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「日本の田んぼを守る」パーマネントな酒蔵・仁井田本家【前編】

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

「日本の田んぼを守る」パーマネントな酒蔵・仁井田本家【前編】

福島県郡山市の「仁井田本家」は、1967年から自然米(栽培期間中、農薬・肥料不使用)のお酒を製造販売している“自然酒”の先駆者。酒蔵ですが、日本酒だけを見ているわけではなく、原料となるお米と田んぼを将来にわたって守っていくという幅広い視点と強い決意を持っています。田んぼを守るために、お米を栽培して、日本酒や発酵食品をつくって、多くの人たちに飲んで食べてもらう。ただし、お米に農薬や化学肥料は使いません。あくまで、持続可能な田んぼを目指す、それが仁井田本家が言う「田んぼを守る」ということなのです。

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農薬や化学肥料を使わないお米で造る「自然酒」

18代目蔵元・杜氏の仁井田穏彦さん。日本の田んぼを守るという強い決意を持って米を作り、酒を造っている

仁井田本家は日本酒を製造するだけでなく、原料となる自然米を1997年から自社田で生産しています。

栽培を始めたきっかけは、お米農家の高齢化などによってお酒の原料となる自然米を確保できなくなる懸念があったためでした。18代目蔵元・杜氏の仁井田穏彦(にいだ・やすひこ)さんは当時をこう振り返ります。「稲作を引き継ぐ息子さんは兼業なので、物理的に手間がかかる自然栽培ができなくなってしまいます。せっかくの自然栽培の田んぼが慣行栽培に戻るのはもったいないし、自然米を確保できなくなると蔵にとっても命とり。いざとなったら仁井田本家が代わりに生産を担っていけるよう、今から練習しておく必要があると考えたのです」。そして、2009年には農業生産法人「仁井田本家あぐり」を設立。有機JAS(農産物・加工食品)の認定、有機農畜産物加工酒類の認定も取得しました。

当初は農薬不使用の自然米と自然派酒母を使った純米の自然酒は一部でしたが、農薬不使用・化学肥料不使用の田んぼを徐々に拡大していき、2013年からはすべてのお酒が自然酒に切り替わりました。現在は、自社田5.5ヘクタールで自然米を生産。8軒の契約農家の田んぼと合わせて生産面積は約50ヘクタール、約2300俵のお米を生産しています。

真に「田んぼを守る」ということ

イベントではお客やスタッフたちが稲を刈り天日に干した。
仁井田本家の田んぼでは「亀の尾」「雄町」「一本〆」などを栽培している。

お米の生産から加工、販売までを一貫して行う仁井田本家の大きな夢は、「日本の田んぼを守る酒蔵になる」ということ。

「仁井田本家が300年にわたってお酒を造ってこられたのは、豊かな田んぼのおかげです。田んぼは単にお米がとれるだけではありません。田植えが終わって青々とした田んぼを見ると心が踊り、収穫時もわくわくします。日本人にとって田んぼの風景ってすごく大事だと思っています」。そう話す仁井田さんの表情からは田んぼへの愛情が伝わってきます。

ところが、田んぼの担い手が減り、耕作放棄地が増えています。

だからこそ、仁井田本家は「田んぼを守る酒蔵になる」ことを大きな目標にしているのですが、仁井田本家が言う「田んぼを守る」は、一般的な「田んぼを守る」とは違っています。

「田んぼに負荷をかけない自然栽培の田んぼを増やすことが、田んぼを守ること。今は収量が少なくても、徐々に地力があがれば、肥料や農薬を使わなくても収量が上がり、次の代にとってすごくいい財産になります。そうした田んぼを繋いでいくことが日本の田んぼを守ることになったらいいなあと。そして、無農薬のお米をたくさん使うことが田んぼを守ることにつながると思うのです」(仁井田さん)

下戸でも酒蔵の応援ができる自然米スイーツ

甘酒の水分を飛ばして固形化したオリジナルの「こうじチョコ」。チョコレートが苦手な人でも食べられる

日本のお米の消費が減り続け、米価が安くなっているなか、仁井田さんは日本の稲作の選択肢としてこう考えています。

「農薬や化学肥料で収穫量を上げるのはやめて、自然栽培でほどほどの量しかとれなくても、倍の値段でちゃんと売る。すると、農薬や化学肥料を買うお金がかからず、米余りも解消されると思うのです」。

現在は自然米の田んぼは、仁井田本家と1軒の契約栽培農家を合わせて6.5ヘクタール。仁井田さんの夢は、仁井田本家がある「田村町金沢地区」の田んぼ全60ヘクタールを2025年までに自然栽培にすることだと言います。この地区の名前は「田んぼの村」「稲穂の黄金色の沢」を意味していると聞くと、実現も不可能ではないように思えてきます。

その夢に近づくためには、自然米で造ったお酒を飲んでもらうこと。でも、それだけでは満足しないのが仁井田さん。甘酒を製造する酒蔵は増えていますが、仁井田本家では甘酒だけにとどまらず、発酵飲料「米(まい)グルト」のほか、甘酒の水分を飛ばして固形化したオリジナルの「こうじチョコ」まで開発。チョコといってもカカオが入っているわけではなく、板チョコのかたちをした「食べる甘酒」。自然派、マクロビオティック、ビーガンなどに関心がある人たちからもスイーツや調味料として注目されているほか、バレンタインにはギフトボックスも販売するなど、新しいお米の切り口も生み出しています。さらに、毎月蔵で開いているイベント「スイーツデー」では、自社で自然栽培している小麦や小豆を使って、甘酒スムージーや大福などの砂糖不使用スイーツを販売。すべてOEMではなく自社生産というから驚きです。

耕作放棄地をなくすために耕作さえすればいいのではなく、あくまで持続可能な田んぼを目指す。この夢に賛同した人は、お酒好きでなくても大丈夫。お酒が飲めない人、スイーツ好き、子どもからお年寄りまで、誰もがおいしく仁井田本家の夢を応援できるのです。

仁井田本家

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