長い修行期間を経て第二創業期を迎えた
「高校を卒業した後、飲食の仕事をしていました。その後知人のアパレル関連の会社に入りました。飲食の仕事とあわせて12、3年勤めた後に妻と出会ったのが私の会社の前身となる有限会社安達印刷との出会いです。当時広告の印刷を行っていたこの会社を継ぐために、5年ほど広告代理業店で修行をしました。その後、先代から事業承継をしたのです。」
ひとことで事業承継と言っても、そこには長い歳月と努力があります。経営をいつバトンタッチするかわからない状況で、萩部さんは7年間その会社で先代の社長と共に働いたといいます。当時の印刷業は衰退産業で経営は厳しいものがあったのだそう。事業承継を行い萩部さんが40歳になる時に、事業を新しいものに刷新し、株式会社アダチファクトリーを立ち上げました。
食育がきっかけで農業の道へ
お話を聞いていると、ひとつ疑問が浮かんできます。現在の事業である農家へのコンサルティングとは、どうやって出会ったのでしょう。
「自身の経験から、『きずな連絡帳』という子供むけの印刷物を手がけたことがきっかけです。自分自身が母子家庭で育ち、子供は発信する場所が必要だという思いをずっとどこかに抱えてきました。親子の絆をもつような連絡帳を作りたくて、思いだけで作った印刷物です。それを見つけた墨田区から声をかけてもらったことがきっかけで、墨田区の食育の事業『すみだ食育goodネット』の広報理事になったことで1次産業を行う方と出会うようになりました。」
その後も、きっかけの連鎖が萩部さんを農業へと導いていきます。
「1次産業を行う方と出会うと、後継者問題や農作物の販路問題などが話に上がります。彼らの相談にのるうちに、東京都の公益財団としてやっている東京都農林水産振興財団専門家に参加しないかと声をかけてもらいました。」
公益財団に専門家として派遣されると、1回目の相談は財団から謝礼が出るため農家からお金をいただかずに相談に乗ることができたのだそう。しかし、一度の相談で課題を解決するのは難しかったことから、二度目は個人として話を聞くようになったのだとか。そのスタイルに合わせるように、会社の事業モデルを課題解決にシフトしていきました。
まずは自分でやってみることで腹落ちしてもらうことが大事
アダチファクトリーでの農家へのコンサルティングのフローはどんなものなのでしょうか。
「まず、農家さんに考え方を聞きます。作っている作物への思いや、自分の作物がどう人と違うのかや、そこに売れるポイント(健康や美容に刺さるポイント)がないかどうかを探っていきます。さらに、今後なりたい姿も聞き出すことでどのくらい収益をあげたいのか、どんなふうになりたいのかを明確にしていきます。」
なりたい姿を共有できたら、試作をし農家さんと一緒に商品について検討します。
製品化にあたりリスクを最小限に抑えるために、小ロットで実際に商品を作ります。
「仲間のパティシェなどと提携先でケーキ、アイスクリーム、オリーブオイルなどを小ロットで製造できるラインを作っています。初回は、顧問料やコンサルティング料はいただかず、できあがった小ロットの商品を購入してもらったり、ケースバイケースで対応しております。実際の商品を見るとだいぶイメージが湧きますね。」
できあがった商品をマルシェやクラウドファンディングなどでまず売ってみることをおすすめするのも萩部さんのスタイル。
「農家さん自身が、6次産業化を実際にやってもらうことが大事です。マーケットなどでひとつひとつ商品を売る経験をすると、農家さん自身も課題により腹落ちしてもらうことができます。自分たちで一度やってみて、どんな価格と流通経路が適しているのかを考えてもらいたいと考えています。農家さんのパッションとマーケットの声をつなぐ役割が私の使命かと考えております。」
“一番相談しやすいおじさん”を目指して 農家の皆様と伴走できればと考えてます
実際にフローを追ってみると、経験に裏打ちされた細やかなコンサルティングを行っていることがわかります。決して農家を置いていかずにひとつひとつの意思決定に納得感を持ってもらいながら進めているところに、萩部さんの思いが滲みます。最後に、これから目指す姿を伺いました。
「相談しやすくて話しやすいおじさんになりたいなと思っています(笑)。1次産業が活性化するためには、6次産業もひとつの選択肢と考え収益に貢献したいと思っております。またコンサルティングは形がないもの。これからも農家さんと一緒に汗をかいて、一緒に商品を作っていこうと思っています。」