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お米を売りながら地域の魅力を売る「能登輪島米物語」

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

お米を売りながら地域の魅力を売る「能登輪島米物語」

能登輪島の米を売るために農家たちが立ち上がった商品開発プロジェクト「能登輪島米物語」。地域伝統のおかずや観光資源などの魅力とともにお米を売るといった「お米×地域おこし」の事例は、お米の六次化商品の中でもちょっぴりユニーク。「あらゆるおかずの味方になる」お米ならではの可能性も秘められています。この商品開発には、自分たちのお米の食べ比べから始まるワークショップが重要な役目を果たしました。

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食べ比べで自分のお米の立ち位置を知る

能登輪島米

9軒の米農家のお米はそれぞれキューブ型箱入り。
能登輪島の自然環境や祭りごと、お米農家の似顔絵や想い、能登輪島のごはんのおともが描かれている。

石川県輪島市と輪島のお米農家9社の連携で生まれた「能登輪島米物語」。それぞれ9種類のお米には、「ゆきわり草米」「そうじ寺米」「キリコ祭り米」というふうに、自然環境や建築物、祭りごとなど、地域の観光資源の名前がつけられています。

この商品開発プロジェクトは、「お米を生活者に直接売りたい」というお米農家たちが手を携えて2014年にスタート。1人1人のお米農家の思いをのせた商品作りをサポートしてもらおうと、東京都目黒区のブランディングカンパニー「Bespoke(ビスポーク)」に商品開発を依頼しました。

輪島市内でBespokeと市役所職員、お米農家たちが開いたワークショップの会場では、炊飯器がずらり。「コシヒカリ」や「能登ひかり」など9社のお米農家がそれぞれ作るお米、一般的に評価が高い新潟県の魚沼米、スーパーで最安値だったお米の計11品種を、品種名や生産者名などを隠して食べ比べることから始めました。

「お米農家さんたちは自分のお米しか食べないという方が多いので、まずは他社を知ってもらおうと思いました」と話すのは、Bespoke代表でブランド戦略コンサルタントの長田敏希(おさだ・としき)さん。「食べ比べをすることで、自分たちの立ち位置や一般のお客さんの感覚を理解してもらい、その上で、自分たちの商品をどのように作っていくかを考えていく。そのスタートラインに立つためのワークショップです」

「甘い」「香りが違う」「さっぱり」「あっさり」「臭い」「もちもち」「つやがある」「おかずと合う」…。ワークショップでは食べ比べた感想を付箋に書き出していき、さらに、5ツ星お米マイスターにも同じお米の評価をもらいました。そして、「一般のお客さんはお米の味の違いを明確には分からないのでは…」という結論にたどり着いたのです。

横文字を使わずシャイな人も発言できる場

能登輪島米

9軒のお米農家たちがそれぞれのお米を食べ比べ

商品開発と言っても、「能登輪島米物語」のお米農家たちは60代がほとんど。「ブランディング」「コンセプトデザイン」といった言葉になじみがありません。

そこで、Bespokeが考えたのは、「横文字を使わないこと」。

たとえば、「ビジョン」を「目標」に言い換えるなど横文字を使わずにブランディングについて講義したうえで、進めていきました。

さらに、お米農家の中には年功序列を気にする人、シャイな人、さまざまな人がいることも考慮して、誰もが意見を出しやすいように意見を出すときは付箋に書いて貼るなどの方法で、それぞれの想いを丁寧に汲み上げていきました。

とことん、お米農家側に立ちながら進めて行くのがBespokeのワークショップの特徴。「お米農家さんたちは生産や経営の立場から、どれだけ売らなければならないか、どうこだわっているかなど、苦労を前面に押し出しがちです。でも、お客さん側に頭を切り替えると、どんな味わいか、どんな想いが込められているか、どういうシチュエーションで買うか、どんな人にあげようかなど、別の視点に気づくのです」と長田さん。

その後のワークショップでは、お米農家たちに「あなたが30代主婦だったらどんなお米を食べたいか」「あなたが50代男性だったらどんなお米が食べたいか」など、食べ手に視点を変えてイメージしてもらいました。

こうした“考えるための仕掛け”を散りばめることで、お米農家たちはとことん掘り下げて考えることができました。

お米だからこそ商品が「地域づくり」につながる

能登輪島米

年功序列に関係なく誰もが発言しやすい雰囲気で勧められたワークショップ

ワークショップでお米農家たちに「想い」や「目標」などを聞いていくと、「高齢で跡を継ぐ人がいない。農家をやりたい若者を増やせる取り組みにつながれば」「輪島の観光と組んでいける取り組みにつながれば」といった声が挙がりました。ただ単純にお米が売れて儲かれば良いわけではなく、お米を売るための商品開発が輪島の“地域づくり”に結びついてほしいというのがお米農家たちの本音だったのです。

食べ比べを経て「一般のお客さんがお米の味の違いを明確に分からない」と結論づけたお米農家たちは、海も山もある輪島の豊富な「ごはんのおとも」、自然環境や祭りごとなどの「観光」をセットで売っていく方向に舵を切りました。そうして、「お米とおかずで輪島の魅力を発信する」「お米を食べながら輪島を旅してもらう」というテーマが浮かびあがってきたのです。

それまでは、輪島のお米農家たちの「競合」は、広義では日本全国のお米。狭義では能登輪島の特産品でした。ところが、他にはない「能登輪島の恵まれた環境」という魅力を打ち出すことで、日本全国のお米に勝ち得る“武器”を持つことができ、「必ずおかずや調味料と一緒に食べる」というお米ならではの特徴にスポットを当てることで、能登輪島にある数々の特産品という「競合」を「味方」につけるといった、これまでにない商品展開につながりました。

能登輪島米

それぞれ9軒のお米を詰め合わせたギフトも

2度のワークショップを経て生まれたコンセプトは「おかずで旅する輪島のお米」。商品は、2合入りの真空パックで、キューブ型の箱入り。9種類それぞれの箱の正面にはお米農家たちが大事にしたい能登輪島の自然環境や祭りごとの風景を描き、一方の側面にはそれぞれのお米農家の似顔絵と想い、もう一方の側面には「岩のりの佃煮」「ナスの舟焼き」「鯖の糠漬け」といったお米農家がすすめるごはんのおかずが描かれています。9種類の箱を並べるとそれぞれの風景がつながり、よくよく見ると、ご飯茶椀を片手に旅をしている人物のイラストも。このパッケージのように輪島塗のご飯茶椀でごはんとおかずを楽しみながら輪島を旅してもらおうと、今後はツアーも開催していくそうです。

お米の販売を通して能登輪島の地域づくりにもつながる。独特のワークショップを経て生まれた「能登輪島米物語」は、そんな新しいお米の可能性を秘めています。

ブランディングカンパニー Bespoke.inc(ビスポーク)

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