【プロフィール】
株式会社三越伊勢丹 食品・レストランMD統括部 新宿食品・レストラン営業部フレッシュマーケット バイヤー林 真嗣(はやし・しんじ) 2005年より食品担当に。ワイン担当等を経て現在は伊勢丹新宿店の生鮮バイヤー。生産者の気持ちに寄り添いながら食材のおいしさを伝えるために日々奮闘中。プライベートでも自らキッチンに立つ料理好きの育メン。お酒を飲みながら仲間とワイワイ楽しむのが息抜きの時間。 |
お客様は「新しさ」と「驚き」を求めている
——新宿店は年間約2,500万人もの方が来店されるそうですね。
厳選野菜売り場「ファーマーズクリエーション」に来られるお客様はどんな方ですか?
興味の幅が広く、食事を作ることへの関心が強い方ですね。服やバッグ同様、食に対しても「新しさ」や「驚き」が求められています。
——確かに、店頭には色鮮やかで珍しい野菜が多いですね。どの位前から珍しい野菜を置いているのですか?
「ファーマーズクリエーション」を作ったのが10年程前です。西洋野菜など色んな野菜が入ってきて、消費者の関心も高まってきたというのが背景です。
——売り方で工夫されている点はありますか?
今までは「トマト安いよ、新鮮だよ!」という感じで、美味しいトマトの選び方を紹介するのが主流でした。「トマトってどんな野菜ですか?」なんて聞く人はいませんからね。
それが、お客様が見たことがない野菜に関心を持って、手に取るようになった。すると、「安い」や「新鮮」以外の情報が求められるんです。
そのため、野菜の味や切り方、調理法を知っている人が、お客様にあった提案をするようにしています。
——例えばどんな方がいるのでしょう?
日本で143名しかいない「野菜ソムリエ上級プロ(※)」の有資格者が売り場に常駐しています。うちの名物販売員ですよ。
※日本野菜ソムリエ協会 野菜ソムリエ 受講生・修了生データ(2017年7月末日現在)
専属のシェフもいます。買った食材とご自宅にあるもので作れるレシピを紹介していますよ。
お客様の中には、安全な食を求めて赤ちゃんやお子さんのために買われる方もいて、離乳食の相談なんかもあります。
――野菜そのものの珍しさだけでなく、人が伝える情報にも「新しさ」や「驚き」があるんですね。
厳選農家に共通する「魅せる力」とは
——契約生産者は年間30件程と超厳選ですね。選ばれた農家さんに共通している点はありますか?
お客様が「買いたい」「料理してみたい」と思わせる力があります。
最近、生産者をブランド化する魅せ方が増えていますが、「この野菜はこの人が作ったから美味しい」までは言えても、「何故この人が作ると美味しいのか」まで伝えられる方は少ない。そこまで伝えられる稀な方が多いですね。
パッケージや野菜のセットアップの上手さも大事です。
お客様は、美味しいものを少しずつ、残さず食べたいという方が多いなかで、大きな白菜をドカンと出したって売れません。色んな品目の野菜を少しずつ、色合いや形も考えてセットアップできる方の商品は、消費者にも刺さります。
——林さんが「凄い!」と思う生産者さんはどなたですか?
店頭に並んでいて目を惹く大吉(だいきち)農園さんは上手です。ブーケのように束ねたケールは「なんの野菜だろう?」と思わず手にとるお客様もいます。すごく研究されていると思いますよ。
コスモファームさんは色合いや野菜の組み合わせがうまいです。少量多品目栽培の強みを出せていると思います。
画期的なのは、福島県でネギを作っている佐藤忠保さん。
秋冬、厳冬、春と、1年で3回味が変わる点を売りにしています。秋口に食べたお客様は、冬の味、春の味も気になっちゃう。珍しい野菜でもなく、1つの品種のネギを長く食べてもらうという、新しい魅せ方です。
——ネギで勝負すると決めて、「なぜ美味しいのか」まで伝えられる稀有な農家さんですね。
農家さんしか知らないことで、言語化されていないことっていっぱいあるんですよ。
小売店は、それを引き出して翻訳し、お客様に伝えていくのが仕事なんですが、農業法人にも魅せ方の専門家がいたっていいと思います。そのくらい、伝えることは重要になっていますから。
三位一体で種から開発する時代に
——これからどんな野菜があったらいいと思いますか?
そんなのこっちが聞きたいですよ!(笑)
街の人に聞いたって、「甘い野菜」とか「美味しい野菜」とか、そういう答えしか出ないでしょう。消費者は野菜に具体的なニーズなんて持って無いんです!
——す、すみません……。いま人気のイタリア野菜なんかは、お客様のニーズがあるから生産者が作っているのかと思っていましたが、違うんですか?
イタリア料理のシェフたちの声から農家が作り始めたと聞いていますよ。それが農家ネットワークで全国に広がって、ブームになったそうです。消費者ニーズから生まれたブームではないんです。
——これからもそれは続くのでしょうか。
イタリア野菜も、いずれはニンジンやタマネギのように当たり前にある野菜になるでしょう。その時に、お客様に「新しさ」や「驚き」を提供するには、小売業が種苗会社とともに新しい種を開発し、農家と協力してお客様に提案する時代に変えていかないといけないと思っています。
——ブームを待つのではなく、作っていくんですね。そんな時、どんな農家さんと一緒に仕事をしたいですか?
ニーズがないところに提案していくので、売れるために工夫して欲しいことなど、お互いに都合の良くないことも言い合って改善しあえる方ですね。
作り手のやりがいや誇りが詰まった野菜は、人に驚きや感動を与えますから。
【取材協力・写真提供】
株式会社三越伊勢丹 新宿店
豊洲ICHIBA(株式会社 食文化)
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