ウエディング用バラの栽培から転身
横田園芸は3代続くバラ農家です。横田敬一さんも、11年前までは水耕栽培で観賞用のバラを栽培していました。20歳で家業でもあるバラの栽培を始めてから、見た目の美しさと大きさ、日持ちをさらに追及。「ブライダルローズ」とブランド化し、ウエディング用を中心に高級バラとして販売していました。移り変わりの速いウエディング業界に常に新たな提案ができるよう次々と新しい品種に挑戦し、自ら新品種を3種開発するなど観賞用バラ栽培の最先端を歩んできました。
しかし、ある時、見た目を追求するバラの栽培が「嫌になった」といいます。
「水耕栽培で化学肥料を大量に投入し、虫がつかないように大量の農薬を使っていました。特に、農薬は終わりがない。しばらく使っていると、それより強い虫が出てくる。対応するためにどんどん値段の高い農薬に手を出し、最後には外国から強い農薬を取り寄せて防毒マスクをつけて散布していました。そこまでしてキレイな花が必要だろうか、と疲れてしまった。花嫁さんのテーブルや髪を彩る花が農薬まみれでいいのだろうかという気持ちもありました」。
農薬を辞めるなら食用に、と、食用バラの栽培に挑戦を始めた横田さん。2年間、有機系農薬を使って栽培し、手ごたえを得ると、完全に農薬・肥料を使わない栽培に切り替えました。
「食用ならば味にもこだわりたい」と、自ら200品種以上の大輪バラを食べ比べ、そのうち香りが良く食味・味が優れた4品種を栽培しています。
害虫・病気との戦い「日々試行錯誤」
肥料と農薬を使わない栽培を始めてすでに8年が経ちますが、もともと虫や病気に弱い観賞用のバラを肥料・農薬なしに育てるためには、今でも日々試行錯誤の連続だといいます。
「良い香りを出して虫を寄せ付けて交配するのですから、虫は来て当たり前ですよね。ハーブ類は虫を寄せ付けないと聞いて植えたこともありますが、逆にハーブを避けた虫がバラに集中(笑)。では逆に虫を寄せる植物を植えればいいと、今はバラの間にピーマンやナスを植えています」。
アブラムシ対策にテントウムシを放ったり、様々な害虫を捕食してくれるクモは大事にしたり。生態系のバランスをある程度利用できるようになるまで、5年はかかったそうです。いまでも効果的な駆除方法が見つからない虫については、手で一つ一つ駆除しています。
一方で、肥料・農薬を使わない栽培を続けることで、次第にバラが病気や害虫に強くなってきたことも実感しているとか。現在のバラは小ぶりなうえに芽が出る数が少なく、収量は三分の一になりましたが、香りの美しさは逆に際立ってきたといいます。
「水耕栽培をしていたころは、肥料も農薬もめいっぱい与えていました。人間で言えば、肥料で成人病予備軍のような状態にし、自ら病気や虫から身を守る力を奪っていたのだと思います。逆に今の方ががっしり育つし、虫にも強い。バラ本来のピュアな香りが際立ってきました」。
味にもこだわって栽培される横田さんのバラは、柔らかくもシャキっとしたサラダホウレンソウのような食感。ハーブのように、口の中に香りが広がります。
現在では、レストランやケーキ屋、結婚式場などで扱われているほか、「香りを食べる」ことをテーマにした高級アイスクリームとして販売もされています。
ウエディング用からの切り替え、収入は?
栽培に手間がかかる上に収量も三分の一という現在の「食用ばら」。一方で、収入は最高級のウエディング用のバラを栽培していた当時と変わらない水準を維持しているという横田さん。収入については、栽培を切り替える時から綿密に計算していたといいます。
「食用に栽培を始めた当初から、飲食店とウエディングを中心に販路を作っていこうと決めていました。切り花を栽培し市場に出荷していた当時、花屋の店頭では出荷価格の5倍近い値段がついていました。ということは、食用のバラを3倍の値段で売っても飲食店側にはお得感がある。収量が減る分はそのように計算していました」。
全体の売り上げは減っても、肥料や農薬といった経費が大きく減り、手元に残るお金は変わっていないそうです。
まだ食用バラがあまり認知されていなかった当時、販路の開拓にも工夫を凝らしました。
肥料・農薬なしで食用バラを作り始めると、まず、市役所の記者クラブにプレスリリースを投函。地元の新聞やテレビの取材を受けると、全国ネットのテレビや雑誌でも取り上げられるようになりました。また、SNSを通して全国のレストラン関係者とつながり、取り組みを常に発信し続けています。
さらに、品質が安定し販路がきちんとできるまでの数年をつなぐために、食用を始めた当初からジャムづくりにも取り組んでいました。
こういった努力が実を結び、取引先は次第に拡大。ここ数年は生花のバラの売れ行きが好調で、ジャムづくりまでバラが回らなくなってきたため、来シーズンからはバラの増産をする予定だといいます。
食用バラの栽培を始めて、バラを栽培することへの魅力がさらに増したという横田さん。
「バラも一つ一つ味が違うことが分かり、今は美味しさを追求するのが楽しい。切り花は日持ちや見てくれを追求するだけでしたが、そこに『味』という要素が加わり、さらに奥深くなりました」。
食用バラの魅力を広げようと、横田園芸では新規参入者への研修も始めています。「食べられる花」として一般的なエディブルフラワーを超え、見た目だけでなく味にもこだわる「食べるためのバラ」を、消費者が日常的に楽しむ日も近いのかもしれません。
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