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農地集積率25%→71%へ。577haを次世代に繋ぐ、国営農地再編の全貌

kawashima_reijiro

ライター:

農地集積率25%→71%へ。577haを次世代に繋ぐ、国営農地再編の全貌

高齢化による担い手不足や耕作放棄地の増加は、日本の農業が抱える大きな課題だ。山口県東部で進む国営緊急農地再編整備事業「南周防地区」は、こうした課題に真正面から向き合う取り組みである。受益面積577haに及ぶ広大な農地を対象に、区画整理や暗渠排水、用排水路整備を進めるだけでなく、耕作放棄を含めた農地の再編による経営基盤の強化、担い手への農地集積までを一体的に推進。優良農地の確保を図り、農業振興を基幹とした地域の活性化を目指している。

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農地を整えるだけでは解決できない課題

農地整備の多くは地方自治体が担っているが、今回取材した事業の実施主体は農林水産省、つまり国である。国営緊急農地再編整備事業とは、農業従事者の高齢化や後継者不足といった農業構造の変化による耕作放棄地の発生に対応するため、広域的に区画整理や用排水整備といった農地整備を集中的に進め、優良農地の確保を図る事業だ。生産基盤の整備と合わせて、担い手への農地集積、生産コストの低減、高収益作物への転換を図り、農業振興を基幹とした地域の活性化を目指している。

背景にあるのは、全国で進む農業従事者の減少と農地利用の停滞だ。

「農地を貸したくても引き受けてくれる人がいない」「小さく分散した農地ばかりで効率的な経営が難しい」……こうした状況を改善するには、農地を大区画化し、将来の担い手が営農しやすい環境を整える必要がある。

今回お話をうかがったのは、中国四国農政局農村振興部農地整備課課長補佐(競争力強化事業推進)の山本勝則(やまもと・かつのり)さんだ。

「現在、国営農地再編整備事業は全国で26地区が採択されています。その内訳は、国営農地再編整備事業(次世代農業促進型)が3地区、国営緊急農地再編整備事業が23地区であり、南周防地区は、そのうちの1つの大規模事業の一つです」

同地区では2011年度に事業が始まり、2028年度の完成を目指して整備が進められている。

事業期間は実に18年に及ぶ。山口県光市、柳井市、熊毛郡田布施町にまたがる地域が整備対象であり、受益面積は577ha。区画整理面積(用排水整備含む)390ha、ため池整備が6カ所・36ha(うち区画整理と重複31ha)、暗渠排水182haという途方もない規模。総事業費は約260.23億円である。

「もともとこの地域は狭小で不整形な農地が多く、排水不良による湿田も少なくありませんでした。そのため大型農業機械の導入ができないなど、効率的な営農が難しく、農地の流動化(賃貸・売買)や作業受委託(農作業の外注)も進まず、多くの耕作放棄地が発生していました。本事業の対象となる要件に合致していたのです」(山本さん)

県や市町村、関係機関などとの調整を重ねながら国による調査や法律に基づく手続きを経て事業化されており、事業採択までに数年単位の時間を要してきたと語る。

営農を変えたFOEASを中心とした排水性の改善

農業生産の現場を特に大きく変えたのは、排水性の向上だった。それまでの湿田では大型農業機械が入りにくく、水稲以外の作物を栽培することは容易ではなかった。山本さんはこう説明する。

「暗渠排水などの整備が進んだことで湿田が解消され、水田で畑作物を生産できるようになりました。その結果、これまで難しかった小麦や大豆の栽培が可能になったほか、タマネギやアスパラガス栽培に取り組む経営体も現れています

また、排水対策の一環として導入したFOEAS(フォアス:地下水位制御システム)も、その後押しをしていると言う。「地下水位をコントロールすることで排水だけでなく灌水も可能となり、水田において、畑作物の安定生産が期待できるのです」

FOEASとは、農研機構が株式会社パディ研究所と共同開発した技術。給水(水位管理器)と排水(水位制御器)の機能を組み合わせた地下水位制御システム。雨が降れば暗渠から排水し、晴天が続けば地下から水を供給することで、作物に応じた最適な水位(地下30cm〜地上20cm)を維持する。湿害や干ばつ害の軽減につながり、収量や品質の向上が期待できる。

基盤整備とFOEASの効果

「2023年度の大豆の単収は全国平均で169kgでしたが、当地区でFOEASを整備して地下かんがいを行った実証調査では、205kgの単収がありました。湿害の減少やかんがいの効果が現れていると考えられます。また、地元においては水稲栽培における地下水位の調整による作業性の向上や節水効果も期待されています」

基盤整備とFOEASによる地下水位制御の導入は、作付面積の変化にも表れているという。

「事業が始まる前年にあたる2010年、地域(受益市町)の小麦作付面積は11haでしたが、令和6年現在では167haへと15倍以上にまで拡大しています。大豆も72haから136haへ増加しました。水稲中心だった営農は、水稲・麦・大豆による二年三作体系による土地利用が進み、農地の生産性向上につながっています」

2024年7月に伊陸北部で撮影した大豆の様子。

狭小で不整形な農地を大区画化し、地下水位制御まで導入した本事業は、水稲中心だった地域農業を着実に変えつつある。高付加価値作物への取り組みに加え、米・麦・大豆による輪作体系も広がり、土地利用率は向上している。大豆では単収増加の成果も見え始めている。

一方で、圃場の整備だけでは地域農業の将来は支えられない。残された大きな課題が担い手の確保と育成だ。

「この地域では自給的農家や第二種兼業農家が過半数を占めており、農業従事者の高齢化も進んでいます。将来にわたって営農を担う人材を育成することも、本事業の重要な目的の一つでした」

農地整備の先にある担い手育成

圃場整備とあわせて担い手への農地集積を進めた結果、地域には現在、農業生産法人が26法人、認定農業者が24名おり、農地集積率は事業実施前の25%から2024年度には71%まで向上している。

「事業を契機に設立された営農法人『アグリ南すおう』は、その象徴的な存在です。地域がまとまり、共同出資によって設立された法人で、大型機械の共同利用などを通じて効率的な農業経営に取り組んでいます。農地を整備するだけでは地域農業は続きません。誰が耕し、どのように経営していくのか。その仕組みづくりまで含めて取り組んでいることが、この事業の大きな特徴なのです」と、山本さんは話してくれた。

地方自治体の枠を越えた農地を一体的に整備し、さらに将来を担う経営体の育成まで行う。そこに国営緊急農地再編整備事業「南周防地区」の特徴がある。

本事業は2028年度の完成を予定している。しかし、工事の完了がゴールではないことは明らかだ。整備された農地を活かしながら、担い手への農地集積を進め、生産性を高めていくこと。それにより地域農業を将来にわたって維持していくことこそが、本事業の本当の目的だ。

地域の合意形成を積み重ねながら進められてきたこの取り組みは、農地を次世代へ引き継ぐための基盤づくりである。地域においては数十年に一度あるかないかという大規模事業の先に見据えられているのは、工事の完成ではなく、地域農業の未来である。

取材協力・写真提供:中国四国農政局農村振興部農地整備課・南周防農地整備事業所
参考:南周防地区版地下水位制御システム「FOEAS(フォアス)」取扱説明書

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