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負債3億円からの大逆転劇。観光農園の常識を覆す「食べ放題をやめる」という選択

鈴木 雄人

ライター:

負債3億円からの大逆転劇。観光農園の常識を覆す「食べ放題をやめる」という選択

バブル崩壊による過剰投資や台風被害などで、一時は3億円もの負債を抱えた広島県三次市の有限会社平田観光農園。しかし、そこから利益率を劇的に改善する独自の果物狩りシステム「ちょうど狩り」を生み出し、今や年間15万人以上が訪れる大人気農園へと成長しました。いかにして自ら価格決定権を持ち、高収益なビジネスモデルを築き上げたのか。そして、観光農園という枠を超えて地域を守る次なる一手とは。今回は、数々のアイデアで同園の改革を牽引してきた専務取締役の加藤瑞博(かとう・みずひろ)さんに話を聞き、農業を「儲かるビジネス」に変えるための具体的なヒントを探ります。

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一年中果物狩りが楽しめる「平田観光農園」

広島県三次市の中国山地中央に位置する標高500mの中山間地域。交通アクセスに恵まれているとは言えないこの場所に、年間15万人以上が訪れる人気スポットがあります。それが平田観光農園です。

同園のルーツは1955年、初代である平田昌明(ひらた・まさあき)さんがリンゴを栽培しようと山を切り拓いたことから始まります。創業当初は市場などへ出荷していましたが、「市場出荷では経済的に合わない」という理由から国内でもいち早く「りんご狩り」事業に乗り出しました。

「農協や市場を通す一般的な流通では、たくさん採れれば価格が下がり、少なく採れれば価格が上がるという相場に振り回され、生産者自らが売価を決めることができません。さらに、箱代や輸送費、手数料などの経費を引くと、どれだけ苦労して作っても手元には数割の利益しか残らないという現実がありました」。取材に同席した、会長を務める2代目の平田克明(ひらた・かつあき)さんは当時をこう振り返ります。

1967年に観光農園を立ち上げ、1985年に広島県の果樹試験場で働いていた2代目の克明さんが家業へ戻ったのを機に、「有限会社平田観光農園」として法人化。イチゴ、サクランボ、桃、ブドウ、リンゴ、和梨など多種多様な果物を栽培し、一年中果物狩りが楽しめる「通年型の観光農園」の基盤が作られていきました。

平田観光農園で作られる果物の栽培カレンダー

現在は3代目の平田真一(ひらた・しんいち)さんが社長を務め、単なる果物狩りにとどまらず、古民家を改装したカフェ「noqoo」や、薪割りから体験できる本格アウトドアクッキング施設「ダッチオーブンの森」、動物とのふれあい広場などを併設。1日中滞在して楽しめる「体験型テーマパーク」へと進化を遂げています。

広大な敷地で多品目の果物を栽培し、年間を通して観光客を受け入れている平田観光農園の全体図。取材時はさくらんぼのシーズンだった。

負債3億円からのスタートと「出血」を止める決断

現在でこそ観光農園の成功事例として注目を集めている平田観光農園ですが、真一さんが家業に戻った1996年当時は、極めて厳しい経営状況に置かれていました。

バブル期に高級フランス料理店を園内に開店したことに加え、直売店2店舗の出店、第三セクターとして関わっていたワイナリー向けのワイン用ブドウ畑への投資など、手出しが重なっていました。5年で回収できる見込みの設備投資でしたが、バブル崩壊により計画通りに客が来ず、台風被害も重なったことで、約3億円もの借金が残ってしまったのです。

「後を継がなくて良いよ」と言われていたことから、大学卒業後は会計事務所で働いていた真一さん。「自分がやらなかったら絶対に潰れる」という強い危機感を持って家業へ入り、すぐに財務の立て直しに着手しました。

