【プロフィール】
総料理長 ミカエル ミカエリディス 2012年にジョエル・ロブション氏のチームに加わり、香港の店舗のシェフに就任。2014年にシンガポール店のエグゼクティブシェフに就任し、『ミシュランガイドシンガポール2016』にて「ジョエル・ロブション レストラン」が三つ星、「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」が二つ星を獲得。翌年の『ミシュランガイドシンガポール2017』ではシンガポール唯一の三つ星を獲得。同年11年に日本の店舗の総料理長に就任。 |
シェフ 坂部 政磯(さかべ・まさき) 専門学校卒業後、ホテルでの経験を経て2005年よりガストロノミー”ジョエル・ロブション”で勤務。2015年にガストロノミー”ジョエル・ロブション”シェフに就任。 |
フランスシェフから見た日本食材の特徴
——日本の「ジョエル・ロブション」に訪れるお客様はどんな方が多いのでしょうか。
坂部氏:海外のロブションに訪れ、日本でも食べてみたいと言う方や、季節ごとに提供している「ロブションのスペシャリテ」を楽しみに定期的に来られる方、外国人観光客の方も多いです。
皆さま共通して美食家で、本場フランス料理のテイストと、ロブションならではの味を楽しみに来ていただいています。
——日本で本場のフランス料理を提供する上で、日本食材とフランスの食材をどう使い分けていますか?
坂部氏:双方の味を比べて、どちらの食材を使うか決めています。
フランス料理に欠かせないと言われるキノコ類に関しては、ジロールやモリーユはフランス産を、秋は日本産のマツタケを使うなど、産地の特色を生かして使っています。
日本産でもフランス産でもないものとして、アーティチョークやトリュフはその時期で最も良い状態のものを、イタリアやベルギーからも仕入れることもあります。
全ての食材の基準は、味がしっかりしていること、形が綺麗で均一であることです。
ミカエル氏:ロブションは世界に店舗展開をしているので、フランス食材だけでなく、その土地のおいしいものを取り入れるようにしているんですよ。
——日本食材の仕入れ方法も様々だと思いますが、農家さんから直接仕入れる際の基準はありますか?
ミカエル氏:ジョエル・ロブションのために栽培している、特別な食材であることです。
その上で、皿に乗せた時のハーモニーとして、彩り、形、大きさも大切です。
加えて、栽培方法や持続可能な農業への取り組みなど、生産者がこだわりを持って農業をしているかも大事にしています。
お客様とのコミュニケーションの中で、作り手のことも伝えていきたいと思っているので。
坂部氏:“ロブション仕様”で作ってもらっていることが、ひとつの基準でしょうか。
新芽のスプラウトなんかは、「何センチのものを欲しい」と具体的に指定して、ぴったりその長さになったら収穫してもらっています。味や形のリクエストも、都度しているので、一緒に試行錯誤しながらできるかが大切ですね。
フランス料理と相性の良い日本食材
——ミカエルシェフは、海外のロブションでも様々な国の食材を扱っていたと思います。日本食材はいかがですか?
ミカエル氏:まず、野菜の鮮度がとても良いことに驚きました。日々厨房に運ばれる野菜はとても綺麗な状態で、生産者の作物に対する愛情を感じました。
日本に来る前はシンガポール店にいたのですが、シンガポールは栽培環境が乏しく、輸入に頼らざるを得ない国でした。
食材は冷凍された状態で輸入されるため、新鮮な食材を使えなかった。いま新鮮でカラフルな食材を使うことができて、非常にラッキーなシェフだと思っていますよ。
——フランス料理に合う日本食材は何でしょうか?
ミカエル氏:ナス、トマト、ズッキーニ、豆類は非常に質が高いです。
私のメニューにも多く取り入れていて、特にナスは良いですね。ロブションでもよく提供するメニューで「ナスのキャビア」があるのですが、冷たくても温かくてもおいしく、力を入れて作る料理のひとつです。
ロブション氏は生前、日本にとても親しみを持っており、よく日本食材をスペシャリテに使っていました。
ウニ、大根、トウモロコシなどは、スープやコンフィ、メインなど様々な調理法で提供していましたね。
——農家さんに作ってほしい食材はありますか?
坂部氏:粒の小さなソラマメです。
一度探したことがあるのですが、国産ではなかなか見つけることができず、今は大きなものを切って使っています。でも、できるなら小さな1粒をそのまま使えると、見た目も美しいので嬉しいですね。
その他にも、私もまだ出会えていないおいしい食材や素晴らしい農家さんがたくさんいらっしゃると思うので、もっと知りたいです。
——農家さんからもっとお薦め野菜を発信してもらえると良いですね。
ロブション氏から学ぶ人生の教訓とこれから
——ミカエルシェフがロブション氏から学んだことは何でしょうか。
ミカエル氏:たくさんあるのですが、1つ挙げるとすれば「五感を研ぎ澄ます」ことです。
五感は全ての料理の根幹となるため、五感を鍛えてセンスを磨くように教えられました。私の人生の教訓でもあり、いまでも常に実践していることです。
また、ロブション氏は食材本来の特徴を良いかたちで提供することを大切にしており、メインとなる食材に足す食材は最高でも2つまでを基本としていました。私たちもその遺志を受けて実践しています。
ロブション氏は常に、「お客様へ愛情をもっておもてなしをすること」を信念にしていました。
今、私たちがその姿勢を受け継いでジョエル・ロブションを守っていますが、その一方で、時と共に変化するお客様の要望に沿って、新しい料理も作り上げていきたいと思っています。
例えば私がシンガポールで働いていた数年前は、ちょうどヴィーガンやグルテンフリーを求めるお客様が増え始めた頃で、メニューにも工夫をしていました。こうした流れには対応していきたいですね。
——最近、お客様の変化で感じていることはありますか?
ミカエル氏:最近の傾向はトレーサビリティです。
「自分がいま食べている食材は、誰が、どこで、どういう環境で作ったものなのか?」ということに関心が高まってきています。この思いに応えるためには、生産者との繋がりや生産現場を知ることは必要不可欠になってきます。
——最後に、これからのジョエル・ロブションについてお聞かせください。
ミカエル氏:伝統を守りつつ時代に沿ったものを作っていくのはお話しした通りなのですが、私の信条としては、ロブションに来るお客様に想像を超える驚きを提供したい。
私が考える驚きとは芸術性です。
皿の上の芸術をどう表現していくか──。そこにボーダーはないと思っているので、創造できうる全てのことを実践していきたいと思っています。
【取材協力・写真提供】
ジョエル・ロブション
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