁明渠にうね溝と排水溝とを連結。さらに定期的に溝さらえを実施することで、排水性を改善しています。さらに地下排水対策として、弾丸暗渠を本暗渠と接点を多く取るため、県指針の2mよりも密な1m間隔で施工して排水性を高めています。農研機構が開発した地下水位制御システム『FOEAS』も一部で導入されていますが、多くはこの事例のように、圃場特性に合わせて明渠と暗渠を組み合わせて対応しています」

高橋さんは「ラー麦」生産のもう1つのポイントとして「追肥」をあげた。

「タンパク質含有量を高めるため、ラー麦の栽培では、普通の小麦では行わない『穂ぞろい期追肥』を行っています。追肥が1回増えるのは生産者にとって手間とコストがかかりますが、高品質なラー麦を生産するための重要な作業ですので、ラー麦生産者は徹底して実施しています」

こうした湿害対策と追肥によって、「ラー麦」はタンパク質含有量12%以上を維持しつつ、高収量を実現している。

「ラーメンのための小麦」をどう広げていくか

「ラー麦」は品種・流通・実需を一体で設計した産地モデルとして見事に成立している。

「それでも、課題も残されています。消費者の方にもっと食べてもらうことです」と、高橋さんは語った。作付面積は約1,900haで安定しているものの、それ以上の拡大には需要側の広がりが不可欠だ。ラーメンを食べる人が増えることで、生産も拡大できる。

また生産現場では、依然として排水性の確保が重要課題であり続けている。明渠・暗渠・畝立てなどの技術は積み重ねられているが、圃場条件や気象変動によるばらつきは残る。FOEASの導入も進みつつあるが、産地全体を支えるものではない。それでも高橋さんは、この取り組みを前向きに捉えている。

「品種も技術も、まだまだ変わっていきます。今が完成形ではなく、育て続ける仕組みだと思っています。ぜひ福岡に来て『ラー麦』のラーメンを食べてみてください」

ラーメンという極めて具体的な食文化のために設計された福岡県産小麦は、これからも福岡県人や来訪者を喜ばせる一杯のために、作られ続けるに違いない。

取材協力・画像提供
福岡県
JA全農ふくれん「ラー麦」特設サイト

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