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【農業マーケティングの現場からVol.4】大切なのは、あなた自身の熱量の大きさ〜重要顧客との関係構築戦略

連載企画:農業マーケティング

【農業マーケティングの現場からVol.4】大切なのは、あなた自身の熱量の大きさ〜重要顧客との関係構築戦略

誰がどうやってつくったのかわからない野菜が、雑然と棚に並べられる。そんな光景に象徴されるように、これまで農業全体が均一化戦略をとってきました。単なるモノとしての農作物を超え、価値を創造するために生産者が取るべき打ち手とはー?博報堂DYグループで農業者を支援するマーケティング企業「株式会社ファーマーズ・ガイド」の中島慶人代表に、農業マーケティングを成功に導くメソッドを伝えてもらいました。

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農作物の品質だけを価値として売らない

産地は違うけれど、同じような農作物を並べて、どれがいいというのは、一般の人にはふつう判断がつきません。でもその野菜がつくられるまでのストーリーが可視化されることで、一体何にお金を払うのかがわかれば、その価値を感じてくれる人が出てきます。

価格にシビアな生活者でも「値段に関係なく買いたい」と思える瞬間があります。それは「好きな人」から商品を購入するときです。「消費者と交流している、消費者の声を聞いている」農業者は業績が高く、「収穫するところまでが仕事」という農業者は業績が低い、というデータも実際に出ているそうです。

※図・出典:岩崎邦彦「農業のマーケティング教科書:食と農のおいしいつなぎかた」日本経済新聞出版社、2017年

好きになってもらうには、接触頻度を上げることが重要です。ですが、それは長々と顧客の世間話に付き合うことや、一緒に食事に行ったりすることではありません。農業者として、顧客から支持されている価値を把握し、生産や販売の内容をその方向で整えて、さらに好きになってもらえる環境をつくることだと言えます。

農業経営とは、このような姿勢や行動のことを言うのではないでしょうか。そもそも生き物が好む環境を用意することが仕事の農業者 には、向いている考え方だと思います。「農業生産者から農業経営者に」「プロダクトアウトからマーケットインに」と何かと言われる昨今ですが、顧客が支持する価値を把握し、それを活かすことが大切です。

均一化戦略からの舵取り

これまで、農業全体が『均一化戦略』をとってきました。スーパーなどに行くと誰かがパッケージした何種類もの野菜、カットされた果物がずらりと並びます。そこには●●産、▲▲円という情報しかないことがほとんどでした。

これではあなたのつくる農産物の価値はきちんと伝わらず、ただそこにあるだけの場所取り商品になっている可能性さえあります。

『均一化戦略』からの かじ 取りには、大きく分けて 2つの打ち手があります。一つはモノ自体を変える『カスタマイズ戦略』です。加工品にしたり、有機や自然栽培にしたりするのも、マーケティング的に見ると実は同じ方向性です。

そしてもう一つが『顧客との関係構築戦略』です。それは食べるモノから、食べるコトに拡げる発想です。そのためには 思いを伝えることが、スタートになります。それがどんな思いで作られ、どのような人たちの手で育まれ、どこにどう気を遣い、どんな風に大切につくられてきたのかを伝える。本業を細部まで見せ、丁寧に紹介することが「ここのは間違いない」という信頼・価値につながります。

単なるモノを超え、価値を創造するための農業マーケティング・メソッドはシンプルです。

① 知ってもらう「あなたがつくっているのは何か」
② 良さを、 理解してもらう「あなたの思いやこだわりは何か、第三者の意見はどうか」
③ 深くつながる「わたしにとって特別な存在である、あなたから買いたい」

農業者が当たり前と思っていることでも、生活者には全く伝わっていないこともあります。なぜその作物を選んだのか、その作物の特徴、育て方へのこだわり。あなたが農業をしている理由・背景、ずっと大切にしている理念。そういうものがほかに代え難いエピソード、ストーリーとして、生活者との深いつながり(エンゲージメント)を生むキッカケになるのです。

価値ある農業の実現を

農産物には機能・スペックだけでは語れない、数値化できない魅力があります。その土地の空気感や風の香り。その年の天候だけでなく、収穫した日の太陽だったり、土の具合。そのような情報で生活者の気分は変わり、おいしそうに感じられたりするものです。それは他人には伝えることのできない、農業者であるあなただけの言葉です。

あなたの仕事をちょっといいなと思ってくれた人。この人の気持ちをつかむことが大切です。例えば、初回購入者へは特に丁寧に説明したり、調理の仕方など、食卓イメージまで提供すると良いでしょう。リピート購入者には体験農園や農園見学を促してみるのも良いかもしれません。顔を見せ、畑を見せるのは、生活者と深くつながるのに非常に効果があります。このようなところを対面だけでなくテクノロジーで代用し、効果的に効率的に行うのが良いと思います。

しかし何より、農産物に対するあなた自身の熱量の大きさが、生活者を動かすという事を忘れないでください。語り出すと止まらない農業者の話を聞くのが、わたしは大好きです。

2050年を想像した時に、人類に必要な食糧は、大量に一定品質で、ロボットや工場がつくっているかもしれません。人々の食事は、効率よく必要な栄養分を補給できるサプリが中心になり、口や顎(あご)は今より細くなっているかもしれません。満腹感を感じられ、それでいて十分な栄養が摂取できるドリンクが発売され、女性にヒットしているかもしれません。でもそんなのどこか寂しい。

そういう時代でも価値がある農業者とはどのような人たちでしょうか。地域に根付き、手作業で、良いものをつくることにこだわる人ではないでしょうか。生活者はそういう農業者を知り、理解し、つながりたいと思っているはずです。

農業者にとってもきちんと価値が伝わり、生活者が買ってくれる姿、食べてくれる姿、喜んでくれる姿が見える仕事は楽しいはずです。価値のある農業は大きさに関わらず、実現できます。

規模は小さくてもしっかり対話できて、作り方から思いまで共有して歩んで行くほうが、確かなブランドをつくることにつながります。顔の見えない大勢に発信するのではなく、目の前のあなたと対話するという意識を持つことが大切なのです。

チョクバイ!が実現したいのは、身近な農業者と生活者がより深くつながる日常。両者がお互いを尊重し「いただきます」「ごちそうさま」がきちんと聞こえる“当たり前の毎日”です。

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