「1億5000万円の投資をしたレストランは、年間3000万円の売上しかありませんでした。利益ではなくて、売上ですよ。これでは絶対にまずい。『赤字を出している事業をやめましょう』と、まずは不採算部門をスパッと切って『出血』を止める決断を下しました。観光農園の果物狩りによる収益だけで少しずつ返済を進め、約10年かけてなんとか借金を完済できる状態へと立て直していきました」と当時を振り返る真一さん。

この経営者としてのシビアな判断と徹底した財務体質の改善こそが、後の飛躍を支える強固な地盤となりました。

元々、高級フランス料理のお店だったが、現在は売店として活用している

自社のオリジナル商品や地域のお土産品が並ぶ

「食べ放題」のジレンマと高収益モデル「ちょうど狩り」の誕生

経営再建を進める中で、同園のビジネスモデルを大きく変える転機となったのが、観光農園の常識である「食べ放題」からの脱却です。

生産者の葛藤から生まれた独自のチケット制

当時の果物狩りは食べ放題が主流で、シーズンにぶどう狩りで2万人を呼ぶためには約20万房を用意する必要があると言われていました。しかし、客1人が10房も食べるわけはなく、その多くは食べ残しとしてロスになってるという問題がありました。

「お客さんは、たくさんの果物が実っている農園を想像して訪れます。なので、農園に果物がちらほらとしかないとクレームに繋がります。だから、本来よりも多く栽培する必要があるんです」(加藤さん)

そこで、加藤さんが中心となって2010年に考案したのが、チケット制の果物狩り「ちょうど狩り」です。入園時に16枚綴りのチケットを購入し、果物ごとの必要枚数と交換してもぎ取るシステムです。

例えば、梨は2枚、プルーンは1枚、ブドウは3枚といった具合に、チケット対応表を見ながら自由に畑を回り、食べたい分だけの果物と交換することができます。

導入当初の数年間は、食べ放題を目当てに来た客から「意味がわからない」「ケチだ」と敬遠され、反発を受けることもありました。長年定着していた食べ放題の常識は根強く、すぐには理解されなかったといいます。

しかし、首から看板を下げて粘り強く案内を続けるうちに、徐々にこの仕組みが定着していきます。現在は来場者の6割以上が「ちょうど狩り」を選択するまでになりました。また、食べ放題ではないので、お客さん一人当たりに用意する数が明確になり、来場者数は変わらないまま、用意するぶどうの数は20万房から8万房へと激減したといいます。

ちょうど狩りの料金表(ホームページより参照)

貨幣価値から切り離し、体験を売る「変動相場制」

「お客様は、チケットを買った時点で貨幣価値から切り離され、16枚をどう使い切るのかに頭がシフトします。果物そのものではなく、収穫体験に対して価値を支払っている感覚になるのです」と加藤さんは語ります。

このシステムの特筆すべき点は、農園側で自由に価格(チケットの必要枚数)をコントロールできる「変動相場制」にあることです。人気品種や希少品種の必要枚数を高く設定し、余り気味の品種は少なくすることで、自然と顧客の動線を誘導し、ロスを極限まで減らすことに成功しました。

また、チケットはグループ内でシェアすることができ、「次はどの果物を取りに行こうか」という家族間のコミュニケーションを生み出すツールとしての価値も提供しています。もしチケットが足りなくなれば園内の「ガチャガチャ(500円で5枚、当たりは8枚入り)」で追加購入でき、余ったチケットは持ち帰り用の果物や売店で売っている米やジャム、ジュースなどといったお土産と交換できる無駄のない仕組みが構築されています。

ちょうど狩り用のチケット

「お腹の余白」がもたらした飲食部門との相乗効果

「脱・食べ放題」の仕組みは園内に併設しているカフェやレストランの売上向上にも大きく貢献しました。食べ放題ではお客様がお腹いっぱいになってしまい、その後の飲食店の利用が伸び悩むという課題がありました。

