「新春座談会『女性と農業』 Vol.3 定着率を上げるための、工夫と環境づくり」では、子育て世代を含む女性の定着率を上げるための、具体的な取り組みについて伺いました。今回はいよいよ最終回。農業と家族の在り方について、また、皆さんの2019年の展望についても伺います。
子育てを農村でできる幸せ感
大津: うちは家族経営なので、今は従業員を雇用していないのですが、農業の参画者を増やすということで言えば、「農家の嫁を増やす」ことには貢献してきています。農業は楽な仕事ではないけれど、子育てや家族の時間を持つという意味では融通が利きやすいですよね。子育てを農村でできる幸せ感は突出しているので、ハッピーな農家の嫁の姿を見てもらうのも大切なのかなと。
倉石: えりさんは、結婚して子どもが1人、2人と増えていくなかで、農業への関わり方やご自身の悩みが変わりましたか?
大津: 全く変わらないですね。子育てに関しては、むしろ想像した以上の良さがありますね。とりあえず、食べ盛りの子どもがいても、コメは買わなくていいし(笑)。お父さんの働く姿を子ども達が見られるということにもキュンキュンきていました。子ども達が父親の仕事についてよく知っていることで、反抗期が来ても父親には尊敬の念をもってくれています。田舎で子育てしたいなと漠然と思っていたんですが、予想していた以上に良かった。
倉石: 三浦さんのところは、農業を始めたことでお子さんとの関係に変化はありましたか?
三浦: そもそも私は「仕事も子育てもあきらめない」という思いで起業しているので、そこは達成できないと意味ないなと思っていて。実際に、田舎っていいですよね。子どもが叫んでも誰も文句言わないし。うちの子が生後3か月くらいまでは恵比寿のマンションに住んでいたんですが、もう泣かせないように泣かせないように私自身小さくなっていて。本当に、ここでこのまま子育てするのはなんなんだろうと感じていました。今は隣が離れていて、かつ牛小屋なので、伸び伸びと自分の心が軽くなりました。
倉石: お母さんもお子さんも伸び伸びしている。
大津: お母さんがイライラしていないから。叫んでいいし走っていいし。ダメっていう回数がまったく違う。私は両親が東京なので、東京のおじいちゃんおばあちゃんのところ連れて来た時には一日中ダメっていっています。走っちゃダメ、叫んじゃダメ、立ちションしちゃダメって。
一同: (笑)
就農は「ハードルの高いこと」?
倉石: ただ、移住を伴ったり新規就農だったり、農業は入るときも出るときもハードルがありますよね。農業以外の業界で転職するよりあえて感がすごくある。皆さんの周りの農業を始めた方々は、そういったハードルを乗り越えてきているんでしょうか?
澤浦: ハードルと思っていないんじゃないかな。うちに来る人は、田舎で子育てしたいというのがまずあって、それでいろいろと職を探したうちの一つが農業だったという人が多いのではないかな。うちの社員さんで最近多いのが、東京で結婚して子育てしていて、子どもが小学校に入る前に家族で移住してくるという人たち。東京でこのまま暮らしていくことに疑問を持って来る夫婦が何組もいる。うちは会社の組織になってはいるけれど、社内結婚も多くて、会社という一つの「ゆい」のようだよね。
倉石: その方の生き方と農業という働き方がうまくはまっているんですかね。
大津: ただ、他の大多数の仕事と違って場所に縛られるということはありますよね。地域によっては、合う合わないというのが絶対ある。都会からでてきて農業を始める、それだけで清水の舞台から飛び降りるので、そこが自分に合う場所や作物ではなかったら、違う場所に行ったり違う作物を作ったりするようなハードルの低さも欲しいなとは思っています。
澤浦: 自分は農家の長男で地元から離れずに実家を継いだので、都会から越してくる良さというか感覚はわからないんですが、でも都会から越してきてうちで働いているある夫婦は、知らない間にそういった都会の人を招いて相談に乗ったりしていて、都会から移住してくる夫婦がどんどん増えている。ありがたいなぁと思って。
倉石: 新規就農しても周りからサポートがないということで戻ってしまうケースもあるそうなので、そういった前例というか相談に乗れるキーパーソンがいることが重要なのかもしれませんね。
大津: 特に、新規就農の人は「やってやろう」と鼻息荒いからなぁ。
