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予約しないと手に入らない“あの食材”が欲しい【本当に求めている食材#01 中村屋 総料理長 二宮 健】

連載企画:本当に求めている食材

予約しないと手に入らない“あの食材”が欲しい【本当に求めている食材#01 中村屋 総料理長 二宮 健】

理想の料理を作るために、日々食材を探す一流の料理人やバイヤーたち。そんな一流の目を持った人が求めている食材とは何でしょうか。日本の「食」を牽引する人々に、いま欲しいものやこれから作って欲しい食材を取材する連載。初回は、日本で初めてインドカレーを提供し、日本の食文化を築いてきた老舗「新宿中村屋」の総料理長兼チーフテイスター 二宮 健氏にお話しを伺いました。

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【プロフィール】

株式会社中村屋 総料理長兼チーフテイスター
二宮 健(にのみや・たけし)
1952年に中村屋入社。中国料理、西洋料理を手がけ、中村屋の外食事業の礎を築いた後、75年に総料理長に就任。現在は業務用食材や菓子などの開発にも携わり、中村屋全体の味をチェックし、伝統の味の伝承に力を注いでいる。

中村屋のカレーに合う野菜と米

——中村屋の代表的な商品であるインドカリーは、毎日食べにくる人もいらっしゃるそうですね。昔からこだわっている食材はありますか?

大量に使用するタマネギはこだわっていますね。丹後半島と淡路島産ものを使っています。
冬は雪深い丹後半島のタマネギは、虫がつきにくいため農薬をまく機会も少なく、野菜につく害虫駆除農薬が少ない点が良いです。

淡路島産のものは、歴史ある泉州たまねぎをルーツにしているので、果肉が柔らかいです。但馬牛の一大産地ということもあって、子牛の牛糞肥料を豊富に使っており、甘みが強い点もカレーに向いています。

水分量が多いので、収穫してから2週間ほどは冷蔵庫に保管をして水分を抜き、その後0℃で10月まで管理します。そうすると甘味が出て、炒めると良い色になるんです。

——相当なこだわりですね。ジャガイモも代表的な食材だと思いますが、いかがですか?

仕入れ先は決めていますが、「これだ」というものがないですね。今年は30種類のジャガイモを食べ比べましたが、まだ見つかりません。

——30種類!種類が多いと味や食感もそれぞれで、選ぶのが難しそうですね。

最近、野菜の表現といえば「甘い」ばかりじゃないですか。
美味しさの基準としてあってもいいのですが、どの程度の甘さを求めているかは人それぞれ。甘さを含めて、野菜のスペックが可視化されていると、食べ比べる以外の基準ができるのでありがたいですね。

日々中村屋全体の味をチェックする二宮氏

——数値化や可視化を求められているとは意外!料理人の方は、“食べてみないと分からない”派だと思っていました(笑)。そういう点では、お米も随分と種類が増えましたよね。

日本の食文化の発展にともなって、本当に変わりました。上質になりましたね。
中村屋では、当初、最もインドカリーのソースに合うとされていた「白目米(しろめまい)」を使っていました。江戸時代に徳川家が好んで食べたといわれる最高級米です。

第二次世界大戦の米殻統制で栽培を禁止され、「幻の米」となっていましたが、純印度式カリー発売70周年を機に白目米の復活を決めて、期間限定で発売していたこともあります。今は新宿中村屋ビル内の「レストランGranna(グランナ)」で全て「白目米」にしています。

純印度式カリーのセット。白目米は2000年に農林水産大臣賞を受賞している

予約しないと手に入らないのは、目でも楽しめる“あの食材”

——この連載の趣旨は、一流の料理人が求めている食材を生産者さんにお伝えすることです。これほどの歴史とこだわりのある中村屋さんが、いま求めている食材は、ズバリ何でしょうか!?

発芽したばかりの小さな野菜、いわゆる『マイクロベジタブル』です。
様々な色や香りの野菜は、目でも楽しめます。中村屋は女性のお客様が多く、最近はSNSで料理が紹介される時代ですから、見た目の美しさも重要です。

—野菜を大きく実らせることを良しとしている農家さんが、多い気がしますが……。

小さくていいものを、大きくしてしまうというのはよくあることです。新鮮で柔らかいマイクロベジタブルは、扱いやすく、良いアクセントになる。『ハーブ』や食用花の『エディブルフラワー』も重宝しています。最近はキュウリの花も使っていますよ。

——農家さんは意外と知らないかもしれないですね。

どのくらいの大きさが求められているかを分かってもらえると嬉しいですし、そういう意見に耳を傾けてくれる農家さんと仕事がしたいですね。

海老原ファームとのコラボレーションで開発したエビベジカレーセットのサラダ。1皿に12種類の野菜が入っている

【海老原ファーム取材記事】濃厚野菜「エビベジ」 有名シェフを魅了する高級ブランドの育て方

 

——当然、味も求められているんですよね。

味の濃さと風味が大事です。胡椒の味やチーズの風味がするマイクロベジタブルは、ペーストにしてソースにすることもできます。料理の幅が広がりますよ。

——仕入れはどうしているのでしょうか。

マイクロベジタブルは、九州の博多で栽培されていることが多く、博多から仕入れています。
ただ、予約しないと手に入らない。「明日お願いしたい」といっても無理で、選択肢がありません。こちらが選べるくらいの品数を作って、増やして欲しいです。

野生的な風味のある野菜が不足している

——将来的に欲しい野菜はありますか?

香り野菜です。野生的な、風味が立ったもので強い青味を感じられるものを求めています。

——や、野生的な風味ですか……!どんなものに使おうとしているのですか?

カリーに続く料理として、麻婆豆腐をブランド化していきたいと思っています。麻婆豆腐を中心とした中国料理に使っていきたいと思います。

——何故、麻婆豆腐を選ばれたのですか?

約50年前から四川料理が日本の食文化に入ってきて、今では麻婆豆腐や青椒肉絲などのレトルト商品がスーパーに並ぶようになりましたよね。
今の子ども達は、日常的に中国料理を食べて育ってきている。10年後、20年後に顧客となる方に、中国料理も求められるのではないかと思っています。

——具体的にはどんな野菜が欲しいのでしょうか。

ニンニクの芽空心菜など、家庭料理でも活躍するような野菜がスーパーにも出ていないのは寂しいですね。また、炒めるだけで凄く美味しくて、スープに入れても良いチシャトウも台湾産が多いです。

二宮氏が求めている中国野菜のリスト。日本では生産量が少ないものが並ぶ

——これを読んでいる農家の方に、ぜひ反応していただきたいですね!

作り手と、私たち買い手がコミュニケーションをとって消費者が求めている食材を作ることで、料理の発展になれば嬉しいですね。

【取材協力】
新宿中村屋

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