大型獣
イノシシ
「豚コレラ」はブタとイノシシの病気で、人にうつることはありません。豚コレラにかかった動物の肉を食べて人に感染するということは世界的に報告されていません。しかし、ブタとイノシシにおいては強い伝染力と高い致死率が特徴で、現在も家畜業界へ甚大な被害を及ぼしています。
イノシシから人にうつる主な共通感染症は「E型肝炎」です。加熱不十分な肉や内臓を食べると感染する可能性があります。E型肝炎は、約6週間の潜伏期の後、発熱、嘔吐などの症状があらわれ、致死率は1~3%です。
シシ肉に限らず、野生のジビエ肉を食べる場合は寄生虫などによる食中毒のリスクもあるため、十分に加熱処理することが原則です。
シカ
シカもイノシシと同様に、E型肝炎がうつるリスクがあります。その他、ふん、肉、内臓等を食べることで感染する「腸管出血性大腸菌感染症」、乾燥したふんや毛などを吸い込むと感染する「Q熱」などの感染源でもあります。
小~中型獣
アライグマ
アライグマは「狂犬病」を媒介します。唾液から感染するため、かまれないよう注意してください。狂犬病は、感染後14~90日で発症し、昏睡・呼吸障害などを起こします。発症した場合の致死率は、ほぼ100%と言われています(現在では国内の発生はありません)。
また、寄生虫の一種であるアライグマ回虫は、人がふんに触れるなどして回虫の卵を口にしてしまうと、幼虫が体内を移動して重大な神経障害を引き起こす原因になります。
他にも、アライグマはE型肝炎や「レプトスピラ症(ノネズミの項目参照)」などの感染源でもあります。
キタキツネ
北海道のキタキツネは「エキノコックス症」の感染源です。ふんにエキノコックスという寄生虫の卵を排出し、それが人の手指や水などを介して口から入ることにより感染します。成人では感染してから初期症状が現れるまでに通常10年以上かかります。北海道では、毎年10~20人の患者が発生しています。
イヌからもエキノコックスの寄生虫が見つかっているため、注意が必要です。
ノウサギ
ノウサギの皮をはいだり、調理をしたりする際に「野兎(やと)病」に感染する恐れがあります。野兎病はインフルエンザのような発熱、悪寒、頭痛、倦怠感などの症状を引き起こします。
ノネズミなど、げっ歯類
保菌動物の尿や、尿に汚染された水に触ると「レプトスピラ症」に感染する可能性があります。沖縄県では、水田で農作業をしていた人が発症しました。レプトスピラ症は、5~14日の潜伏期のあとに急激な発熱、吐き気などが現れ、重症化すると臓器不全などに陥ることもあります。
他にも、ノネズミなどのげっ歯類は、「腎症候性出血熱(HFRS)」、野兎病などの感染源でもあります。
鳥類
オウム、インコ、ハトなどのふんや排せつ物を含む粉じんを吸い込んだり、口移しでエサを与えたりすると「オウム病」に感染する恐れがあります。感染すると、肺炎などの気道感染症を起こします。
「鳥インフルエンザ」は、通常は人に感染しませんが、感染した鳥に直接何度も触れるなど濃厚な接触をした場合、極めてまれに人に感染することがあります(日本では発症した人は確認されていません)。
鳥インフルエンザにかかった鳥の肉を食べて人に感染するということは世界的に報告されていません。しかし、家きんが高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染すると、その多くが死んでしまい大きな被害となります。
マダニに注意!
農家や狩猟者に最も身近な存在であり、細心の注意を払わねばならないのはマダニです。野生動物だけでなく散歩中のイヌにも付着し、畑やあぜ道、民家の裏庭などにもいます。
マダニは、シカやげっ歯類などが感染源の「日本紅斑熱」、シカやイノシシなどが感染源の「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」、げっ歯類や鳥類が感染源の「ライム病」、ノウサギやげっ歯類が感染源の「野兎病」など、多くの感染症を媒介します。
マダニにかまれないためには、農作業や狩猟で草むらやヤブなどに入る際、長袖、長ズボン、長靴、帽子、手袋、首にタオルを巻くなど、できるだけ肌の露出をなくすことが大事です。マダニにかまれたら、無理やり取ってはいけません。マダニの一部が皮膚に残り、感染症がうつる恐れがあります。すぐ医療機関(皮膚科)に行って処置してください。
感染症を防ぐためにも、身近な野生動物がどのような病原体を持っているのか、よく知っておく必要があります。基本的に野生動物は清潔なものではないと理解し、素手で触る、餌付けをするなどの行為は絶対にやめましょう。
参考文献:
「狩猟読本」(大日本猟友会)
「これからはじめる狩猟入門」(ナツメ社)
「けもの道 2019春号」(三才ブックス)