澤浦: これまで見ていても、最初に鼻息荒い人は本当にやめていきますよ。
圓地: われわれも新規就農の方に資金とかも融資しているんですが、「ここに入って俺はやるんだ。日本の農業を変えるんだ」というタイプは3年くらいするとかなり苦労していたりしますよね。
大津: そもそも条件のよい農地を新規就農者が借りるのは難しい。そう思うと、息巻いてここで一旗立ててやるというよりも、そもそもの条件不利な場所でもどんな手段を使ってでも生きていこうというような、子育てや生活に重点を置いていることが重要なのかもしれませんね。
ジェンダーフリーな農業のかたちも
大津: そもそも、田舎に移住して家事の概念も変わりましたし。学生の時には、夫とどっちが家事をするかをじゃんけんで決めていたんです。でも田舎に住むようになって、ごくごく自然に、それぞれにやることが決まってきた。チェーンソーを使って薪を作ってきたり、屋根の修理よりは、「炊事と洗濯、やるよ」みたいな。男性がかかわる家のことが、都会になさすぎるんだろうなとも思いますよね。
三浦: 私の場合は女性だから男性だからという感覚が自分の中に全くないのですが、今は家事は基本的に夫がやっています。もともと大手の広告代理店で働いていた夫がいま陰に立って、きちんとフォローしてくれて子供のお迎えにも行ってくれて、家事もやってくれて。本当に強くないとできないと思っています。表に出るのは簡単だけど、絶対に裏で支える人が強くないと成り立たないので。女性の活躍は男性がキーワードというのは本当にそうだなと実感中です。
澤浦: うちには、女性同士のカップルが3組いますよ。カップルごと採用しました。
大津: 周りの人の反応は?
澤浦: なんにも感じていないよ、周りは。LGBTの権利とかそういうのではなくて、自然にそこにいるから。
一同: (感嘆)
では最後に、皆さんに2019年の展望を伺いたいと思います
澤浦: うちは来年から仕事のやり方を大きく変えようと思っています。経営的な生々しい話をすると、戦略的に大きな赤字を出す。栽培を今までのこんにゃくや白菜中心から漬物用原料に全部切り替えようと。去年から取り組み始めて、人も雇用して研修に出したり、投資もしてきました。
そのあとには、群馬県太田市で、加工に使用する原料野菜の周年生産も計画しています。なので、当分は視察や講演はやめていこうと。今まではあれもこれもと模索してきて枝葉がいっぱい茂ったけれど、それらを精査して一番中心の伸びなきゃならないところを伸ばすというのがうちの考え方です。
三浦: うちはまだ4年目なんです。今年はスタート段階で3千万円規模だったのを、夏に倍にしました。今すっごく忙しいのですが、まずは基盤を作って、いずれは需要がある加工品を作る加工場を作りたいと思っています。6次産業化は何年も前から言われているが、加工品を作ったものの、それがきちんと売れなかったという話をよく聞きます。でもその原因は売る場所とか商品が需要に合ったものではなかったというだけであって、ただ「余ったものを加工しました」ではなくて、そのストーリーや、農家さんそれぞれの良さを生かした、需要のある加工品をつくれる加工場を目指して動いています。何年後になるかわからないけれど、そこは達成したいな思っています。
大津: いろいろと自分がこうありたいというイメージがあるんですが、その中の一つに農家が食べ物もエネルギーも作りたいというのがあります。就農の当初から言っていたのですが、やっと実現にむけて動き出しました。ソーラーシェアリングの申請を11月にして、2019年度はうちの畑の3枚でソーラーシェアリングをする予定です。また、自然エネルギー事業をするための会社も起業しているのですが、19年度は温泉施設にチップボイラーを導入する方向で動いています。さらに翌年には小水力も形にしたい。
農家がエネルギーを作り出すことは、個人的に私たち家族の生き方としてもですが、社会的インパクトも大きいと思うんです。例えば、北海道地震で停電の影響で多くの酪農家が打撃を受けましたが、もし家畜の糞尿で発電していたらこれほど深刻な事態は免れたかもしれない。農業の多面的機能、つまり農家が風景や生態系も守っているということも発信していけたらと思っています。
【2019新春座談会「女性と農業」】
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