しかし、「ちょうど狩り」で果物を食べる量を適度なものにしたことで、果物狩りの後にカフェでスイーツや食事を楽しむ余白が生まれ、飲食店の利用率が自然と上がったのです。通年雇用で固定費のかかる飲食部門が潤うことは、農園全体の経営を安定させる上で非常に重要でした。

こうして、無駄なロスを減らしつつ飲食部門との相乗効果を生み出したことにより、農園全体の客単価と利益率が劇的に向上し、実質的な果物の単価を「過去の3倍」にまで引き上げることに成功しました。さらに、従業員の収穫作業や準備にかかる労働時間も半分以下に削減するという成果を生み出しました。

魅力的な旬の果物を使ったメニューが数多く並ぶ

「残念感を出さない」工夫と、口コミを生む環境づくり

来園者アンケートの結果、約60%が「口コミ」で訪れていることが判明しました。これを受け、「お客様が最高のセールスマンになってくれる」という考えのもと、満足度向上のための仕掛けを徹底しています。

接客において最も重視しているのが、「残念感を出さないこと」だといいます。生産者の主観で「まだ果物は十分ある」と思っても、お客の目線でそう見えなければ意味がありません。常に顧客目線を持ち、気持ちよく楽しんでもらうことを徹底。現場で対応するスタッフも、単に農作業を行うだけでなく、お客とのコミュニケーションが取れる人材を配置し、接客面でも満足度を高めています。

自然環境を生かした空間づくりも大きな強みです。ただ果物畑が広がるだけでなく、「森の中で果物を作っている」という景観にこだわり、いつ来ても花や自然に癒される環境を整えています。

特に過酷な夏場の対策として、園内の随所に休憩用のベンチを増やし、メタセコイアなどの防風林を活用して木陰を整備しました。標高500mという立地も相まって、車から降りた瞬間に「涼しい」と感じてもらえる「避暑地」のような空間を作り上げています。

こうした魅力的な体験をさらに底上げしているのが、クリエイティブへの投資です。農業法人としては珍しく、社内にWebやデザインの専門スタッフを雇用。SNSやホームページでの継続的な情報発信はもちろん、商品パッケージや園内の案内板に至るまで、洗練されたデザインを内製化し、農園のブランド価値を高め続けています。

木陰を作るメタセコイア並木

B to Cから「B to 地域」へ。耕作放棄地を救う米と柚子

「ちょうど狩り」と「残念を出さないサービス」で確固たる基盤を築いた平田観光農園ですが、彼らの視座はすでに自社の利益を超えた次のステージへと向かっています。それが、深刻化する地域課題の解決です。

「観光農園の売上は、この山のキャパシティで限界が決まってしまいます。一方で、地域の農地が高齢化でどんどん荒れていくのを見るのは我慢ならない」(加藤さん)

そこで新たに始めたのが、地域の耕作放棄地を活用した米と柚子の栽培です。道具もない手刈り同然で始めた事業ですが、2年目の現在は機械を導入し、規模も初年度の30アールから3ヘクタールにまで拡大。また、条件の悪い中山間地域の田んぼには「柚子」を植える戦略をとっています。

柚子はカラスやイノシシなどの鳥獣被害に遭いにくく、鹿の食害にさえ気をつければ手がかかりません。さらに、果汁や皮は加工用としての需要が世界的に伸びている一方で、国内の供給量は減少をたどっています。すでに2400本の柚子の苗を注文し、新たな挑戦が始まっています。

「平田観光農園として、ただ果物狩りで価値を示すだけでなく、地域の空いた農地を埋めて地域を助ける存在価値を示したい。これからはBtoCだけでなく、B to 地域です」と加藤さんは今後の展望を語ります。

単なる観光果樹園にとどまらず、自ら市場と価格を創り出し、さらに地域社会のインフラを支える企業へと進化を続ける平田観光農園。立地条件の不利を跳ね返し、時代の変化に機敏に対応するその挑戦は、日本の農業が持つ1つの可能性を示しています。

取材協力
平田観光農園

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