生産者と“現場”で触れ合うイベントで実証実験
今回は、農業マーケティングの実践事例をご紹介します。わたしの地元でもある千葉県流山市でこのようなイベントを行いました。
会場は、流山市内の『お米を収穫し終えた田んぼ』です。稲刈体験ではなく、田んぼに残った藁を使って、自然に囲まれながら、大人も子どもも思いきり楽しんで、まちの農家さんを身近に感じることができるイベントです。
主催は、田んぼの管理者である流山お田んぼクラブ。代表の岩根宏(いわね・ひろし)さんは、市内の生産者です。そしてファーマーズ・ガイドと、流山でまちづくり事業を推進するmachimin(株式会社WaCreation)とが、協力する形で行いました。参加費用は1家族1000円。参加者は地元住民約100名。集客には流山市内の保育園での告知、ファーマーズ・ガイドのサービス「チョクバイ!」のウェブチラシ機能などを使いました。
本イベントの特徴と狙い
この農業イベントの特徴は2つあります。
① 流山に暮らすママたちが自身でアイデアを企画・運営し、地元の農家が場所を提供して実現する、流山市民による完全自走プロジェクトである点
② お米というモノだけでなく、田んぼと農家を立てることでコト化している点
自分が暮らすまちの農業者のことを知って欲しい、身近に感じて欲しい、そして、今まで以上に「いただきます」を楽しんで欲しい、そのような思いで設計しました。
集まった親子は、岩根さんが語る田んぼでの一年のストーリーに耳を傾け、藁を骨組みにかぶせて大きな三角屋根の「ティピーテント」作りや、藁を使った縄やホウキ作りを体験。イベントのクライマックスには、田んぼで穫れた新米を羽釜で炊いておにぎりを作り、岩根さんと参加者全員で味わいました。
「このお米は、特別なんだよ」「どうして?」「今年、ここで穫れたものなんだって」「へぇ、甘くておいしいね!」と、自然にお米へ意識が向いた親子の会話が聞こえてきましたます。
イベントの効果測定
イベント参加者の方にアンケートをとりましたので、その内容をお見せします。
- 甘くて美味しかったです
- モチモチしておいしかった。
- 買いたい、とてもおいしかったです。
- 地産地消がいいと思う など
- 自然の中で遊ぶ事はふだんできていなかった。流山の知らない一面を知れてよかった
- 自然の近くにいながらも、あまりふれあう機会がないため、貴重な時間でした。
- 子供たちが自由に走り回ったり、体を動かせる場所があまりないので、子供たちが楽しそうで良かった。おかまで炊いた新米も本当に美味しかったです。
- 田んぼに来たのは初めてでした!内容もとても楽しめ、お米も美味しかったです!ありがとうございました! など
岩根さんのことを知らなかった多くの方が、イベントを楽しみ、農業者の想いやこだわりを理解し、「おいしかった」「買いたい」と答えています。
岩根さんも「感想を直接聞いたり、食べ方の提案ができた。若い世代の顔見知りが増やせたのもとても良いこと」と喜んでいました。
またイベントを実施して終了ではなく、買いたいと答えてくれた方向けに、お田んぼクラブで収穫したお米・野菜の直売会を継続して行っています。
イベント当日の売上は33,450円(お米・野菜ともに30分程度で完売)、イベント後の定期直売会でも安定しておよそ20,000円程度の売上(1回3時間程度)です。
顔の見えない大勢として考えるのではなく、目の前のあなたと対話するという意識を持つことで、農業者の想いやストーリーをしっかりと届けることができ、実際の商品購入までつなげることができます。そして売上だけでなく、自分の好きな農業を追求しお客さんの反応をダイレクトに受け取れる場を持つことは、農業者にとって大切な意味があることだと思います。
イベントを行うべきだと言っているのではありません。農業を家族に閉じず、外にひらく。周りを巻き込み、動くことで、誇りと自信をもった農業経営が実現できるのではないでしょうか。
現代都市生活の中で、農業は「生産」「流通「消費」の関係に分断されて来ました。これを再び結び付けることで、農業の新しいカタチをつくることができるのはないかと思います。
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